嫌な予感
「どうだった?」
ケンが降りてくるなり口髭の男が問いかけてくる。
「暗くてどのくらい数がいるかは分からなかった。。。けど。。。登ってきていた。。。」
「登って?どういうことだ!!?」
どう説明すれば良いのだろう。。。あれは言葉で説明できる様な生易しいものではない。。。
俺が言い淀んでいると口髭の男は痺れを切らし「お前行ってこい」と若い男に指示を出した。
若い男は指示に従い、ロープを登り窓から外をよく見たのち降りてきた。
「で、どうだった?」
「あれはヤベェよ。登ってきている。。。」
「お前ら揃って、登ってきてるって。もうちょっとなんかねぇのか!!」
「あいつらが積み重なって。なぁ」
若い男は半端に喋って、こちらに振ってくる。
「うん。山の様に積み重なってた。このままだと窓から。。。」
「あーつまりは、あの窓の高さまでネズミ野郎が仲間を踏み台にして入ってくるてぇのか?」
俺と若い男は無言で頷く。
実際に見ないと信じれない内容である。
5メートルはあろうかという高さまで積み上がるにはどのくらいの数が必要なのだろうか?少なくとも100や200では足りないように思える。
土台になっているヴァーリアンラットはほぼ生きてはいないだろう。そこまでの犠牲を払ってまで窓から侵入しようだなんて狂気の沙汰ではない。
——カリカリカリカリカリカリカリカリカリッ
いまだに引っ掻き音は絶えず聞こえてきている。
口髭の男の声が大きいため、集会場にいる全員が状況の悪化を悟っている。
子ども達はみんな母親にしがみつき、中には泣き出した子もいる。
母親は必死に「大丈夫、大丈夫」と口にし自分の子どもを慰めているが、その表情には不安が広がっていた。
最初に引っ掻き音が聞こえたのはいつ頃だろう?30分前?いや1時間経っているのか?まだそんなに経っていない気もする。。。絶え間ない引っ掻き音に晒されて時間の感覚も麻痺してきていた。あとどのくらい耐えれば良い?耐えるだけで良いのか?この状況が好転するイメージが持てなくて不安が募る。
——カリカリッカリカリカリカリカリッ
登ってきている事を証明するかのように、今では引っ掻き音は上の方から聞こえてきてきている。
早い、もう俺の身長より上まで登ってきている。。。
闇の中から次々と這い出てきて躊躇なく仲間を踏みつけ登ってくる様を思い出した。
俺はヴァーリアンラットが登ってきている壁を睨みつけた。
集会場に入ってからというものヴァーリアンラットとの戦闘をずっとイメージしていた。
バリケードを作っているときは、バリケードをどう利用すればうまく立ち回れるか、もし乗り越えてきた場合はどうするか。
今度は窓から侵入してきた場合もイメージする。
バリケードがある分戦える範囲は狭くなりそうだ。これならいっそバリケードを撤去した方が。。。いや扉を破られた場合を考えるとバリケードはあった方が。。。それを考えるなら反対の窓を破られた場合は。。。
俺は視線を周囲の壁に移動させる。
おかしい。。。さっきまで扉はもとより壁全体から引っ掻き音が聞こえてきていたはず。。。
今では一つの壁からしか聞こえてこない。。。
全てのヴァーリアンラットがこっちの壁に集まって登ってきている?俺は嫌な予感を感じ始めていた。




