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青春の鍵

作者: 雪河馬

「山田さん、長い間お疲れ様でした。ではこの鍵はお返ししますね。」


社会人になって50年間、会社のために頑張って働いてきた。

それも今日でおしまいだ。

私は会社を定年退職した。

お世話になった人たちに挨拶し、荷物をまとめて退社する。


50年前、私はまだ若く、希望に燃えて入社した。

その際に預けた鍵が今帰ってきたのだ。

ポケットにしまった鍵を取り出して眺める。

鍵は50年前と変わらず綺麗に輝いている。


これは私の青春の鍵だ。

鍵を見ていると気持ちが浮き立つ。


満員電車に揺られて郊外の家に帰る。


「ただいま。」

玄関を開けて呼びかけるが誰も答えない。

私はずっとひとりだったから当たり前だ。

私は鍵を預けて全てを会社に捧げてきたのだ。


期待で胸がいっぱいで、食事をする気になれない。

それよりも鍵だ。

私はベッドに横たわって、鍵を胸に差し込む。

心地よい眠りが私を包んだ。


次の日の朝、私は目覚めた。

目覚めた瞬間から意識がはっきりしている。

昨日までのどろどろとした目覚めではない。

剥き出しになった腕を眺める。

引き締まった艶々とした腕だ。


私は若返ったのだ。

20代の青春を返してもらったのだ。


「そうだ、大学に行かないと・・・。」

服を着替えて家を飛び出し、満員電車に飛び乗る。

急がないと1限目に遅刻する。

駅から学校までの急な坂を全力で駆け登り、なんとか5分前に間に合った。

「おっはよ。山田くん。」

沙知子が僕に話しかけてきた。

僕たちは付き合っているのだ。


昼休み、弁当を食べながら鈴木が言った。

「よお、山田。今度の夏休みみんなで旅行に行こうぜ。」

僕も元気に返事する。

「ああ、海に行きたいなあ。」

「じゃあ、俺、車出すわ。」

「楽しみだなあ。」


毎日がたのしくって仕方ない。

キラキラしている。

こんな日がずっと続けば良いのに・・・・・。



「主任、山田さん心拍停止。呼吸、瞳孔もチェック。死亡してます」

「了解、じゃあ注射器を回収して帰ろうや。」


若い方の男がベッドの周りを探して、壁との間に落ちていた鍵を拾い上げた。

鍵の先端には針がついている。


若い男は山田さんを棺につめて封をし、手を合わせる。

「嫌な世の中になったもんですねえ。余命1ヶ月まで定年が延長されるって。」


年取った男は言った。

「仕方ないわな。働き手がいないんだし。それに家でごろごろしてるより働いてたほうがいいと思うぞ。」

「そんなもんですかねえ。俺は遊んで暮らしたいけどなあ。」


若い男は手に持った鍵を眺めながら言った。

「これって本当に効くんですかねえ。若い頃の思い出に浸ったまま幸せに死ねるっていうことですが。」


年取ったほうの男が鬱陶しそうな表情で応える。

「俺にわかるわけねえけど、顔見る限り効いてたじゃないか。幸せそうな死に顔だしな。」






ショートショートです。

日本の定年はそのうち実質70歳になるでしょうね。

いくら寿命が延びてるからと言って、健康年齢で考えると70歳から第二の人生と言っても、何もする元気がないかと思われ・・・。

若いうちに稼いでアーリーリタイアするのが幸せだろうなと思いますが、なかなかみんながみんなそうは行かないでしょうし。


そんな感じの話です。

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