日常4
走り去るシャリーを見て、やってしまったと思った。
やっぱり注目を集めてしまったのがダメだったのか?それとも木剣の持ち手が汗で湿っていたのが嫌だった?
何がダメだったのか分からないが、帰りにでも謝っておこう。
パン、パンと手を2度打つ。
「再開するぞ!!」
自分が原因で皆が手を止めていたのだが、そんなことはお構いなしに大声で叫んだ。
ケンは以前から異性に好意を持たれることが何度かあったが、特別な関係になった事は一度としてなかった。
そういう事にうとかった時期もあったが、移住もあったためタイミングを逃したこともあったと思う。
シャリーに好意を持たれていることは薄々ケンも気付いていた。
それは露骨に囃し立てるミカ姉の行動からも伺えた。
自分はシャリーのことをどう思っているのだろうか。。。
ケンは自分の心に問いかける。
よくコロコロと変わる表情をみるのが好きだ。
怒った様に頬を膨らませたり、拗ねた時は少し口を尖らせたり。
困った時には眉をハの時に寄せる。そして笑う時は口が裂けるかと思うくらい広げる。
そんな色々な表情は見ていて飽きないし、何より楽しい気持ちになる。
性格も優しくて気遣いができる子だと思う。
多少強引な所もある気がするが、自分が流されやすい性格なので噛み合っている様にも思う。
そして甘え上手なせいか、人の懐に入り込むのが上手いように感じる。
母さんなんか「うちにお嫁に来てくれないかしら」といつも言っているほどだ。
「ケン兄!!、ケン兄!!」
自分を呼ぶ声にハッとする。ボーッとしていた。
「もうみんなヘトヘトだよ、そろそろ終わりにしようよ」
思ったより長いこと考え事をしていたようだ、皆は汗だくになっており中には座り込んでいる者もいた。
「悪い悪い、考え事してた。
最後に軽くストレッチして終わろうか」
ぞろぞろと門下生と共に集会場に戻る。
「今日は終わるの遅かったね」
ミカ姉と話をしていたシャリーがこちらを見つけるなり話しかけて来た。
「私よりケンを優先するのかー」
話を中断されたミカ姉がふざけた様に悪態をつく。
「そんなんじゃないよ。もう帰る時間でしょ」
シャリーはミカ姉に手を振り「行こう」と言い、出口に向かって行った。
俺も続けて別れの挨拶をして、シャリーの後を追う。
「今日遅かったね?」
自分ではそんな遅くまでやってたつもりはなかったが、もう日も傾いてきていた。
「ちょっと考え事してて」
「訓練中に?何考えてたの?」
何と聞かれても、シャリーのことを考えていたとも言えず
「えっと、たいしたことじゃないよ」
言い淀みながらも適当に返す。
「そうなのー、気になるなー」
ジトーっとした目で見られ少したじろぐ。
「んー、あっ、昼間はごめん」
訓練に付き合わせて嫌な思いをさせたことを思い出したため、誤魔化すように謝った。
「昼間?」
「うん、無理に訓練に付き合わせて、なんか嫌だったんだろ?」
「えっ、いや、くっつかれるのが嫌だった訳じゃないよ。皆に見られてたのが。。。」
やっぱり注目されたのが嫌だったか、俺は心の中で答え合わせをした。
「でも、二人きりの時だったら別に。。。」
後半はなんとか聞き取れるくらいのか細い声でシャリーは言った。
「ん、二人で訓練するの?」
「いや、違っ。。。くっついたりとかを。。。」
もはや聞き取れないくらいの声量だった。
そしてシャリーは顔を赤くし俯いて止まってしまった。
2人きりの時ならくっついても良いと言われた気がする、いや言われたのか。
シャリーはスカートの裾をギュッと掴み、耳まで赤くしている。
俺はなんと答えれば良いのか。
こちらが何も言わずにいると、シャリーは顔を上げオドオドとした上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。
何かを期待するようなシャリーの仕草にドキドキと心臓が高鳴る。
こちらの行動を待っているのは明白だ。
女の子を待たせるのは男らしくないとどこかで聞いた覚えがある。
意を決して一歩踏み出し、シャリーを抱き寄せる。
いきなり抱きしめられシャリーの体がこわばるが次第に体から力が抜けケンに体重を預ける。
「私ケンのことが好き」
シャリーがポツリと呟く。
それを聞き俺は抱きしめる力を強め「俺もシャリーのことが好きだ」と返した。




