乗船
疾風のように馬が走り去るのを視界の端に捉えた。
そしてヴァーリアンラットの勢いが弱まった。
どうやら荷台を引いていた馬がヴァーリアンラットを引きつけてくれたようだ。
この隙に後ろで足止めしている護衛と合流する。
「お前はもう後ろに下がってろ!!」
「俺はまだやれる」
下がってろと言われて簡単に下がれる訳もなく、護衛の二人に加わり戦線を維持する。
「こっちは全員船に乗ったぞ!!」
案内人の男が叫ぶ。
「よし、俺らもずらかるぞ!!」
俺は残り二つの小袋を目の前に迫って来ているヴァーリアンラットに投げつける。
それと同時に身を翻し船へと走り出す。
「後ろを振り向くな!!全力で走れ!!」
乗って来た荷台が乱雑に止まっている。その脇をすり抜け桟橋へ駆け抜ける。
後ろを振り向くなと言われたが、後ろが気になり振り向く。
最後の小袋が効いたのか、ヴァーリアンラットとの距離は十分にあった。
俺たちは無事全員船に乗り込むことが出来た。
「よし全員乗ったな。出発するぞ」
船が動き出し岸から離れていく。
「怪我したやつはいるか?」
全身が痛む。荷台から飛び降りた時に全身擦り傷だらけとなっている。
戦っている時は気にならなかったが、今になって痛み出す。
「ミカ姉足大丈夫?」
「まぁ、痛いのは痛いけど。もう血も止まったし平気かな」
ミカ姉の右足の脛が血で赤く染まっていた。
「すまねぇ。俺が取り逃しちまったばかりに。。。」
足止めをすり抜けたヴァーリアンラットから子ども達を守っていた三人目の護衛の男が謝罪した。
この男が最終防衛ラインとなっていたが、捌ききれなかったヴァーリアンラットが子ども達に襲いかかっていた。
そこをミカ姉が庇って負傷していたのだ。
「川を渡ったら街までおぶってやれよ」
軽い茶々が入る。
「やだよ。普通に肩貸してくれるだけで良いよ」
ミカ姉は本気で嫌そうな顔をする。
「アハハ」と笑いが起こった。その笑いでようやく子ども達が安堵した表情を見せる。
「ケン、一応後方は警戒しておいてくれ」
言われなくてもすでに警戒はしている。
ヴァーリアンラット達は川に入って追いかけて来てはいるものの、遅く距離が開いていっている。
しかも泳いでいる仲間の背中を踏みつけるものだから、下のヴァーリアンラットが溺れている。
そんなことが長く続くわけもなく川が深くなるところあたりで、諦めて引き上げていた。
溺死したヴァーリアンラットの死体だけがプカプカその場に残っていた。
なんなんだ。。。こいつらは。。。行動が異常すぎる。
何故ここまで仲間を犠牲に出来るのだろうか。
それに関して繁殖力が高いせいだと父さんは言っていた。
すぐに仲間が増えるせいで、個が犠牲になりやすいと。群全体での獲物を得れればそれで良いと。
しかし実際にその行動を見るとその範疇に収まるものではないように思える。
安全が確保された今になって、恐怖が襲ってくる。
よくあんな狂気に狂った生物を相手に出来たと思う。
足止めしたら自滅してくれる?あそこまで自滅することが異常なのだ。あれほどの仲間の犠牲も厭わないほどに俺たちを食べたかったのだ。
そう思うと俺は後ろを見る気になれなかった。
「もうアイツらは引き上げて行きました」
力なく報告を済ませ、その場に腰を下ろす。




