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31話 僕の最愛

 ヒューデント王国の国王となった僕は、ようやく最愛の女性を妻に迎えることができた。


 結婚式はまだ先だけれど、婚姻宣誓書にラティのサインをもらう計画は思い通りに進んだ。


 彼女をほしいと思ってから意外と時間がかかってしまったが、僕の腕の中で穏やかに寝息を立てる妻がかわいくて愛しくてたまらない。


 昨日から何度もラティを貪ったのに、このままでは眠っている妻に襲いかかってしまいそうだ。


 さすがに少し寝かせてあげたいし、気を逸らすためにもこれまでのことを振り返ってみようと思う。




 ラティを僕のものにするために、出会った時からさまざまな手を使ってきた。


 専属治癒士に任命して、婚約者になる条件を盛り込んだ契約書にサインさせたのが今では懐かしい。

 それから婚約解消できるかもしれないと認定試験を持ちかけ、裏から合格するように手を回したこともあった。


 そんなことしなくてもラティなら合格しただろうけど、コートデール領では運悪く古代(エンシェント)ゴーレムに出くわして危なかったのだ。


 あの時は肝を冷やしたけどギリギリで間に合ったし、その後、初めてラティの額にキスできたからよしとしよう。


 直近ではユニコーンと密かに契約したことだろうか。


『それなら、まずはユニコーンを捕まえないとね』


 ラティが聖女と接触し、調査を進めていた僕は毒を盛った犯人がユニコーンだと推察した。

 そこで姿を見せない幻獣が相手なら、神獣に任せてみようと思ったのだ。


『フェンリル』

《おう、主人! 呼んだか?》


 僕の影からシュルッと銀狼が姿を現した。日中は毒物を嗅ぎ分けるためラティにつけているが、この時間なら動かしても問題ない。


『ユニコーンを探したい。力を貸せ』

《げっ! あいつか!》

『知り合いなのか?』

《まあな、あいつすげえ真面目でつまんねえ奴だぞ》

『へえ、そうなんだ』

《それに結界張るのが得意だから、その中に篭られたらオレだって探せない》


 なるほど、確かに治癒室に張られた結界は強固なものだった。だけど、逆にそれが手掛かりになる。


『フェンリル、臭いのない場所を探せ。結界に閉じこもっているなら、そこだけまっさらな空間になるだろう?』

《お? おお! 主人は天才だな!》


 俄然やる気を出したフェンリルによって、あっさりとユニコーンの居場所を割り出した。


 意外にもユニコーンは僕の執務室にいたようで、治癒室の時と同じ手応えを感じて無理やり結界を破壊する。


 バリンッと大きな音を立てて結界が崩れ落ちると、ユニコーンの銀色に輝く躯体が現れた。

 もっと抵抗するかと思っていたけど、どこかあきらめたようなホッとしたような表情だった。


『君がユニコーンだね?』

《いかにも》


 バハムートやフェンリルと同じ銀色の毛並みと瞳が、幻獣であることの証だ。


『お前が僕のラティに毒を盛ったのか?』


 幻獣だろうがなんだろうが、僕のラティに害をなすならこの世から消し去るだけだ。全力で殺気を向けると、ユニコーンはビクッと震え後ずさる。


《確かに、自分が毒を盛ったが……いや、すべては受け入れた己の問題だ。好きに処罰するといい》

『ふうん、潔さはあるんだ。誰かの命令か?』

《…………》

『そう。黙秘するなら僕の下僕となるしかないね』

《なっ……!》


 ユニコーンは驚き抵抗したけど、僕の魔力で押さえ込んで強引に主従契約を結んだ。


 神の使いである幻獣だとしても、圧倒的な力を前になす術はない。契約を結んだ証となる金色の光にユニコーンが包まれると、翼が生えて瞳は僕と同じ空色に変化していった。


《このような力技で……!?》

『さあ、これで主人である僕に絶対服従だ。まあ、聖女のようにユニコーンのプライドを傷つける命令はしないから安心して』


 僕の言葉にユニコーンが目を見開く。


 資料にもあったけど、ユニコーンは高潔でプライドが高い。聖女が命令していたのだとしても、裏切りたくないのだろうと想像はついていた。


《……そうか。ならば主人に従おう》

《うははっ! さすが主人だな! 容赦なくて笑えるぞ!》

『フェンリルはもうラティの影に戻っていいよ。ここからユニコーンと仕事の話をするから』


 そうして犯人が聖女たちであることや、毒の注入方法を聞き出し、僕がいいというまでそのまま過ごすように伝えユニコーンを解放した。




 国議で驚いたラティもかわいかったと余韻を噛みしめる。


 いつも穏やかな微笑みを浮かべているラティが、僕の手によって表情を崩すのが好きでたまらない。このベッドの準備だって、そんなラティが見たくて手配したものだった。




 ——国議の一週間前。


『フィルレス様、これを本気で進めるのですか?』


 僕が出した指示書に目を通したアイザックが、眉間に皺を寄せて尋ねてきた。


 指示書には今の寝室のベッドを国議を開催している間に、衝立を撤去しキングサイズのベッドへ交換するよう書かれている。


『うん、国議でラティに婚姻宣誓書をサインしてもらう段取りがついたから。翌日まで僕とラティも休みにしたし、もう限界だし』

『せめて結婚式まで待てませんか? これではラティシア様があまりにも……その、驚かれると思いますので』

『うわ、そんなラティもかわいいよね……もう王妃教育に切り替えているのも言った方がいいかな?』


 ここでアイザックが深いため息を吐いて項垂れる。僕が決定したことに反論する気持ちが萎えたようだ。


『王妃教育については終わってからの方がよろしいと思いますよ。その方が気が楽でしょう。でも、ラティシア様の同意なしで寝室のベッドを入れ替えるのは、いかがなものかと思います。せめて許可は取ってください』

『うーん、仕方ない。今夜聞いてみるよ』


 その日の夜、僕はラティと一緒に夕食を済ませて食後の毒物チェックを入念にした。いつもの倍は時間をかけて、ラティの判断力を鈍らせていく。


 頬を桃色に染めて、とろんとした表情に危うく押し倒したくなったけど、グッとこらえた。


『フィル……様? い、つも、より……長い……!』

『んー、まだダメ』

『も……む、り……っ』


 アメジストの瞳が潤んで熱を孕んでいる。このまま次に進めそうだけど、そこはラティを尊重したいので鋼の意志でなんとか終わらせた。


『はあ……今日も大丈夫だったね』

『は……い』


 ラティの火照った頬にそっと指を滑らせると、それだけで愛しい婚約者の身体がピクッと震える。その反応に満足して僕は女神の許しを乞う。


『ねえ、ラティ。寝具の交換をするけど、いいかな?』

『寝具……? ね、眠れないの、ですか?』


 うまく回らない頭で僕の心配をしてくれるラティに愛しさが込み上げた。こんな僕に捕まってラティに同情さえ感じたけど、もう手離すことなんかできない。


『うん、最近特にね。だからもっとよく眠れるものに交換していいかな?』

『はい、睡眠は大切、です……』

『ふふ、ラティ。ありがとう』


 これだけ陶然としていたら、ラティはきっと覚えていないだろう。

 首尾よくラティの許可を得た僕は、国議の間に準備を済ませるようアイザックに伝えた。




 すやすやと眠るラティの頬に口づけを落としたけど、なんだか物足りなくて柔らかな唇も懐柔する。

 だんだん止まらなくなって、ラティを味わうように深いキスを重ねた。


「はあ……寝かせてあげたかったんだけど。ラティが魅力的すぎて止められない。ごめんね」


 本人には届かない謝罪を伝え、そのまま自分の欲望に身を委ねて最愛の妻を貪る。途中で目覚めたラティは混乱していたけど、すぐに僕のとめどない愛に飲み込まれた。


 こんなに執着して、何度も何度も僕を刻みつけて、いつか君は重すぎる愛を受け止めるのが嫌になってしまうかもしれない。


 でも、たとえ愛が憎しみに変わっても、君が僕に染まるならそれでもいい。

 どんなに君が逃げたくなっても許さない。

 僕が世界のすべてを敵に回してもラティを守るから。


 だから、どうか。



 僕の最愛——永遠にそばにいて。




最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!

第二部はこれにて完結となります。


ラティのフィル様の物語は楽しんでいただけましたでしょうか?

腹黒フィル様は個人的に最高に好きなキャラで、毎度のことですが作者の煩悩が暴走してしまいました(笑)


こちらの作品は電子書籍化とコミカライズが決定しており、情報解禁になりましたら活動報告などでお知らせいたします。


これからも執筆を続けていきますので、応援してくださると嬉しいです。

最後にブクマや★★★★★などで応援してくださった皆様、大変励みになりました!

本当にありがとうございます!


今後もよろしくお願いいたします<(_"_)>ペコッ

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