避難計画
「で、どうするよ村長」
集会場の中であらかたの経緯を説明し終えて口髭の男が問いかけてくる。
「襲撃を受けた以上、逃げるに越したことはないが。。。」
どこへ逃げる。50人以上いる村人全てを受け入れて貰えるところなど何処にもない。
教会も避難先を用意するとは言ってくれているが、全員を受け入れるまでは準備出来ていない。せいぜい10人程度ならと言う感じである。
「とりあえず子ども達だけでも避難させましょう」
「あぁ、確かに。子ども達だけであれば街の方に避難させることは出来るだろう」
私はカーターの提案に乗った。
「しかし、道中はどうする?村長の馬逃しちまったんだろう?呑気に歩いていっちゃあネズミ野郎に襲ってくださいと言ってる様なもんだろう」
「あいつらはきっと生きとる。呼べば戻って来てくれるはずだ」
「いや、村長があの馬達を大事にしているのは知っているがよ。。。そんな根拠もないこと。。。」
私の真剣な眼差しに口髭の男は口籠る。
「分かったよ。村長んとこの馬が戻ってくる前提で進めよう。もしもよ、戻ってこなかった場合は避難は諦めるで良いか?」
「あぁ、大丈夫だ」
フランとソワレは戻って来てくれる。私はそう確信している。
戻ってこないことなど考える必要もない。
「川はどう渡りますか?」
カーターが口を挟む。
「あぁそうだな。定期船はいつも遅れて来やがるから当てにはなんねぇ。漁に使っている船を使うしかないだろうよ」
「うむ、それが良いだろう」
「そうすると馬はどうする?流石に馬までは乗れないだろう」
「なにその場で逃がせば良い。フランとソワレなら自分たちでここまで帰ってこれるわい」
「あー、まぁ村長がそう言うんなら良いがよ」
口髭の男とカーターが顔を見合わせた。
「川を渡った後は、徒歩で街まで行くとしてその後はどうなりますか?」
「教会との連絡係を連れていけば良い。協会が拠点にしている屋敷まで案内してくれるだろう。
私が一筆書いておくからそれを見せれ良かろう」
不確定要素の多い計画であるが、今とれる手段など限られている。やるしかないのだ。
「とりあえず村長はもう馬を呼びに行って良いぞ。ガキ共は村長の家に行く様に言っておく」
そう村長に告げ、口髭の男はヴァーリアンラットの死体の山に目を向ける。
「あとはアレをどうにかしねぇとな。アレじゃあここから登って来てくださいと言っているようなもんだ」
みんなが死体をどかす準備に取り掛かっているのを横目に私はこの場を去った。
村の入り口まで来ると、指笛を鳴らした。
この音を聞けばきっと戻って来てくれる。
しかし戻ってくる気配はない。
遠くにいて気づいてないのかもしれない。
大きな音が出るように大きく息を吸い込む。そして口に当てた指へ息を吹き込む。
徐々に吹き込む息の量を増やして大きな音が出る様に調整する。
より長く。より大きく。限界まで肺の空気を吹き込んだ。
しかし結果は変わらず、蹄の音すら聞こえてこない。
もう一度。戻ってこない愛馬達に聞こえる様に。何度も何度も鳴らす。
指笛を鳴らす度に期待が焦燥へ変わっていく。
何かあったのか?指笛が聞こえないほど遠くへ行ったのか?私に愛想をつかせたのか?戻ってこない理由などいくらでも浮かぶ。
指が唾液に塗れ、喉が乾燥する。肺も限界が近くなっている。
もうこれで最後だ。次が最後だと未練がましく呼び続けた。
そしてとうとう限界が訪れる。
指笛を鳴らすほどの勢いで息が吐けなくなり、途切れ途切れで掠れた音が鳴る。
もう会えないのか。。。別れの時に覚悟はしていたが、あの時は戻って来てくれると信じていた。
本当に別れることになるとは思っていなかった。
今までにない消失感を感じ膝から崩れ落ちる。
ドドドッ。。。ドドドッ。。。
覚えのある規則正しい音が聞こえる。
もう吹けぬ指笛を再度鳴らす。もはや掠れた音さえも出ない。
ドドドッ。。。ドドドッ。。。
より大きく聞こえる。
鳴らない指笛を鳴らす。私の居場所を知らせねば。
ドドドッ。。。ドドドッ。。。
そしてその音は目の前まで来て止まる。
顔を上げるとフランとソワレがそこにいた。
やはりこの子達は。。。
私は2頭の顎先をそっと撫でる。




