異能の歴史
「あんた、グラストボーン受けるってホント?」
ユエと食堂に来ていた俺は、来て早々そんな質問をされた。
短く整えた赤髪に、緋色の目をした少女の名前はローザという。
気が強くプライドの高い彼女は、女子グループのリーダー的存在だ。年は俺の一つ下の14歳である。
「すげぇよな! あのグラストボーンだぜ!」
「ケビンは黙ってて」
そしてローザの隣にいる、髪を刈り揃えた金髪の少年がケビンという。
ローザと同い年で、素直で元気いっぱいのいい奴だ。
話に割り込んできたケビンに釘を刺したローザは改めてこちらに向かって言う。
「で、どうなの? 受けるの?」
なぜ彼女がそんなことを聞いてくるのかは分からないが、噓をつく必要はないので正直に答える。
「ああ、受けるつもりだ」
「……グラストボーンがどういうところか分かってて言ってんの?」
―――王立異能者教育機関 グラストボーン学園
この学園に関して説明をするためには、少し時代を遡る必要がある。
今から約二百年前、大陸の至る所で特殊な力をもった子供が生まれた。
当時のガルド大陸では『フィオナ』を含む四ヶ国で大陸の覇を競って争っており、戦場の主役は鎧に身を包んだ騎士であった。
そんな中で突如現れた未知の力に、各国が注目するのは当然のことだった。
大陸で異能と名付けられた力を持って生まれた、最初の世代の子供たちは”ファースト”と呼ばれ、誕生から十年がたった時に、西の海洋国家『サンメラ』が初めて前線に投入したことを皮切りに、他の国でも戦場に配備され始めた。
後に異能大戦と呼ばれるこの戦争は、『フィオナ』に稀代の名君と名高い”サウロア・フィン・グラストボーン”が即位し、僅か十年で戦争を終わらせるまで、泥沼の争いが続いた。
四大国唯一の戦勝国となった『フィオナ』は王都グラエボで結ばれた”グラエボ条約”によって王都に建設予定の、異能者教育機関に国内の要人の子供を通わせるように要求した。
グラストボーン学園は全寮制の学園であり、入学したら三年間の教育課程を終えるまで帰ることができない。
つまり各国の人質を確保するという外交的利益を得るための要求であった。
この要求に異能大戦の口火を切った『サンメラ』、北の『マナーゲル』は同意したが、東の『レリアテ』だけは拒否したため小競り合いが続いた。が、十年ほど前に降伏し、条約に同意している。
最も『レリアテ』の人間は学園には通っていない。それは『レリアテ』とその他の国の関係が悪く、国内で反対運動が起こったためである。
つまり、グラストボーン学園とは大陸最高の異能者教育機関であると同時に、各国の重要人物が集う火薬庫なのだ。
「……貴族なんてクズしかいないわ。あんたはわざわざそんなクズが集まる所に行こうとしてるのよ!それが分かってる!?」
「まーあまあ、落ち着けよローザ。そんなけんか腰だと話し合いにならねえぞ?」
ヒートアップしたローザをケビンが宥める。
ローザの声に反応して、食堂に集まっている子供たちからの視線が集まる。それに気づいたローザは、ばつのわるそうな顔をしながら、先ほどよりも声のトーンを落として言った。
「……悪かったわね、大きな声を出して。私は別に貴方の夢にケチをつけたいわけじゃないの。ただ……」
「分かってるよ。ローザが俺のこと心配をしてくれてることは」
「……ふん、別にしてないわよ、あんたの心配なんか」
ローザは相変わらず素直じゃない。でも、それが彼女の魅力なのだと思う。
「……でもね、もしあんたに何かあったら悲しむ人がいるっていうことを忘れないで」
「……ああ、分かってる」