エピローグ3 外海からの来訪者 教会
「ありがとうございます。おかげさまで、村が魔物から救われました」
「魔物の討伐は我々の教義によるところでもあります。そのようにかしこまらないで下さい」
「いえいえ、そういう訳にも行きません」
この村の村長だという男は卑屈なまでにペコペコしている。
これならば我々の要求も通りやすそうだ。
「それであれば、この地にもアレス教の教えを広める足掛かりとして、教会を建てさせて貰えないでしょうか?」
「ほう、教会をですか。。。」
村長は微妙な反応を返す。想定内の反応だ。いきなり教会を建てさせてくれと言われて、二つ返事でOKを貰えることなどまずない。
「当然費用などは全てこちらで負担します。建物を建てるのに仕事も発生しましょう。当然給金も弾ませていただきます。同じ村で暮らす仲間となるのですから、復興の手助けも出来ることでしょう。
それにご存知の通りアレス教の教義に魔物は悪しき物とされており、その脅威から信徒を守るのは当然だとされています。今後も魔物に襲われるやもしれません。その時には助けとなれるでしょう」
我ながら良く口が回る。大体の者は負担がないこと。それとメリットを提示すれば興味を示してくれる。
そこに少しばかりの金銭を手渡せば。。。
「それとこちらを復興に役立てていただければと」
金貨の入った小袋を一つ机の上に置く。
村長のもの欲しそうな顔が目に映る。これは落ちたな。私は内心ほくそ笑んだ。
しかし返って来た言葉は予想を裏切るものであった。
「これは受け取れません」
「。。。そうですか」
驚きの表情を隠すことに必死になったせいで、少し言葉に詰まった。
「理由をお聞きしても?」
「神様。。。いえ、実際には神様だったのか。。。何か超常の存在に我々は助けられたのです。
それで無数の魔物の死体の中に剣が残っていたのです。その剣を村の者が、まぁなんと言いますか。。。御剣様と呼んで敬っていまして。
そんな中で教会を建てるとなると。。。」
「トラブルの元になると。。。仰るのですか?」
「いえ、そこまでは。。。
村の者も教会には感謝しています。しかし、村のあらゆる物が壊され、田畑も荒らされ。。。とても外部のものを受け入れる余裕などないのです。どうぞご理解を」
さっきまでペコペコしていた男は真っ直ぐとこちらを見据えていた。
「分かりました。ではこの話は無かったことにしましょう。
魔物の脅威が残っている可能性があるため、しばらくは幾人か村に留まらせてください。
手が空いているようであれば復興のお役に立ててください」
机の上に置いた小袋を懐にしまうと、立ち上がり一礼した。
「何から何までありがとうございます」
村の入り口まで村長に見送りをしてもらい、帰りの馬車に乗った。
クソ!!クソ!!クソ!!
こんなド田舎の村長ごときが!!!
アレス教はオタリア大陸にはそこまで広まっていなかった。
港町や大きな街には教会が建っているものの信者の数はそれほどでもない。
オタリア大陸の貿易は盛んで、港を通して様々な物や文化が入り込んできている。アレス教はその中の一つに過ぎない。
魔物に襲われることのない、豊かな土地では魔物からの庇護を布教の要にしているアレス教との相性が悪かった。
しかし南の方は森に面しており、魔物の生息の可能性が高く、規模の小さい村が多かった。
もし痕跡でも見つけれでもしたら、布教の足掛かりになる。
そのような目論見が森林部の調査にはあった。
そして今回のヴァーリアンラットの襲撃は都合が良かった。
しかし結果はこの様だ。
いっそのこと村一つ滅んでいた方が他の村への布教がやりやすかった。
クソッ!!!
協会の男は馬車の中でニコニコとしながら、内心で悪態をついた。
まぁ良い。時間などいくらでもある。時間をかけて少しずつでも教えを説いてゆけば良い。
魔物がいることも分かったのだ。焦ることはない。
オタリアの南に布教が出来ればいずれは北の方にも教えが広まるだろう。
協会の男の顔にはニコニコとした人好きの良い笑顔で笑う。




