避難
集会場へ人が集まってきた。
「今日何かあったっけ?」
ミカ姉とそんな話をする。
「まったく村長の心配性がよー」、「魔物が襲ってくるって本当かしら」、「なんでもこの近くで見かけたらしいよ」と話し声が聞こえてくる。
「あっ、お母さん!!」
母の姿を見つけたので、手を振ってアピールする。
「あー良かった、すれ違いにならなくて。ミカちゃんもこんにちは」
「お父さんはもう来てる?」
ミカ姉と軽く挨拶した後に母が尋ねてくる。
「見てないよ。お父さんも来るの?」
「もちろん来るわよ。もー大変なのよ」
大変さを微塵も感じさせないのんびりした口調で母が言う。
「何かあったの?」
「そうなのよ。もー大変なのよ。前から言ってた、あの魔物が襲ってくるみたい。
それでみんな避難しなきゃって。ここに集まっているのよ」
とうとう。。。
自分の記憶にはもう居ない魔物の姿を思い浮かべようとするが、やはりどんな姿か思い出せない。
襲ってくると言われても現実感が湧かない。周りも同じようで、どこか浮ついた空気を感じる。
ケンと門下生一同も集会場の中に入ってきた。
「ケン兄は魔物見たんだろ?」、「どんなだった?」、「でもネズミなんだろ」など色々質問されたりしている。
「コラ、舐めて油断すると痛い目を見るぞ」とケンは窘めていた。
バンバンとケンが二度手を叩く。門下生達に向けて話をするときや訓練の時の合図として良くやっているのを見かける。門下生から注目されたのを確認しケンが話始めた。
「ちょっと聞いてくれ、俺たちは沢山訓練してきたよな」
門下生たちがみんな頷く。
「今夜にでも魔物が襲ってくるって噂だが。。。倒してやる!!って思ってたりしていないか?」
「思ってる!!」「俺たちだって倒せるぜ!!」そう門下生がやる気に満ちた目で答える。
「お前たちに教えきれていないことが沢山ある。建物の中での戦い方もその一つだ。周りを見てみろ。沢山人もいるし椅子や机だってある。こんな中では十分に剣を振る事が出来ないだろ」
門下生たちの顔に不安や不満の色が見える。
「建物の中での戦い方を今全部教えることは出来ないが。。。一つだけ教えることが出来る。それは。。。」
門下生が期待を込めた目でじっとケンを見つめる。
「自分を守ることだ。まずは防御することを意識するんだ」
門下生の表情が期待から不満に一気に変わる。
「良いかこれは重要なことだぞ。利点は沢山あるんだ。
まず初めに防御は無闇に剣を振り回さなくて良い分建物の中でも訓練した内容が生きてくるだろう。
そして防御している間は魔物を引きつけることが出来る。しかも、その隙をついて他の人が攻撃をすることが出来るんだ」
「まぁ、そうだけど。。。」理屈は通っているが納得できない。なまじ魔物を倒すことを意識した訓練をしていただけに納得し難いのだろう。
そんな様子を見てケンは声のトーンをひとつ下げ、ゆっくりと諭す様に話出す。
「いいか俺達はまだ子供だ。大人からしたら守るべき存在なんだ。だけど、俺達が自分自身を守れることを証明してみろ。大人達は俺達を守るための力を他の小さい子達を守るために使える様になるだろ。
俺達が自分自身を守れることは全員を守る事に繋がるんだ。
分かってくれるか?」
ケンの真摯な教えに門下生たちも納得まではいかないまでも、ちゃんと頷き「分かったよ」と返している。
はぁーー、思わずため息をついてしまう。
カッコ良い。真面目に門下生を説得している姿が良かった。しかし、途中で門下生たちが不満そうな時の困った様な表情も可愛くて良かった。
日頃の訓練の様子とはまた違ったカッコ良さを感じてしまった。
そうこうしているうちに村の半数以上の人数が集会場に集まってきていた。
その中にはお父さんやケンの両親の姿もあった。
ここへ避難してくる人は全ての様で、集会場の扉が閉められる。
大きな扉から入ってくる光がなくなり、薄暗くなる。
浮ついた空気は鳴りを潜め、小さい子は少し不安そうな声をあげる。
そして日が傾き、夜が来る。。。




