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異能と愛にあふれた世界で  作者: かい
序章
2/14

 子供たちが眠りについた頃、トレーニングを終えた俺はシスターの部屋の前まで来ていた。トントンと、ノックをすると中から「どうぞ」という声が返ってくる。

 

「失礼します」


 そう言いながら、木製のドアを開ける。

 シスターの部屋と言ったが、来客用のソファーと机が置かれ、奥に事務机がポツンとあるだけのその部屋は、シスターの私室というより応接室といった表現のほうが正しいだろう。

 

「呼び出して申し訳ありません。お詫びと言っては何ですが、少し高めの茶葉を使ってみました」


 机の上で、コポコポと紅茶を入れていたシスターはこちらを振り返ると、紅茶をソファーの前の机に置いてそう言った。

 

 俺は、静かにソファーに座りシスターに視線を向けた。

 

 肩まで伸びた銀色の髪と、引き込まれそうな黒い瞳の対比。きめ細やかで、陶器のような白い肌が神秘的な雰囲気を感じさせる。

 身内の贔屓目を抜きにしても、とても魅力的な女性だと思う。その姿は、俺が幼い時から変わらず若々しいままだ。

 

「……紅茶は嫌でしたか?」

「え? あ、ああ、いやそんなことはないです。」


 申し訳なさそうにそう言うシスターに、俺は慌ててそう返事をして紅茶を手に取った。


「そうですか。それならよかったです、ところで――――」


 ずずっと紅茶を飲む。うん、美味しい。




「――――ジンは、胸の大きい女性が好みなのですか?」

「ブフゥゥ―――!」





「……汚いです」

「すいません……」

 

 台所から持ってきた布巾で机の上を拭く。

 あまりにも唐突な質問に驚いて、つい吹き出してしまった。幸いシスターにはかからなかったので、最悪の事態は避けられた。


「―――もうすぐあなたにも、独り立ちの時期が来ますね」


 机を拭いている最中にそんなことを聞かれて思わず、手を止めてシスターの方を見る。


「……やりたいことは見つかりましたか?」


 シスターからの質問に決心したはずの心がザワつく。

 だがもう決めたことだ。俺は孤児院のみんなが幸せであることのほうが大切なんだ。


「はい。王都にあるフルス商会で、見習いとして働きたいと思っています。」


 フィオナ王国にある孤児院のほとんどは、国からの援助金をもらって運営している。そのため、いつまでも孤児院にいることはできず、16歳になると独り立ちをしなければいけない。


 今年で俺は15歳だ。来年にはここを離れなければならない。


「それがあなたのやりたいことですか?」

「はい」


 間髪入れずに返事をする。シスターの言いたいことは分かっている。

 だが俺の気持ちは変わらない。


「いつ頃からでしょうか」

「え?」

「―――貴方がわたしに敬語を使うようになったのは」


 てっきり説得されると思っていた俺は、あまりに予想外な問いに返事をすることが出来なかった。


「恐らくその時からなのでしょうね。貴方が夢を諦めることを決めたのは」


 ―――俺がシスターに敬語を使うようになったのは、初等部の学校に通っていた時。


「貴方は優しい子ですから。自らの夢を叶えるために必要なものを知ってしまった時、私たちに負担を強いてしまうことが耐えられなかったのですね」


 ―――学費が免除される初等部、中等部の学校とは違い、高等部からは学費が必要であることを知ったときだった。

 

「敬語を使うことで私との間に壁を作り、自らの夢を押し隠した」


 あの時から俺の決意は決まっていた。

 働いて、少しでもお金を仕送りすることで、今までの恩を返したかった。


「夢を諦めるのは、夢を追いかけることよりもはるかに困難なことです」


 なのに。


「幼いながら、その決断をすることができた貴方の強さを私は誇りに思います」


 なんで。


「でもね、ジン」


 こんなにも。


「貴方は私にとって大切な可愛い息子なの。貴方がどれだけ距離を置こうとしてもそれは変わらない」


 ―――母さん。


「息子の夢を応援しない親はいないわ。それがどれだけ大変なことだとしても」


 あぁ……もう……。


「―――夢を目指しなさい、ジン。」


 ――――限界だ……。

 

 もう、涙は止まらなかった。


 










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― 新着の感想 ―
[良い点] シスターと会話をするシーン。 主人公ジンの感情が揺れ動くところで泣けた。 愛がテーマになっているので、異能バトルものに馴染みのない世代にも読みやすいと思う。 [一言] 2話で泣かされるとは…
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