学校で大人気の美少女コスプレイヤーが実は女装した俺な件 ~ヤンデレ王子達や美少女達が俺を放っておきません~
いつもと同じような作品です。
ではどうぞ。
朝のホームルームが始まる前。
クラスの女子達がスマホを片手にキャーキャーと騒いでいた。
「みんな見た!? アズリルちゃんの新作コスプレ!」
「もちろん見た! twittarで何回も回ってきたよ! 50万も"いいね"が付いてたね!」
「可愛い過ぎ! 私も"いいね"100回押した!」
「それ、最終的に"いいね"外しちゃってるからね!?」
俺、三島 飛鳥はその光景にため息を吐きながら一番後ろの席で学ランを着崩して気だるげに窓の外を眺めていた。
そんな俺のもとに、男子生徒たちが集まってくる。
「「三島さん! おはようございます!」」
「おう、お前たちか。おはよう」
彼らは俺の舎弟を自称する男子生徒たちだ。
この学校で俺は番長という存在になってしまっているらしい。
俺は喧嘩が"異常"に強い。
他校の不良に絡まれているコイツらを助けていたらいつの間にかこうなっていた。
「――ところで、三島さんはコスプレイヤーのアズリルちゃんはご存知ですか? どの教室も彼女の話題で持ちきりなんですよ!」
俺の右腕を自称する青山が急にそんな事を聞いてきた。
もう一度、ため息を吐く。
「はぁ? コスプレイヤーだと? そんなもんにみんなハマってるのかよ?」
「はい! これが馬鹿にできなくて、凄く可愛いんですよ!」
「う……。だ、男子がハマるのはまぁ分からないでもないが、なんで女子も騒いでるんだ?」
「それが彼女、なかなか男気溢れる奴でして! だから女子にも大人気なんです! ブームの発端となった『この動画』を見てください!」
そう言って、青山は俺に"とある動画"を見せる。
夏のコミケ会場。
獣耳と尻尾を付けた可愛らしいゲームキャラの格好をした女の子――アズリルが満面の笑顔で写真撮影に応じていた。
とんでもない人気だ、周囲をとり囲むように人がごった返している。
その中には女の子のファンも少なからずいるようだった。
――やがて、カメラを持った男性の波が、アズリルを見ていた一人の女の子を押しつぶしてしまう。
みんな、アズリルの写真をできるだけ良い位置で撮ろうと必死になって、そんな女の子など気にもかけていないようだった。
そんな様子を見たアズリルは着け耳を外して一言、「どけ」とカメラマンたちに睨みを効かせた。
人をかき分けると、その中で目を回して倒れていた綺麗な黒髪の女の子を抱き上げる。
そして、無事を確認すると安心したようにため息を吐いた。
「――おい、こんな風に彼女を苦しめるなら今日はもうここまでだ。私を撮りたいならもう一度、写真の撮り方を勉強してからこい」
そう言って女の子を抱えたまま楽屋に帰って行ってしまった。
――動画はここで終わっていた。
見終えた俺に、舎弟たちが嬉しそうな表情で次々と口を出す。
「何度見てもかっけぇぇ!」
「この動画が話題になって、テレビでも取り上げられたんですよ!」
「マナーの悪いカメラマンが減って、他のコスプレイヤーの方々の憧れになっているんです! 今や俳優やモデルさんたちも彼女の思いやりや堂々とした気高い姿に夢中になってしまっているほどです!」
「あの超大人気歌手のシオンもお忍びで見に行っているらしいですよ!」
「世界でも翻訳されて動画が拡散されて称賛されてます! 大物ハリウッド俳優も『彼女が少女を救い出した姿こそが会場で最高の一枚だ』なんてコメントしているんです!」
話を聞きながら、俺は自分の顔が熱を帯びていくのを感じる。
そして、心の中で叫んだ――
(いや、これ俺ぇぇぇぇ!)
そう、アズリルの正体は俺、三島 飛鳥である。
俺がコスプレ中にブチギレた動画がとんでもない勢いでバズってしまっている。
女装は妹に着せられてハマってしまったのだ。
やばい……本当はこっそりと楽しむつもりだったのにもう学校中が全員俺のコスプレ画像を保存してアズリルのtwittarもフォローしてるじゃねぇか。
まぁ、一番の原因は"助けた相手"だよなぁ……。
俺は前方でアズリルのコスプレ画像を見つめたまま、恋する乙女のように呆けた表情でため息を吐く彼女、学校で一番の美少女と名高い白花 春香をチラリと見た。
たまたま助けたのがこの学校で目立つ存在である彼女だったのでこんなことになってしまったのだ。
とはいえ、今や時の人なのでこの学校に限らず有名人なのだが……。
「三島さんもどうですか!? 今度、アズリルちゃんのコスプレを見に行きませんか!?」
青山はそんなことを言ってきた。
マズい……同一人物だとバレないように、なんとしてでも俺はアズリルと距離を置かなくてはならない。
俺は興味なさげにスマホを青山に返した。
「どうでもいい! なんだよ、こいつ。こんな……女みたいな格好しやがって!」
「……? そりゃあ女の子ですからね?」
「へっ? あ、あぁ! そうか、そうだよな! 興味なさすぎて変なこと言っちまったぜ!」
「こっちのコスプレなんかも表情が特に可愛くて最高なんですよ!」
そう言って、青山は今度は別のコスプレ写真を見せてきた。
俺はつい口を出してしまう。
「――この日は化粧し忘れてるな。カメラの角度も悪い、もっと綺麗にできたはず……」
「はい……?」
「うん? あぁ、いや! もっとカメラの角度が下からだったらこいつの下着とか見れたのになって! あははは!」
俺は苦し紛れすぎてそんな事を口走った。
だが、こいつらはこういう話は食いついてくれるはずだ。
有耶無耶になってくれればこの際どうでもいい。
案の上、舎弟たちはスケベな笑みを浮かべた。
「うへへ、三島さんもやっぱりそういうのお好きですよね! でも、アズリルちゃんは絶対に下着とかは見せないんですよね~。過度に肌を出す衣装や水着もNGなんです。まぁ、流行やセクシー路線に頼らない気高さが彼女のいいところなんですけど」
俺はつい満面の笑みで残念がった。
「そうなのか! じゃあ、そんな画像は存在しないんだな! いやー、残念だ!」
「本当に残念ですよ。アズリルちゃんは肌もすべすべで凄く綺麗なのに……」
なんか期待されているが、水着なんて恥ずかしすぎてまだ着られるわけがない。
「でも、三島さん……実はこんな秘蔵の画像もあるんですよ……!」
そういって青山が俺にスマホの画面をまた見せてきた。
その画面にはコスプレした俺ことアズリルの太ももとミニスカートの際どいラインがアップで映し出されていた。
俺は顔を真っ赤にして青山の胸ぐらを掴んだ。
「お、おい! なんだよ、その画像は!」
「み、三島さん! 苦しい! 苦しいですぅ! ネットに上がってたんですよ!」
最悪だ……ネットにある画像なら、こいつの画像を消したところで意味はない。
俺が慌ててつい青山の胸ぐらを掴んだ様子を見て、クラスの女子達がひそひそと話を始める。
「やだ……三島がまた喧嘩してるわ」
「野蛮よね~、下着が見たいとか言ってたし……あのスマホにもアズリルちゃんの太ももが映ってるみたいよ」
「そ、そうなんだ~? 少し気にはなるけど、そんな目でアズリルちゃんを見ないでほしいわ。ね、春香ちゃん?」
「…………」
白花 春香は何も言わずに睨みつけるような視線で俺たちを見つめる。
だが、そんなの気にしている場合じゃない。
とりあえず、いったん青山からは手を離した。
俺はこれ以上アズリルが有名にならないようにネガティブキャンペーンを始めた。
――端的に言い換えればアズリルへの悪口だ。
「とにかく、こんな奴。キャーキャー騒がれてるがどうせ中身はポンコツだぜ?」
いつもは俺がこういえば同意するはずの青山は珍しく怒って反論する。
「そんな事無いですよ! アズリルちゃんはコスプレするキャラクターの好物とかもお料理を作ってtwittarに公開しているんです! お料理上手なんですよ!」
「――そんなの、何度も失敗して、試行錯誤して、ようやく完成したのを何事もないかのようにtwittarに載せてるだけだろ」
俺は舎弟たちがガッカリするであろう真実を伝える。
お前たちが抱いているのは勝手な幻想だ。
「衣装も自作してて、お裁縫も得意なんです!」
「――そんなの、不器用なりに努力して、夜なべしていつも寝不足になりながら作ってるだけだろ。コスプレの見栄えが悪くなるから絆創膏とかは付けないけど、いつも指は針の刺し傷だらけだと思うぞ」
自分で言いながら少し泣きそうになってきた。
本当に俺はまだまだだ。
お料理もお裁縫ももっと頑張らなくちゃいけない。
キャラクター(推し)への愛があればそんなのはへっちゃらなはずだ。
「な、なんか今の三島さんの話を聞いてたら、俺ますますアズリルちゃんが好きになっちゃいました。もし本当にそうだったら健気すぎませんか……?」
「い、いやいやいやっ! ある意味、人を騙している悪い奴なんだぜ!?」
「でも、キャラクターやファンのために頑張ってるってことですよね。しかも努力を見せないようにして……。格好いい」
舎弟たちの間でアズリルの評判が上がってしまった……なぜだ。
不思議に思っていると、"バンッ"と机を叩くような大きな音が聞こえた。
「ちょっと、三島! さっきから聞いてれば、アズリル様のことを悪く言って! 聞き捨てならないわ!」
そう言って俺の席に来たのは例の事件の当事者、白花だった。
綺麗な長い黒髪をなびかせて俺のもとまでづかづかと歩いてくる。
俺の舎弟たちはみんなその美しさに見惚れていた。
(俺、あの時こいつを抱きかかえてたんだよな……)
そんなことを思うと少し恥ずかしくなった。
「人の悪口を言うなんて、最低よ! この馬鹿! アホ! ドジ! まぬけ!」
「俺、今凄い悪口言われてない? というか、語彙力もっと頑張れよ……」
「良い!? アズリル様はコスプレと真摯に向き合っているのよ! そんなアズリル様に対して失礼だとは思わないの!? この……えっと、他に悪口は――」
"キーンコーンカーンコーン"
悪口を思いつく前に朝のHRの鐘の音が鳴った。
白花は俺に軽蔑の瞳を向けて「ふんっ!」と一言だけ言うと、自分の席に戻っていく。
――その途中、白花は青山にボソリと声をかけた。
「さっき、アズリル様の神聖な太ももの画像を持ってたわよね。私にも送って」
おい、そういう目で見るのは失礼じゃないのか?
◇◇◇
――このあと、俺は美少女コスプレイヤーでありながら男気溢れる活躍やリアルチート(主に暴力)で様々な問題を解決していってしまう。
その度にアズリルの評判や好感度はうなぎ登り。
やがて、誰にもなびかないはずの王子様系アイドルや俺様系イケメン俳優が女装した俺を奪い合って喧嘩し始めたり……。
普段学校で俺を怖がったり見下したりしている美少女同級生たちや人気アイドル、女優、大企業のご令嬢までもを助けながら次々と虜にしていってしまうのだが……。
果たして、これからそれらが語られるのか……今はまだ分からない――。
息抜きで書きました。連載するかどうかは未定です。