裏側
孤児院のとある一室、普段は応接室として使うことの多い部屋の中で、一人の女性が座っていた。
孤児院でシスターと呼ばれているその女性は、目の前の机の引き出しから四角形の箱を取り出した。
煌びやかな装飾が施されたその箱は一目見て高価なものだとわかる。
孤児院の簡素な雰囲気とは明らかにかけ離れたそれを、シスターは慣れた様子で開けた。
箱の中には一つの大きな宝石がはめ込まれている。
その宝石に手を置きながら、静かに言葉を放つ。
「―――二ルクス・ジルゼアムにコール」
直後、宝石が光り、ノイズとともに声が聞こえた。
【―――やあ。どうしたんだい、定時連絡以外で君が連絡してくるなんて珍しいね】
「随分出るのが早いですね。箱の前で待っていたんですか?」
【ハハハッ。違うよ、ちょうど僕も君に連絡しようと思っていてね。タイミングが良かったね。いや悪かったのかな?】
箱から、親しげな様子で話しかけてくる男の声が聞こえる。
軽口を言い合いながら会話をする様子は、二人が旧知の仲であることを感じさせた。
しかし、そんな男の声はまるで子供のように高く、どこかちぐはぐだ。
「本題に入りましょう。……今年から『レムリア』からも留学生を取ると聞きました。」
【その通りだよ。学園にとっては初めての試みになるね】
「……それも”予言”に関係することなのですか?」
【それ以上はいくら君でも答えられないよ。】
「……そうですか」
【……まだ引きずっているのかい? あの時のことを】
「そうではありません。……ただ、運命のようなものを感じてしまっただけです」
少しの間沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは男の方だった。
【次は僕からも聞いていいかい?】
「どうぞ」
【どうして、学園に推薦状を出したんだい?】
「……」
【君は今まで、孤児を学園に送ることに否定的だったじゃないか】
「孤児ではありません。私の子供たちです。」
【……すまない。言い方が悪かったね。】
男が自身の失言に謝罪をする。それを聞いたシスターはひと呼吸おいて言った。
「あの子を学園に推薦した理由は簡単ですよ」
【……ほう】
「ジンはこの世界の”救世主”になる男ですから」
【………フッ、フハハハ!】
男は少しの間笑うと、可笑しくてたまらないといった調子で言葉を続ける。
【すまないね。馬鹿にしたわけじゃないんだ、ただ君の口からそんな言葉がでてくるなんて思わなかったものだからね。こらえられなかったよ】
「気にしていませんよ。そういう人だと昔からよく知っていますから」
【それならよかったよ。………それより本当にいいのかい? 君の息子だからといって学園に来る以上、危険は常に付き纏うよ】
「問題ありませんよ。―――あなたに使い潰されるほどやわじゃありませんから」
【……そうかい。 それは本当に―――】
―――――楽しみだよ。
男はそう言って不敵に笑った。