奴隷商人、見回りする。
街の入り口に近くにある、パン屋のツェルさん。
可愛らしいクリーム色の屋根に、壁は卵の黄身のようなカラーの壁だ。毎回思うけど、店が美味しそう。
「こんにちは〜!」
「いらっしゃいませ〜。あ、フィオ〜!!」
「リコ、こんにちは。どう?元気でやってる?」
ふわふわとボブくらいの長さの黄色の髪を揺らして、私の方へやって来て、嬉しそうに笑うリコ。看板娘は今日も可愛らしくて、大変安心する。
「はい〜。あ、今日はパンは何にしますか?」
「食パンを2斤!あと、チョコクロワッサンを2つ!食べて帰る〜」
「はいはい、お待ちください〜」
リコは嬉しそうに食パンとチョコクロワッサンを包んでいると、店の奥からおばちゃんがニコニコ笑ってやってくる。
「あら〜、今日も買いに来てくれたの?ふふ、リコちゃんだけでもとっても助かってるのに、こう毎回買いに来てくれると、悪いわね〜」
「とんでもないです!ここのパン、美味しいんですもん!」
「ありがとう。リコちゃんも大分無理せず仕事できるようになったわよ」
そうイタズラっぽい顔でリコを見ると、リコはちょっと照れ臭そうに笑っている。
リコは買われた当初、緊張から働きすぎて倒れてしまったのだ。
そんな訳で、つい無理してないか、緊張は取れてきたか?
と、通っては様子を見に来ている。
「もう大丈夫ですよ〜。おばさんも、おじさんも優しくて、甘やかしてくるから・・、最近太ったんだよ」
「太っていいくらいだよ。リコは細すぎたもん、うちの貧しいご飯のせいで!」
私がそう言うと、リコは「そんな事ないよ〜」と笑うけど、うんうんいい笑顔だ。ホッとしてパンを受け取ると、リコはちょっと声を潜めて私に話す。
「‥ところで、一緒に入って来たお兄さんは誰?彼氏??」
「色々あって、従業員です」
奴隷希望とは言えない。
静かにそう話すと、リコは「へ〜〜?ふ〜〜〜ん??」と、ニヤニヤしている。君、大分たくましくなったね。
パン屋のおばちゃんは、クッキーもおまけにくれた。いつもご馳走様です。
次のお客さんも来たので、今日は簡単に挨拶して店を出る。
「‥もう、そろそろ大丈夫そうだな」
「毎回、こんな感じで、回っているのか?」
サイファの言葉に顔を上げる。
「うん。双方が落ち着くまでね。といっても、私はそんなに商売上手じゃないし、あまり売れないの。そのおかげでこうして一軒一軒回れるんだけどね」
とほほ‥。
自分で言っておいて、情けないぜ。
買ったチョコクロワッサンを一つサイファに渡して、自分の分をパクッと食べながら歩いていく。
「この国は、獣人達が特に人権がないからね、一人でも多く助けたいんだけど、難しいから‥」
この国だけでなく、世界全体で奴隷に対する対応はいいとは言えない。もちろんああやってリコの家のように大事に取り扱ってくれる家もあるけど、大概が手酷い対応だ。
だから、奴隷になりたいなんて‥、言って欲しくないし。
なって欲しくもないんだよね。
そう思って、サイファを見上げる。
「奴隷になっちゃったら、チョコクロワッサン食べられなくなっちゃいますよ?」
そう言うと、サイファは言葉に詰まったような顔をする。
「‥だが、俺は」
サイファが何かを言いかけて、その言葉の続きを聞こうとすると‥
「「おや?売れない奴隷屋さん?お仕事さがしですか?」」
はい!出た!!嫌味第二号!!!
うんざりした顔で振り向くと、もう1店舗ある奴隷商人のおっちゃんがこっちをニヤニヤした顔で見ている。
う〜わ〜〜、何その横のムキムキな男。
確かに陽気はいいけど、半裸にするな。服を着せてやれ、服を。私はジト目ででっぷりしたお腹と、指にゴッツゴツの宝石が付いた指輪だらけのおっちゃんを見て、盛大にため息をついた。




