出会い
—— 「何か面白いことないかな」と少女は呟く。その呟きは誰に聞かれるでもなく風に乗り遠くに運ばれていく。
その日、片田舎の村に小さな変化が起こった。
学者の一家が引っ越してくるというのだ。
その一家を迎えるべく村の人達は村の入り口に集まっている。
「村の人口は減ることはあれ、増えるのはいつぶりだ」、「学者がこんな村になんの用だ」と大人達は話している。
私もそんな人だかりの端でワクワクしながら到着を今か今かと待ち望んでいる。
遠くにこっちに向かってくる一団が見えた。
学者一家と船着場に迎えに行った大人達だ。
私は一家を迎えるべく駆け出した。
「ようこそカラトリ村へ、まずは家の方に案内します」
村長が学者一家に向けて挨拶をした。
私も「ようこそ」と歓迎の挨拶をしたかったが出来なかった。
家で挨拶のイメージトレーニングは沢山したが、大人がいるし仕方ないと自分に言い聞かせ学者一家の方を覗き見る。
学者の一家は三人家族だった。
私と同い年くらいの少年、黒の短い髪、身長は私より少し高いくらい。好奇心旺盛なのかキョロキョロとあたりを見回している。
父親は大人の男の人は背が高く痩せていて、ヒョロっとしている。いかにも学者な風貌だ。髪色は少年と同じ黒髪で短髪で撫でつけられており、神経質そうに見える。
そして母親は恰幅が良く、人好きの良い笑顔が印象的だ。髪色は二人と違い栗毛色で、本来なら肩に掛かるくらいだろうか。それを後ろに結んでいる。
この一家は村はずれの荒屋と言って差し支えない空き家に住むらしい。
一通りの歓迎が済んで村長が家まで案内を始めたので、私はこっそり後をつけることにした。
少年たちが住む家は少し前から修繕されており、見栄えが良くなっていた。
穴は塞がれ屋根、壁ともに新たに塗装されている。とてもあの荒屋と同じものとは思えない出来である。
しかし中はどうかな? 村の大人たちが中まで気にするとは思えない。
どうせ外観だけ取り繕っているのだろうと私は考えている。
少年たちが家の中に入ってしまったため、私はこの後どうしようかと悩んだ。
少年と話をしてみたいが、家を尋ねることはしたくない。
別に勇気がないとかではない。いきなり見知らぬ人が家を訪ねるのは失礼だと思えるからやらないだけである。
あの少年は好奇心旺盛そうだし、すぐにでも家を出てくるのではないか。という考えに至る。
もう少し待ってみよう。きっと出てくるはずだ。
私は地面に絵を描きながらもう少し待ってみることにした。
地面に絵を描くことに飽きてきた頃、待ち望んだ少年が家の戸を開けて出てきた。
少年はあたりを見回した後にこちらを見据え手を振ってきた。
茂みで私の姿が見えないはずなのだが、明らかにこちらを見ている。
一瞬逡巡したが、覚悟をきめ茂みから出て小ぶりに手を振りかえす。
「こんにちは、俺はケンよろしくな」
元気よくケンと名乗る少年が元気に挨拶をしてきた。
「シャリー……よろしく……」
何度も練習したかいなく、顔を伏せて蚊の鳴く様な声で挨拶を返した。