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異能と愛にあふれた世界で  作者: かい
序章
7/14

決着

 張り詰めた空気が漂う。もう何日も繰り返されて来たその立ち合いは、そろそろ終わりの時が近づいてきていた。

 シスターがフッと笑う、俺もそれにつられて笑みがこぼれた。


 ―――――勝負は一瞬で決まる。


 そう確信した俺は、脚力を強化し一気に走り始めた。

 だが、走るのはシスターに向かってではなく、()()()()だ。


 シスターを中心にぐるぐると回る。

 ぶっちゃけ酔いそうだが、気合でこらえる。


 一年にも及ぶ修行で俺が導き出した結論はこれだった。

 千里眼を持つシスターに死角という概念はなく、いくら裏をかこうが意味がない。


 故に、見えていても躱せない攻撃をする必要があった。そのとっかかりがこれだ。


 円の中のシスターはまるで動揺した様子はない。

 想定内だが、もう少し焦ってほしかったな。


 ――――――そろそろ俺の強化も限界だ、行くぜ!


 弾けるように、シスターに向かって飛び込む。

 しかし、一年をかけて編み出し、三半規管も犠牲にした一撃はあっさりと躱された。


 シスターの姿が消える。

 いつものパターンならここで投げられて終わりだ。


 ――――――だが、躱されることも想定内だ!


 繰り出した右拳を引き戻し、俺の右側面に()()()()()()()()()()に左拳を叩き込む。


 案の定、俺の右側面に回り込んでいたシスターは、あからさまに驚いた顔をしている。

 

 シスターにはある癖があった。

 それは俺の最初の一撃を躱す時は、かなりの確率で右側面に回り込むというものだ。


 そこを狙い打った俺の一撃は、――――シスターに反応された。


 シスターは驚きながらも、足はすでにステップの予備動作に入っている。

 俺の攻撃はあと一歩届かなかった。


 ……流石ですシスター。やっぱりあなたは凄い人だ。―――――だから


 俺は放っていた左ストレートを途中で()()()。力を入れることすらしていない拳は、なんの抵抗もなく止まった。


 ――――――躱してくると思ってた!


 そして、目を強化してシスターのステップの着地地点を予測。

 そこに向かって、飛び込んだ。


 今度こそ避けられない。

 咄嗟にガードしようと手を上げようとしているが、―――遅い!


 俺がこの修行で学んだのはシスターの癖だけじゃない。

 むしろこっちが本命だ。


 拳を構えながら()()()()()()()()


 今までパンチを打つときは腕、ダッシュするときは足という風に、強化の部位が偏っていた。

 でもそれじゃあだめだ。パンチは腕だけでするものじゃないし、ダッシュも足だけでするものではない。

 強力なパンチを放つには、土台となる足腰の力が大切だし、素早くダッシュしようと思ったら、腕の力は必須である。


 ――――――足を強化して土台を作り、腰を強化して捻りをつけ、腕を強化して破壊力を上げる!

 

 これが俺が編み出した最強の拳。


「――――『堕撃(だげき)』」


 正真正銘、最後の一撃がシスターに迫った――――!









 銀色の綺麗な髪の毛が、風圧に押されてフワッと凪いだ。

 俺の拳はシスターの顔の目の前で止まっていた。


「……何故止めたのですか」


 全力の拳を無理やり止めたせいで、俺の体は悲鳴を上げていた。

 こうなることは分かっていた。でも、どうしてもできなかった。


「…………言ったじゃないですか………シスターを殴るなんて出来ないって」

「……ここが戦場なら貴方は死んでいますよ。その甘さのせいで」

「そうですね………」


 シスターは呆れたようにため息を付くと、俺の体を抱きかかえた。

 左手を足の下に通し、右手を背中に当てて、横に抱く。その抱え方は俗にいうお姫様抱っこというものだった。


「……あ、あの、シスター?」

「何ですか?」

「……恥ずかしいんですけど」

「黙って担がれてなさい。歩けないのでしょう?」

「…………はい」


 俺が怪我人であることは確かだが、それはそれとしてシスターのような女性に担がれるのは男としては気恥ずかしいものがある。


 しばらく、担がれて歩いているとシスターが喋りだした。


「……貴方のその優しさは、今後貴方を苦しめるでしょう」

「……」

「百人を救うために一人を犠牲にしないといけないこともあります。そして、誰を犠牲にするかを決めるのは力ある者たちです」

「大陸最強の異能者になるとはそういうことです。―――――貴方にその決断が下せますか?」


 そういうシスターの言葉は厳しい。でもそれは、俺のことを思っての厳しさだということは分かっている。

 どうしても心の中の甘さが捨てきれない。非情になり切れない。俺は異能者には向いて「ですが」………え?

 

「貴方のその弱さは、突き詰めればだれにも負けない強さになります。」


 それって………。


「変わる必要はありません。貴方は貴方のまま夢を目指しなさい。――――どうせなら突き抜けちゃえばいいんです」


 そう言って子供のように、無邪気に笑うシスター。


「……忘れないで下さいね。その胸の内にある気持ちを、いつまでも」

「…………はい!」


 そう言って返事をした俺の心にもう迷いはなかった。

 



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