奴隷商人ですが、学生です。
キッチンはそれは結構広い。
18畳くらいあるんだけど、大きなコンロにオーブン。戸棚もテーブルも椅子も全部爺ちゃんと、犬の獣人のペリートさんで作った。
大きなテーブルに、大きなオムレツがドンと湯気を出して大皿にのっている。
各自のお皿にカリカリのベーコンがのせられ、籠いっぱいにパンが入っている。お代わりは自由です。スープは各自でよそるスタイルである。
「いただきまーす!」
私の挨拶と共に、朝食開始である。
こっちの世界では食前の挨拶がないので、私が教えた。
前世の何気ない食前の挨拶であるが、ドワーフの爺ちゃんに、
「なんで「いただきます」って言うんだ?俺は教えた覚えがないぞ?」
って言うから、いただきますってのは、用意してくれた人、その食材の命に対して「ありがとう」の意味も込めて、「いただきます」って言うと、子供ながらに説明したらいたく感動され、それ以来使っているのだ。
サイファさんは、初めての食前の挨拶にまたまた驚いた顔をしている。
「サイファさん、パン何個食べる?」
「え‥」
私がパンの籠を持って渡すと、驚いた顔をする。お代わり自由だよ?
「2個?3個??」
「‥2個‥」
「はい、じゃあ2個ね!お代わり自由だから、スープはあっちのカウンターにあるから、飲みたいなら入れておいで」
オムレツを取り分けて、お皿にのせつつそう説明する。
あ、取り分けるのもしておくか。サイファさんのお皿にドンと、オムレツものせておく。いっぱい食べておけ。爺ちゃんに付き合わされると大変だから。
「はい、こっちのオムレツはサイファさんの分ね」
「‥あ、ありがとう」
ウンウン、ちゃんとお礼が言えて偉いぞ〜。
ペリートさんは、サイファさんの隣に座ってお世話をする私を見て、ニヤニヤしている。
「お〜、やっぱりフィオもイケメンには弱いんだなぁ」
「何アホな事を朝から抜かしているんですか、昨日の夜、酒瓶片付けてなかったから、ニュイさん怒ってますよ」
げっ・・と、ニュイさんを見るペリートさん。
ニュイさんが、微笑むけど‥、あれは「お前これで何度目だ?」の顔である。
爺ちゃんは、時計を見て‥
「フィオ、そろそろ学校だろ?」
「ああ〜〜、そうだ!!行ってきまふ!!」
「フィオちゃん、お弁当忘れずにね〜」
慌ただしくオムレツをかき込むと、もぐもぐ口を動かしながらカウンターに置いてあるお弁当を掴む。
そう、奴隷商人ですが、まだ学生なんですよ。
あと一年で終わるけど、早く卒業して本腰入れたいんだよね〜。
バタバタと二階へ上がって、爺ちゃんの作ってくれた鞄を掴む。
10年経って、なかなかいい色合いに変化した。
お弁当をそこへ豪快に突っ込み、一階へ降りていくと、サイファさんが階段の下にいる。
「サイファさん?まだご飯食べてていいよ?」
「‥送っていく」
「え?いいよ、徒歩で15分くらいだし」
「奴隷見習いだから‥」
いや、実はそれ嘘でして〜・・とは言えない雰囲気ですね。
爺ちゃんはいいのかな?
ここにいるって事は、いいのかな?
「じゃあ、案内がてら一緒に行きますか?」
「ああ」
そういって、サイファさんは小さく頷いた。
まぁ、街も案内しておかないと、今後買い出しとかにも行ってもらうしなぁ〜。そう思って、一緒に家を出る。
街外れにある我が家は、周囲が森に囲まれていて、鳥の鳴き声なんかもして、大変のどかである。
「あ〜〜!今日もいい天気ですね!」
「‥そう、だな」
お、いつもと違う返答だ。
「朝ご飯、美味しかったですか?」
「‥美味しかった‥」
ふふ〜〜〜、そうでしょう?
ニュイさんのご飯は、どれも美味しいんだ〜〜!ニマッと笑うと、サイファさんがまた目を丸くして私を見る。
私の笑顔は、何か珍しいものなのか?思わず顔をモニモニと片手でつまんでみた。




