奴隷商人、登下校。
二人でのどかな田舎道を歩いていると、街が見えてきた。
木で出来た家々は、思いおもいのカラーで塗られていて白い屋根に青い家もあれば、赤い屋根に茶色の壁の家もあって、なかなか可愛らしい。
街の中に植えられている木々も新緑のこの季節‥朝日に照らされて綺麗に光っている。サイファさんは、そんな街並みを見て‥、
「‥綺麗な、街だったんだな」
「あ、そういえばサイファさん、来たの夜でしたもんね。直接うちに来たんですか?」
静かに頷くサイファさん。
そうか〜、うちの街はそれなりに綺麗な街だから、堪能してくれよ?
「サイファさんの住む街になるかもしれないですから、よく覚えておいて下さいね。あ、あそこの店でよく雑貨を買うんです。あと、そっちのお店のお菓子が美味しいです」
店を指差しながら説明すると、サイファさんは頷いて確認する。
うん、昨日よりも緊張が解けてきた感じだな。
そう思って、私も嬉しくなっていると‥、
「おい、奴隷商人。そいつは新しい奴隷か?」
嫌味ったらしい声が聞こえた。
朝一番になぜ、こいつの声が‥。
後ろを振り向くと、7歳の時に「や〜い、お前んち奴隷商人〜!」と言ったそばかすの散った男の子が、10年の時を経ても同じように悪態をついてきた。
そばかすは、まだちょっとある。
濃茶の髪をした男の子は、ニヤニヤ笑って私を見る。
「奴隷かどうかは、アッシュに関係ないでしょ。まったく、なんで朝一番に声を掛けてくるかな〜」
「う、うるさい!!目の前で歩いていたら、目につくだろ!?」
「はいはい、すみませんねー」
サイファさんの腕を引っ張って、前へ歩いて行こうとすると、そばかす男子ことアッシュは私を驚いた声で呼び止める。
「フィオ、な、何で腕を‥!」
「はぁ?あんたがうるさいからでしょうが‥」
さっさと学校へ行こうとしただけですが?
そう言おうとすると、サイファさんが私の前に立つ。
「‥サイファさん?」
「‥倒すか?」
おい、朝から何を物騒な事を言ってるんだ。
倒してどうする、一般市民を。
「サイファさん、倒さなくていいよ。あ、殺さなくてもいいからね。まだ見習いなんだから、とりあえず気楽にやっていこうね」
「な、何だ倒すって!!」
「アッシュがうるさいからでしょ〜。ほら、学校始まるから、早く行こうよ」
私がそう言うと、アッシュは嬉しそうな顔になって、私の横に並んでついてくる。
‥こいつは本当に手のかかる男だな〜。
宝石商の息子なんだけど、すぐに嫌味を言ったり、自分は金持ちだって豪語するから、他の同級生に嫌われているのだ。もう少し客商売なんだから、愛想をつけろ、愛想を。
サイファさんを見上げると、ちょっと不満そうな顔をしている。
お、顔の表情筋動くんだな!
嬉しい発見に、目が合うと知らずにこ〜〜っと笑ってしまう。
そんな私を見て、サイファさんはまたちょっと目を丸くするけど、サイファさん‥、人は笑う生き物だからね?って思った。
木造りの茶色の建物が見えて、私はサイファさんの腕をちょいっと掴んで指差す。
「あれが私の通ってる学校。今日は2時くらいで終わるから、帰ったらまたお仕事の話をするね」
そう言うと、サイファさんは静かに頷いて、
「迎えに行く」
「いや、爺ちゃんの仕事もあるだろうし、無理しなくていいよ」
「‥迎えに行きたい」
う、う〜〜〜〜ん!!??
ジィっと金の瞳が私を見つめて、「 NOは受け入れられません」みたいな顔をしている。
なぜ我が家に来る奴隷(希望)ってのは、商人の言う事を素直に聞かない奴ばかりなのか…。小さくため息をついて、サイファさんを見上げる。
「‥じゃあ、待ってます」
そう言うと、サイファさんは初めて小さく笑った。
わ、笑った!!!
サイファさんが笑ったどーーー!!!!思わず叫びたかったけど、慌てて口を塞いだ私、グッジョブ。




