奴隷商人、もう一軒経営しております。
塩がついた手をパンパンと払っていると、サイファが私をじっと見る。
「さっき‥」
「うん、さっき?」
「袋を渡した時、何かまじないを掛けたか?」
「え!?分かったの??」
サイファは静かに頷いて、私の答えを待つようにじっとしている。
う〜〜ん、まぁ、サイファなら大丈夫か?
「一応、企業秘密なんで黙っててね。さっきのおじさんに、同業者が分かるよう「こいつは気を付けろ」ってサインを貼り付けておいたの。ただ、あれは奴隷商人にしか見えないし、気をつけろの意味も幅広いの」
「意味?」
「そ!金払いが悪いとか、すぐクレーム入れてくるとか‥、こんな奴に奴隷を売りたくない。とかね」
私がニマッと笑うと、サイファがちょっと目を丸くする。
「どっちにしろ、あのマークを入れられたら取れないし、例え違法に売っている奴隷商人でも、おいそれと売らなくなるって訳」
「なるほど‥」
「だけど、これは秘密だからね!破ったら、絶対奴隷にしないから!」
私がそういうと、サイファは小さく笑って頷いた。
うん、頼むよ〜〜!でも奴隷はどっかで諦めてくれよ〜〜!
しかし、竜族って奴隷商人にしか使えないまじないが見えるのか‥、そっちに驚きだ。やっぱり魔力が桁外れっていうのは、眉唾モノではないんだな。
リビングに戻ると、ペリートさんが灰色の耳をした獣人の子が逃げ出さないように見張っていてくれている。
「ペリートさん、お疲れ〜」
「おう、久々に酷いの来たな」
「塩撒いておいたよ!」
「‥お前、塩いつもケチってるから、いけないんじゃないか?」
う、言わないで‥。
ちょっとそう思ったから。今度はケチらずに撒くよ‥。
私は狼獣人の子の側へ行って、ちょっとしゃがんで顔をじっと見る。
灰色の髪はボサボサで、耳はちょっと先が尖っている。
綺麗な灰色の瞳は、不安で一杯だ。
「‥さっき、おじさんと一緒になって酷い事言ってごめんね。私はフィオ。怖かったね、もう大丈夫。ここはね、奴隷販売店なんだけど、もう一つ名前があるの」
私がそういうと、灰色の狼の獣人がそっと顔を上げる。
「奴隷解放店オニキスって言うの」
そう言って、ニヤッと笑うと、狼獣人の子の瞳から涙がブワッと出てきた。私はその子の横に座って、そっと背中を撫でる。
「本当‥に?」
「本当です」
「帰れる?」
「帰りたいなら、帰れます。‥ただ、そのぉ‥」
私はちょっと目が遠くなる。
こればっかりは慈善団体のように無償で出来ないので申し訳ないんだけど‥。
「銀貨7枚、住み込みで働いて貰って返して頂けると助かります‥!貧乏なの、ごめんね!!!でも、衣食住は保証するから!!ごめんね〜〜〜!!!」
思わず両手を合わせて謝ると、狼の獣人の子はちょっとぽかんとして私を見る。
「殴らない?」
「うちは暴力ご法度です!!」
「食事は‥」
「三食おやつ付きです!!に、肉は少なめだけど‥」
「家族に連絡」
「いくらでもして!!なんなら手紙と切手は差し上げます!!」
私はそう言ってから、顔を上げて‥
「絶対、泣かさない!それもうちの方針です」
狼の獣人の子は、涙をゴシゴシと拭いて、私を真っ直ぐに見つめる。あ、もうこの子は大丈夫だ。そう思ってにっこり笑う。
「・・僕、ヒューイ」
「素敵な名前だね。ヒューイ」
ヒューイは、少し微笑んでから私の首元の匂いを嗅ぐ。
挨拶なんだけど、犬系とか狼系のこの挨拶はちょっと照れるんだよな〜。でも、この匂いを嗅いでもらって安心してもらうから、必要なんだよね‥。
とはいえ、17歳の乙女。
恥ずかしくて、チラッと横を見るとサイファがジィ〜〜〜〜〜ッとこちらを見ている。な、なに??首を傾げて、サイファを見ると、慌てて顔を横に背けた。いや、なに???気になるんだけど。




