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異能と愛にあふれた世界で  作者: かい
序章
5/14

在りし日の記憶

 俺は孤児院の中を走っていた。扉も人も何もかも大きくなった世界で俺は何かを探していた。

 何を探しているのかは分からない。人だったような気もするし、物だったような気もする。

 

 見つけなくてはいけないという焦燥感に突き動かされるままに走る。早く見つけないと手遅れになってしまう。何故だかそう思った。

 

 そして俺はようやく見つけた。腰まで伸びた赤い髪の少女。一目で探しているものだと分かった。

 髪が赤いということはローザか? いや違う、この頃の孤児院には彼女はまだいなかった。


 俺はようやく見つけた少女の名前を呼びながら近づく。


「―――■■■■!」


 ただ、その声にはノイズがかかっており聞き取れない。


 名前を呼ばれた少女が振り返る。

 顔を見れば思い出せるかもしれない。


 辺りが明るくなる。そんな折角ここまで来たのに。

 

 せめて顔だけでも―――!





 こちらを覗き込む緑色の目をした少女の顔が、視界に入る。


「……あ、起きた」

 

いつものように起こしに来てくれたユエだった。


「……ああ、なんだ、ユエか」

「……なんだとはなんだ」


 俺の言葉に、ムスッとして不機嫌そうな顔になるユエ。

 まずい、何とかしなくては。


「あ、いや! 別にそういう意味で言ったわけじゃないんだ! ただ少し変な夢を見てて、寝ぼけててな」

「……女の人に会う夢?」


 ユエのその言葉に、驚く。


「何で分かったんだ?」


 俺がそう言うと、ユエは不機嫌であることを隠さずに言った。


「…………名前呼んでた、何回も」


 俺があの少女の名前を?


「な、何て言ってた!? 誰の名前を呼んでたんだ俺は」

「…………………よく聞きとれなかった」

「な、何でもいい。違っててもいいから、何て言ってたか教えてくれ!」

「……大きな声出すとみんな起きちゃうよ」

「あ、す、すまん」

「いいよ。…………シスターが待ってる、早く行ったほうがいいよ」

「……そうだな」


 結局名前は分からなかったが、仕方ない。いつか思い出せる日が来るだろう。

 自分のベットに戻っていくユエの姿を見送りながら、ふと思った。


 あれ? ユエは名前は聞き取れなかったって言ってたけど、なんで俺が夢で会ったのが女の人だってわかったんだ?


「……まぁ、いっか」

 

 取り敢えず今はシスターに一撃入れることを考えよう……。


 着替えて孤児院の外に出る。

 身を裂くような冷たい風に、思わず「さぶっ」という声がでる。

 シスターと初めて立会いをした頃には青々と茂っていた木々は、今はもれなく葉を散らしていた。


 夢を目指し始めてから約半年がたった。

 この冬が終わり、春が来る頃にはグラストボーン学園の入学試験が行われる。


 それまでに、少しでも強くなっておかなければいけない。




「では、始めましょうか」

「よろしくお願いします!」


 その声と同時に、異能を使い脚力を強化した俺は、シスターを()()()()()

 始まると同時に飛び出して奇襲をかけ、さらには後ろに回り込むことで二重で裏をかいた。

 これならどうだ……!

 シスターはまだ後ろを向いている。


 シスターが反応する前に攻撃をしようとした俺は、拳を繰りだす。

 完全に入ったと思った拳はしかし、手応えなく空を切る。


 完全にバランスを崩した俺は、あっさりとシスターに倒された。





「……ようやく分かりましたよ」


 無様に倒された俺は、にもかかわらず不敵に笑う。

 

「ズバリ! シスターの異能は視野を広げるものですね!」


 俺はしてやったりといった表情で、シスターを指さして言う。


「だからこそ、後ろを向いていても攻撃をかわせたんたんだ!」

 

 どうだ! 図星だろ!


 それを聞いたシスターはパチパチと手をたたいて言う。


「お見事です。少し遅いですが、自分で気づけましたね」


「私の異能は”千里眼”といいます。半径一キロ以内なら私に見えないものはありません」


 俺は自分の予想があっていたことに喜ぶ。だが、そこであることに気が付いた。

 シスターの異能が千里眼ということは、もしかして俺の”秘蔵本”のことも……。


「心配しなくても大丈夫ですよ。表紙しか見ていませんから」

「うわーー! やっぱりーー!」

「そんなことより、あなたにいいお話があります」

「そんなことって……」


 俺にとっては一大事なんだけど……。


 シスターは俺の目を真っ直ぐ見ると言った。


「貴方の日頃の努力と成績が認められ、グラストボーン学園の特待生候補に選ばれました」


 …………え?

 

「これで、貴方が一番気にしていた、学費の問題は解決しましたね」

「ちょ、ちょっとすいません。特待生候補って何ですか?」

「学園には、中等部で優秀な成績を残した学生の学費が免除される、特待生制度があります。それに私が貴方を推薦し、受理されました。候補なのはまだ入学試験に合格していないからですね」

「…………」


 何だか急すぎて、実感がわかない。でも……。


「シスター……、ありがとうございます。」

「私は貴方の日頃の行いを伝えただけです。特待生候補に選ばれたのは、ジンの努力が認められたからです」

「それでも……、感謝を伝えさせて下さい」


 そう言って、俺は頭を下げた。本当にこの人には頭が上がらない。いつか必ず恩返しをしないといけない。


「さて、そろそろ朝食の時間ですね」

「俺、みんなを起こしてきます」

「お願いします」


 俺が特待生候補に選ばれたことを、みんなにも話してやろう。きっと喜んでくれるに違いない。





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