奴隷商人、様子を見る。
タオルとシーツを風呂場から持ってきて、外へ一旦出てもらう。
流石に家の中で過ごしている奴隷もいるんだけど、どんな人かもろくすっぽ分からないのに家の中に泊める訳にはいかないので、離れに案内する。
部屋にあるランプを付けて、離れの中に入ってもらう。
まぁ〜、前世の記憶でいえば6畳くらいの部屋だ。
トイレと、洗面所も完備。
これまたドワーフの爺ちゃんが「暇だ」と言って作った離れである。暇なら奴隷を売ってくれ、奴隷を。
サイファさんは、またも驚いた顔をして部屋を見る。
「‥あの、本当に、泊めてもらって良いのか?」
え、今言う?それ。
ちょっと私が驚くんですが。
とはいえな〜〜、いきなりその辺に放置できないでしょ。ここまできたら。
「大丈夫ですよ。うちの外観を見て、宿屋って勘違いしてくる人もいるんで、たまに泊めたりもしてるし。」
マジである。奴隷販売店より宿屋の方が儲かるかも
なんて思った事もあった。
ちょっとぽかんとしているサイファさんにタオルを渡して説明する。
「とりあえず、タオル類はこれを使って下さい。シーツはちゃんと敷いて下さいね?洗面所と、トイレはこっち。あ、歯ブラシあります?なければ、ここのを使って下さい。朝ご飯は7時半!私は7時にはリビングにいますから、その頃にまた来て下さい」
うん、大体こんなもんかな?
サイファさんに言うだけ言って、顔を見上げると‥、また目を丸くして私を見ている。
「何か、疑問とかあります?」
「‥幼いのに、しっかりしているんだな」
「えーとですね、こう背丈が小さい方ですが、これでも17歳の乙女を営んでおります」
そう言うと、更に目を丸くした。
人間の大きさってのはな、背のデカさで決まるものじゃないんだぜ?
「とりあえず、今日はもう大丈夫ですか?」
「‥ああ。その、ありがとう‥」
サイファさんは、静かに私にお礼を言ってくれた。
ちゃんとお礼を言えるって、大事だ。‥うん、ちゃんと礼儀は分かってる。確かに奴隷にしたら即、売れそうだな。と、奴隷商人としての魂がウズウズしてしまう。いかん、いかん、奴隷見習い!!
「じゃあ、また明日!おやすみなさい」
「‥おやすみ、なさい」
サイファさんは、またちょっと目を丸くして手を振る私を見ていた。
挨拶とか、あんまりする人いなかったのかな??
ま〜、明日の朝起きたらいなくても、別にいいや。
もしかしたら本気で奴隷になりに来た訳じゃなくて、何か気の迷いもあったかもしれないし!そう思って、自分の部屋へ上がると、爺ちゃんの作ってくれた大きなベッドにダイブする。
ものすごいイケメンなのに、帰る場所がない。奴隷になりたいと、心細そうに話すサイファさん‥。
「奴隷にならなくても、幸せにはなれるのにな」
ボソッと呟いて、あくびを一つするとそのまま毛布を掛けて、あっという間に私は眠った。とりあえず、細い事は明日考える!!
翌朝、着替えて一階へ下りる。
リビングにはドワーフのドロワ爺ちゃんがすでに何かを作っている。
万年貧乏な奴隷販売店で、爺ちゃんの作る木工作品は大事なうちの経営を支えている戦力の一つだ。泣ける。
「おはよう〜爺ちゃん」
「おう、昨日なんか客が来てたみたいだったが、売れそうか?」
「あ〜、それなんだけど、買いに来たんじゃないの」
「じゃあ、売りに来たのか?」
「奴隷になりに来た」
「あ”あ”っ!!??」
爺ちゃん、その険しい声と顔をやめてくれ。
そんな顔に慣れていない人が見たら、ちびるレベルなんだから。
「なんだってそんな奴が来たんだ!?」
「知らないよー。でも訳ありっぽかったから、奴隷見習いって事にしておいた。従業員としてひとまず置いておく」
「‥お前、またエンゲル係数をあげるんじゃねぇ!」
「知るか!!爺ちゃんだって、すぐに奴隷売らないくせに!!」
「「あったりまえだ!!可愛い奴隷をそんなホイホイ売れるかぁああ!!」」
爺ちゃんのこういう所、嫌いじゃないけど。
そんな訳で我が家は万年貧乏なんだよな〜。まぁ、裏の畑には野菜もあるし、近くの川へ行けば魚も釣れる。自給自足で生活できるって本当に最高である。
そんな会話をしていると、リビングにサイファさんが入って来た。
あ、良かった‥。なんだかホッとしてサイファさんに微笑む。
「おはようございます!」
「‥お、おはよう」
またも目を丸くしたサイファさん。
しかし、挨拶は大事である。ちゃんと挨拶を返してくれて、私はまたも微笑んだ。




