真実の愛に目覚めるからだ。王族用思考同期型装甲巨兵、プリンス・オブ・ハイファット、桎梏(しっこく)。
「手加減するのがたいへんでさあ」
「ああ、そうだなあ、それにくらべて婚約者のエメラルド様はすごいなあ」
「そりゃそうだろう、ハイランド家は王国一の武の名門だぞ」
「まあそう言ってやるなよ、アルフレッド王太子も頑張っているんだ」
「でも俺の機体は、半思考同期型だぜ」
「王太子の機体は、思考同期型だろお」
半思考同期型と思考同期型の性能差は1.5倍くらいある。
「ははは、違いないな」
「くっ」
僕は物陰から兵士たちの話を聞いた。
僕の名前は、アルフレッド・ハイファット。
この国の王太子である。
今日は、貴族学園の入学式だ。
入学記念の催しで”武闘会”が開かれた。
装甲巨兵で武を競うのだ。
エメラルド・ハイランド侯爵令嬢。
幼いころに結んだ僕の婚約者だ。
彼女の駆る、思考同期型装甲巨兵、”シェヘラザード”
大きな鎌にヘビ状の下半身。
上半身は、口の周りを薄絹で隠した美女の姿である。
彼女は十二歳で、社甲会デビューしてから負けを知らなかった。
学問も優秀。
僕は今回の武闘会も軽く一蹴されている。
「……何をしても彼女に勝てない……」
さっきの兵士のように、陰で比べられてバカにされているのだ。
「ふううう」
僕はあきらめのため息をついて、装甲巨兵に乗り込んだ。
嫌なことがあった時や落ち込んだ時、城の裏山の崖にこっそり装甲巨兵で出かけるのだ。
月のきれいな夜だ。
崖の際に巨兵を座らせる。
プシュン
下向きに開いた胸部装甲に胡坐をかいて座る。
大きな満月に、巨兵と自分の影を映した。
カラリ
スキットルの蓋を開け一口、安物のウイスキーを含む。
「苦いな……」
兵士たちの陰口を一緒に飲み込んでいるようだ。
今十五歳。
三年後、学園を卒業と同時にエメラルドと結婚する予定である。
もう一口飲もうとしたとき、
バサア
青白い月を更に白く切りとりながら、天使が空から現れた。
「……聖女機、ホワイトメイデンか……」
背中の金属製の羽毛で重力を制御しながら、僕の前に降りてきた。
ファーストビル教の聖女機。
白い翼に鎧を着た乙女の姿。
額のティアラには、涙滴状の赤黒い宝石がゆれる。
最近聖女を選別したというが。
パシュン
聖女機の胸部装甲が下に開いた。
装甲の間にチラリと黒いドレスが見える。
「こんばんは」
聖女が操縦席から出てきた。
「聖女、ピジョンブラッドか」
彼女の額にも、機体と同じティアラと赤黒い宝石がゆれる。
「何の用だ」
僕の秘密の場所に押しかけてどういうつもりだ。
「……アルフレッド殿下、あなたを○○しにきました……」
無表情に言った。
「な、なにっ○○だとっ」
急いで機体の中に入ろうとするが、
ぐああああ
赤黒い宝石があやしく光る。
頭があ。
頭に何かが入ってくる。
「くうう、があああ」
はあっ、はあっ
頭の痛みが治まった。
エメラルドや兵士の陰口のことは何も気にならなくなった。
ピジョンブラッドの頬に手を当てる。
「愛している」
僕は無表情に言う。
「お慕いしております、アルフレッド殿下」
ピジョンブラッドも無表情に答えた。
僕は三年後、学園の卒業式でエメラルドに婚約破棄を告げる。
真実の愛に目覚めるからだ。
装甲お嬢様シリーズ第十一段。
桎梏の意味、手枷、足枷、自由を束縛すること。