歓迎会前
翌日部屋の片付けをしながらケンは悩んでいた。シャリーにどうやって会おうかと。
せっかく仲良くなったのだ。気軽に会えると嬉しい。
直接家に行っても良いけど……居るかも分からないし家の手伝いをしてるかもしれない。
「迷惑になるかもなー。うーん」
独り言を呟く、片付けする手は完全に止まっていた。
——ガチャ
半分扉を開け母さんが覗き込んで来た。
「なんだい。全然片付いてないじゃないか。昼過ぎから村の案内と歓迎会があるんだから、それまでに済ますんだよ」
言いたい事だけを言い、返事を待たず扉を閉められた。
こんな時いつもなら母さんが去った後に文句の一つでも言っていたが……
「あ、そうか」
歓迎会。そこで会えるじゃないか。一瞬で悩みが解消され文句など吹き飛んでしまった。
止まっていた手が再び動き出した。
なんとか案内の時間までに片付けを終えることが出来た。
と言ってもほとんどの物は収納に押し込んだだけだが……
まだ時間がありそうだ。剣の修練でもやるか。立てかけていた木剣を手に取り部屋を出る。
玄関前の広場で軽く素振りと型の稽古を行う。
セントレアにいる間は剣の道場に通っていたため、移住先でも修練が日課となっている。
軽く汗をかいてきた頃。
「こんにちは、学者先生のところの子かい?」
「そうですけど、何か御用ですか?」
突然声をかけられ、訝しげに返事をする。
「村長に村の案内を頼まれたんだ。お父さんたちを呼んできてくれるかな」
「あっ、ちょっと待っててください。呼んできます」
てっきり村長が案内すると思っていたので、少し驚いて慌てて返事を返した。
家に向かって大声で呼びかけた。
「父さーん、母さーん案内の人がきたよー」
案内の人にはここで待つように告げ家の中に入る。
「あんな大声で恥ずかしいじゃないかい!!」
母さんは顔を見るなり怒ってくる。
「これから人前に出るって言うのに汗かいてるじゃないか。
タオルがあっちにあるから汗拭いて着替えておいで。
早くするんだよ!!」
母さんが怒涛の勢いで捲し立てる。
これ以上怒られないように素直に返事を返しタオルを手にニ階に上がる。
持ってきたタオルで体を拭きながら、収納の中に押し込んだトランクを取り出した。
するとその拍子に乱雑に押し込めていた他の荷物も外に出てしまう。
片付ける暇などない。遅くなるとまた母さんに怒られてしまう。床に散らばった荷物を尻目にトランクから服を取り出し着替える。
玄関から出ると両親はすでに家の前で待っていた。母さんなんかは案内の人と談笑までしていた。
家では鬼の様に怖い顔をするのに外に出ると愛想が良い。
八割り方自分が悪いことを棚に上げケンはそう思った。
「ケン君も来たので、案内いたしますね」
俺の名前を知っているところを見ると話題にされていたようである。
案内はシャリーから聞いた話より詳しいものであったが興味のないことばっかりだ。
「集会場は一回建て直された」だの「村長の馬の品種」だのふーんとしか思えなかった。
話は半分聞き流しながら、丘の上から見た景色と照らし合わせることに集中した。
遠くからだと狭い村に見えたが、実際に歩くと思ったよりも広かった。
一通り村を案内され、最後に集会場前の広場までやってきた。
どうやらここで歓迎会が行われる様だ。
準備中のようで中央の大きな机に料理を運んだり、集会場の中から机や椅子など運んだりしている。
中央の机を囲む様に小さい机と椅子を配置していっているようだ。
料理を運んでいる人の中にシャリーがいるのを見つけた。
小柄なシャリーがトコトコと大きなお皿を運ぶ姿はなんとも危なげだ。
今にも落としてしまいそうだ。
俺は駆け寄って手伝いを申し出た。
「ケンは主賓の一人だよ。手伝わせる訳にはいかないよ」
当たり前のように断られ「また、後でね」と笑顔を向けられた。
「また後で」
そう返しトボトボと両親のところへ戻って行った。
歓迎会が始まるまで手持ち無沙汰になってしまった。