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異能と愛にあふれた世界で  作者: かい
序章
3/14

修行

「落ち着きましたか?」

「……うん」


  盛大に泣き出してしまった俺は、シスターに背中をさすられながら、幼い子供のようにあやされていた。

 外はすっかり明るくなっており、随分長い間泣いていたのだと気付いた。

 普段の俺なら恥ずかしくて目も合わせられない所だが、今は不思議とそういう気持ちにはならなかった。むしろ全部吐き出してスッキリしている。


 俺のそんな様子を見たシスターは、ひと呼吸を置いて真剣な表情を作って言った。


「では、改めてあなたに聞きます。」


 俺は、背筋を伸ばしてハッキリと目を見ながら。


「貴方の夢は何ですか?」

「―――グラストボーン学園に行き、大陸最強の異能者になることです。」


 ―――そう言った。


「うふふ。男の子らしい素敵な夢ですね。応援のしがいがあります。」


 そんなシスターの言葉がうれしくてたまらなかった。









「で、何でこんなところに連れてきたんですか?」

「ふふ。何言ってるんですか?修行をするために決まってるでしょう?」

「いやどういうことですか!?」

 

 あの後シスターから、あまりにも自然に「では、行きましょうか」と言われた俺は、孤児院の外に出ていた。

 日が昇ったばかりで、まだ薄暗い原っぱでシスターと向かい合っている。

 こんなところに来た目的がわからず、質問をした俺は訳の分からない返事に、余計混乱した。


「言ったでしょう? 貴方の夢を応援すると」

「いやそうですけど、それと修行というのがどうにも結びつかないんですけど!」

「修行内容は非常にシンプルです」

「無視!?」

「私に一撃を入れてください」

「え?」


 シスターに……一撃を入れる……?


「そんなの出来ないですよ……」


 シスターは俺の大切な人だ。そんなことできるわけない。


「大丈夫ですよ。当たりませんから」

「何でそんなことが言えるんですか!」


 意味が分からない。何で急にそんなことを……。

 だがそんな俺を見たシスターは、ふうと息を吐くとこっちを見て言った。


「……仕方ないですね。―――では」


 そう言った直後、シスターの姿がき――


「―――こちらから行きます」


 ―――目の前に現れた!!?

 俺は咄嗟に”異能”を使い、シスターに右手で殴り掛かった―――掛かってしまった。


 しまったと思った時にはもう遅い。”異能”によってゆっくりに見える世界で俺は、なによりもたいせつなひとをきずつけるさまをみ――――――ることはなかった。

 代わりに見たのは、一面に広がる青い空、そして―――


「……グホッ……」


 ―――真っ白な景色だった。




「接近に反応して異能を使えたのはよかったですが、肝心のパンチの切れがなさすぎますね。あと受け身ができていません。軽く投げただけで気を失っていたら、命がいくつあっても足りませんよ」


 「そこのあたりもしっかりと訓練していきましょう!」と話を締めたシスターはとても満足げだ。

 

「なにか質問はありますか?」


 わけわかんないことが多すぎて、なにを聞いたらいいか分からなかった俺は、今思っていることを口に出した。


「……シスター………強すぎだろ…」





 シスターを圧倒的な格上だと理解した俺は、全力で一撃を入れにいったが、結局すべて受け流されて終わった。


「今日はこれまでにしましょう。お疲れ様でした」


 その言葉を聞いた俺は、ぜーはーと荒く呼吸をしながらその場に座り込んだ。

 

「……お疲れ様でした」


 立っていることもしんどい俺に比べて、シスターは呼吸すら乱れていない。

 何者なんだこの人……。そんな俺の疑問をよそに、シスターは「明日もこの時間に行います。早起きしてくださいね」と言い残して孤児院に戻っていった。


「……結局かすりもしなかったな」


 悔しくはある。だが、それが夢を追いかけるということなのだろう。そう思うとなにくそ明日は一撃入れてやるという気持ちがあふれてくる。

 

 俺は、今回の修行の内容を思い出しながら、自らの異能について考えることにした。


 俺の異能は一言でいうと『身体強化』だ。手や足を強化してパンチ力や、ダッシュ力を底上げしたり、五感を強化して感覚を鋭くしたりすることができる。

 だが弱点として、長時間の強化はできず無理をするとすぐガス欠してしまう。日々のトレーニングで基礎体力を上げることで、少しずつ強化可能時間を延ばすことは出来るが、根本的な解決にはなっていない。


「……攻撃が単調なのかな」


 あんなに簡単に攻撃を避けれられるのは、そういうことなのかもしれない。

 強化時間に限りがあるせいで、自分の中で焦りが生まれ、そのせいで攻撃のリズムが読まれている可能性は十分考えられた。


 なら次はフェイントを入れることを意識してみよう。そう結論を出したところで、後ろに人の気配を感じて振り返った。


「ユエ?」


 そこにいたのはユエだった。綺麗な緑色の瞳がこちらを心配そうに見つめている。



「……シスターが、朝ご飯だから呼んできてほしいって」

「ああ、もうそんな時間か」

 

 呼びに来てくれたユエに感謝を伝えながら立ち上がり、頭を撫でて言った。


「ユエ、俺やりたいことできたよ」

「……おめでとう」


 ユエの祝福が素直に嬉しい。それだけで明日からも頑張ろうと強く思える。


「……でも俺、早起き苦手なんだよな……」


 明日からの修行は朝早くから行われる。確実に起きれる自信はなかった。


「起こしてあげる」

「え?」

「早起き得意だから」


 そう提案して来たユエの表情は、真剣そのものだ。本気で俺を起こしてくれるつもりなのだろう。だが、年下の女の子に起こされるということに、年長者としてそれでいいのかという考えがよぎる。


「でもそれは―――」

「―――私もジン兄の夢を応援したい」


 ユエにそう言われたら断れるわけなかった。


「……分かった。じゃあ明日からよろしくな」

「うん。……でもその代わりに」


 ユエがおずおずとこちらに手を伸ばす。


「……手、握って……」


 紅葉でもしたかのような表情でそう言ったユエに一瞬ドキっとした。そのことを悟らせないように、平静を装いながら返事をする。


「……おう。お安い御用だ」


 そう言って俺は、そっとユエの手を握った。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のジン少年が、育ての親であるシスターをとても大切に思っているところに好感が持てる。 [一言] 夢に向かって努力をし、成長して行くジン少年を応援したくなる。
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