奴隷商人、見回りから帰る。
でっぷり腹のドッティさんは、もう一軒ある奴隷販売店なんだけど‥、この人クセがすごい!ヒゲをちょいちょいと指で摘みつつ、私達を上から下までジロジロ見てくる。
「お?なんだ?そいつは、奴隷か?いくらだ??」
サイファを見て、興味津々だ‥。
売り物ではない。
本人は奴隷希望でも、私は売らないぞ。
「売り物ではありません。今の所、見習いです」
「何だ!!だったらうちに来い!!給与は弾むぞ!!」
「人の目の前で勧誘しないで下さい!!」
まったく、このおっちゃんと来たら‥、私は呆れてサイファの腕を掴んで通り過ぎようとすると、半裸のムキムキのおじさん?お兄さん??が、私をチラリと見て、
「奴隷商人?子供の遊びか?」
うっわ、ムカつく捨て台詞を!!
ドッティさんは、「こらこら」とか言いながらニヤニヤしている。本当にムカつくわ〜〜!でも、いいや、無視したろ!
そう思って、先へ急ごうとするとムキムキの人が私の手首を掴んで、自分の方へ引っ張ろうとする。
「お前が奴隷になればいくらで売れるだろうな?」
「なっ‥!!!」
なんつー事を乙女に対して言うわけ!??
ドッティさんは、流石に焦った顔をして、止めようとする。
その瞬間、
サイファがムキムキの人の腕を掴んで、バキッと音を鳴らす。
バキ???
「「ぐぁああああ!!」」
「フィオから手を離せ」
「さ、サイファ!!!」
あまりの痛さからなのか、ムキムキの人は私から手を離す。サイファの手はムキムキの人の腕を掴んだままなんだけど、ミシミシいってる〜〜〜!!!
「「ちょ、ちょっと!!!もういい!!大丈夫だから!!サイファ、やめて!!」」
そう言うと、サイファは大変不服そうな顔をして、パッと手を離す。
ムキムキの人は、もう声も出ない‥。
あまりの事に圧倒された私は、ドッティさんと、ムキムキの人を見て‥、
とりあえず逃げることにした。
「サイファ!!行くよ!!」
「え?」
サイファの手を掴んで、勢いよく家の方を目指して走っていく!!
うわ〜〜〜、当分街を歩く時は気をつけなきゃ!とか、
しっかしすごい力だったなぁ〜とか、思うけど‥先ずは逃げるが勝ちだ!!
しばらく走って、走って、ようやく家が見えてきた所で、サイファを見る。
私はめちゃくちゃ息が上がっているのに、サイファは息ひとつ上がっていない。っていうか、汗もかいてない。
「も、サイファ、なんで、あんな突然‥」
だめだ!!!
息が整わない!!
ゼェゼェ言いながら話すと、サイファは私の握った手をじっと見る。
「‥奴隷は、主人を守る」
「「ま、まだ‥、奴隷じゃ、ないでしょー!!!!」」
ぜぇはぁ言いながら叫んだよ。
まったくもう!!これは目が離せない!っていうか、奴隷だったら、即他人を傷つけた時点でものすごい痛みが体に走るってのに!!
「も〜〜!!確かに助かったけど、むやみに傷つけちゃダメですよ?」
「‥‥‥ああ」
めっちゃ不服そうだな?
手を離そうとすると、サイファは私の手を握り返す。
「‥また何かあったら、まずい」
「もうない。家まで多分50メートルもないから、何もない」
「何かあったら、危険だ」
「私の意見を聞いてぇええええ!!」
しかし、サイファは私の手を握って離す気配がない。
まぁいっか‥。これはリード、リードの代わりだと、自分の手をしっかり握るサイファの手を見る。
よく見ると、剣だこができていて‥、ああ、これは相当戦っている人の手だなって思った。カサ付いていて、所々に傷も付いている。
さっきのムキムキの人の手は鍛えてはいたけれど、手は綺麗だった。あれは、観賞用の筋肉みたいなものか?ドッティさんの趣味、本当意味わかんな〜〜い。いっつもけったいなのを買って来るんだけど、本当どっから仕入れてるんだろう。
私はため息をついて、サイファを見上げる。
大きな体をピクリと揺らして、サイファは私を心細げに見つめる。
あんなにムキムキの人に、ことも投げにやり返していたのに、なぜそんな心細そうな顔をする?私はちょっと微笑んで、
「助けてくれて、ありがとう。帰ろっか」
「‥っ!」
サイファは、目を見開いて私を見ると、コクコクと頷いた。
私が手を引っ張ると、サイファはその手をぎゅっと握って一緒に歩いていく。
うん、これは手の掛かる奴隷候補だな。さて、どうやって育てていこうかなぁ〜そんな事を考えつつ、ちょっと抱えて走った為にクタクタになった食パン2斤を遠い目で見つめた。




