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「とにかく詩歌には私がいる。もしもの時は私がどうにかできるから、安心していいよ。そんな顔して怖がらなくていいんだ。でも一番ベストなのは、鬼に捕まらないこと」

「どうやったら捕まらないの?」

「それはね····」


 そして母は怖がる私の頭を、よしよしと撫でながら教えてくれた。


 満月の夜に集められた十二人は、必ずバラバラになって、十二の方角に隠れるようになる。


 鬼は必ず一時間に一人のペースで、最初にいた所を起点にして、北北西から南を通り、北に向かって生け贄を見つけていくようにできている。


 また、儀式が終わるまでは廃墟とその周りの空間は夜に支配される。


 これは儀式の絶対的なルールとなっていて、その場の全員が無意識に従うようになるらしい。


 どうして無意識にルールに従うのかは、考えても意味はないみたい。母曰く……。


「そんなもんだから、理由は考えても無駄だ。けどまあ、宇宙人に洗脳されてるとでも思ってれば良いよ」


 だったわ。鬼とか幽霊に続いて、宇宙人まで出てきたから、当時の私の頭はSFホラー一色になっていた。


 夜空には必ず月と星が出ているから、位置関係で大体の方角を知る方法も、母はその時教えてくれたの。


 そして十三人目はかくしおにの実行者である事。そして必ず北に隠れる。これもルール。


 だから同じく北に隠れる十二人目だけが、実行者を見つけられる。


 そして十二人目は、十三人目に一番怨まれる人間が選ばれる。十二人目を()の生()にする事で、()よりもつらい()しみを()えて殺させるのが、かくしおにだから。


 けれど呪いはある意味、平等でなければならない。だからか十二人目だけは、十三人目が誰だかわかるのもルールらしい。


 鬼が各方角を順に巡って十一人を食べていくから、言い換えればその十一人が鬼に見つからない限り、十二人目は鬼には決して見つからない。


 だから十一人を本当の意味で救えるのは、最後に食べられる人だけに可能なアクションを起こせる十二人目だけ。


 そのアクションは、十二人目が自分を食べにきた鬼ではなく、十三人目を指差してこう叫ぶ事。


『今宵は朔なり、我朔月なり。我らを隠せし者、見つけたり。八将神の導き願いて、満ちし扉を閉じん』


 必ず鬼が「見つけた」と告げる前に、十三人目を見つけて、指差して言わなければならない。


 失敗すれば十二人目も含めて、全員の魂が鬼に食われる。そうすると夢で起きた十二人の死が、現実世界に反映されて体の方へも正式な死を与えられる。


「だからね、詩歌。自分も、巻きこまれた誰かも助けたいなら、怖くても必ずやるんだよ」


 母は最後に優しくそう告げた。


 今考えても、私が加苦死鬼贄の十二人目に選ばれるのがわかってたような口ぶりだったわ。やっぱり母は、昔から不思議な人。


 最後に助けてくれたし、やっぱりシャーマンだったんじゃないかな。


 何にしてもヨハンが食われた時は絶望したし、母が言った事が正しいかもわからなかった。あの気持ち悪い鬼を前に、足が震えてやめたくもなった。


 けど失敗したら死ぬって母の言葉が、ギリギリのところで私を奮い立たせてもいた。


 八将神は方位の神様達の事で、朔や朔月は満月の反対の新月の事らしい。


 方位がルールに組みこまれているから、方位の神様達にお願いすると良いみたい。


 元の世界に導いてもらいつつ、満月に支配されたあの空間を閉じるよう、お願いをする。


 でも当時は五歳よ。


「いまいちわかんない。すぐに忘れちゃいそう」


 私が涙目でそう言うと、母は優しく抱きしめてくれたの。


「大丈夫。そんな時の為に私の力があるんだから。それに詩香には、ママ特製のお守りもあるからね。お守りが近くに無くても、いざという時は必ず守ってくれるよ。燃えるゴミに出すのだけはNGだから。もちろん、そんな事にならないよう祈っているけど……うちの娘は言っても聞かなそうだからなぁ」


 チュッとおでこに柔らかな感触がして、安心したのかそのまま眠ってしまった。


 どうでも良いけど、母の遺品でもあるお守りをゴミに出そうと思った事は一度もないわ。


 そういえば、最後の一言だけは、やけに実感がこもっていて、意味ありげだったような気がする。


 鬼から無事逃げきった今だから気になる。


 あの廃墟で母が最後に告げた「犯人を探すな」って言葉に対応しているような気が、しなくもない。だって私は、これからも母を殺した犯人探しを止めないもの。

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