日常3
「じゃあ、まずは素振りからやろうか」
集会場前の広場で俺は声をかける。
「「はーい」」
とシャリー曰く《いわく》門下生達から声が上がる。
皆一斉に木剣を振り上げ振り下ろす動作を行う、その一人一人指摘していく。
「もっと胸を張って」、「肩の力を抜いて」、「もっと思い切りよく」。。。
剣の指導は初めてで、師範や先輩などの素振りを思い出し、それに近づける様教えているつもりだ。
言っていることがあっているかなど分からないし、指摘する事で逆に悪くなることもある。
教える事がこんなに難しいとは思わなかった。
これなら一人で訓練する方がマシだと思いもしたが、自分を慕ってくれる子達を無下にも出来ず指導を続けている。
シャリーが集会場から出て来て、ミカ姉と話しているのが見える。
あの2人は本当に仲が良い、そう思ったとたんにミカ姉がシャリーにデコピンをしている。
仲良いんだよな??と疑問符がついたところで、ミカ姉がシャリーの頭を撫で仲直りした様子が見えた。
うん、やっぱり仲が良い。
あまり見るのも悪いと思い訓練に意識を向ける。
「そろそろ、打ち込みするか!!」
と声をかける。
夕飯時になり、みんな家に帰っていく。
「もう片付けする?」
とミカ姉に声をかける。
「そうだね、そろそろ店じまいしますか。
集会場から箱取って来てくれる」
そう言って商品の片付けを始めた。
露店の商品は集会場の中で保管されているので、毎日出し入れしているのだ。
「もういっそのこと集会場の中で店やれば?」
といくつか箱を持って来てミカ姉に問いかける。
「あー、前にそれ村長に言った事あるけど却下されたんだよね」
「ん、この店って村長の店なの?」
「そうだよ。仕入れとかは村の人が雇ってるから、村長は何もしてないけどね」
口ぶりから察するに村長への不満が溜まっていそうだ。
箱に商品を詰め終わり、集会場の中に持っていく。
ミカ姉は商品を乗せていた台に雨よけの布を被せている。
「こっちは終わったよ」
と集会場内の片付けをしていたシャリーに声をかけた。
「こっちも終わったところー」
シャリーと共に集会場を出る。
「「ミカ姉、また明日」」
と声を揃えて挨拶する。
「片付け手伝いありがとうね。また明日」
初めにミカ姉に「シャリーを送っていって、よろしくねー」と頼まれて以来、一緒に帰っている。
「今日も疲れたなー」
と伸びをしながら呟く。
「あんだけ動いていれば疲れるよ」
「いやー、体力的はそんなになんだけど、教えるって言うのに慣れてないから、精神的に疲れたって感じかな」
「そうなんだ、見てる感じ上手に教えれている様に思えるけど」
シャリーは少し視線を上に向け、訓練風景を思い浮かべながら返答する。
「全然だよ、姿勢を直しても次の瞬間には崩れていたり、指摘した事で逆に悪くなったり。。。」
俺は少し顔をしかめた。
「うーん、上手に出来る様になった方が良いと思うけど、今は楽しければ良いんじゃない?」
「そんなもんかな」
「そんなもんだよ、ケンも門下生達も楽しくやるのが一番だよ」
俺も楽しくか。。。
「なんか気が楽になった気がするよ、ありがとな」
「うん」
シャリーは小さい声で返事し俯いてしまった。
どうやらお礼を言われた事に照れてしまった様だ、そんな姿が可愛く見え思わず頭を撫でようと手を上げた。
シャリーは俺の手が急に動いた事に反応し、少し仰け反る様にこちらを見た。
「あっ」
目的地を見失った手はどこに向かえば良いのか分からず空中で停止している。
「ごめん、思わず頭を撫でようとして、馴れ馴れしかったよな」
シャリーは俯いたまま動かなくなってしまった。
すると近づいて来て「ん」と頭を差し出して来た。
シャリーは恥ずかしがり屋なところがある。今も精一杯の意思表示なのだろう。
俺はこの小さな想いに応えるべく、軽く頭を撫でる。
しばらく沈黙が流れる。
「行こうか」
と声をかけた。
「うん」
小さい声で反応あった。
そのまま黙ったままシャリーを家まで送り届けた。