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エルリアルドの剣 ~勇者未満英雄以下の冒険譚~   作者: たまり
第二章 ~エテルネル砦の攻防戦~
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瞬間、心重ねて


「ちっぽけで、弱い人間のくせにッ!」

 戦闘を楽しみ余裕の笑みさえ浮かべていたアメシストの眉間に、ビキシ……と亀裂が入る。


「ゴチャゴチャうるさいっ!」

 退くわけにはいかない。

 僕はジラールとエルリアを守る……!

 心の中に感じた光は更に強くなる。それは全身を満たし、腕を通じ、剣先まで伝わってゆく。


「消えろッ!」

 アメシストスは右手に禍々しい魔法の光を纏わせた。離れた位置で身体をひねると、大振りなフォームで拳を繰り出す。紫色の火球が生じ目の前の空気が揺らいだ。

 ――遠距離攻撃!?

 とっさに地面を蹴って真横に跳躍する。

 立っていた地面を(えぐ)るよう暴風が通過してゆく。避けたはずなのに、左腕が千切れそうになる。

「ぐっ……!?」

 バランスを崩しつつ地面を転がり受け身を取り、勢いを相殺する。

 左腕に激痛が走った。

 気がつくと、かすっただけなのに皮膚が破け、血が滴っていた。直撃していたら全身の肉が裂け、骨が砕かれていたに違いない。


「アハハ、無駄、無駄なのに……! 離れていてもこうして攻撃できる……! どうせ弱いおまえの剣も通用しない、アハハ」

 首の傷が修復するにつれて、自信に満ちた口調に再び変わってゆく。まるで、自分の力を試し、使いこなせたことが嬉しいみたいに。


「くっ……!」

 立ち上がり、右手で短剣(ショートソード)を構え直す。


 考えろ、考えるんだ。

 次はもうハッタリ(・・・・)は通じない。

 目の前の(アメシストス)に集中、動きを予測して技を避け、攻撃に転じるしかない。


 右の拳の一撃は、新しい技だった。

 魔法の拳――『晶砕魔拳(クリスタバレッタ)』は、直接触れて発動させるだけじゃない。離れている相手にも放つことができるということだ。

 拳から放たれた衝撃波は、円錐状(・・・)に広がりながら向かってくるのが見えた。でも、僕の立っていた場所から後ろ、建物や壺にはダメージが無い。つまり技の間合い、有効射程(・・・・)はおよそ5メル。放つ前だってノーモーションじゃない。

 つまり、技を放つ方向とタイミングは読め――


「人間て、内臓(・・)が柔らかいんだよねぇ?」


 アメシストスが地面を蹴って踏み込んできた。

 一瞬で7、8メルほどあった間合いを飛び越え、2メルほどの位置で右足を接地、左の拳を背後に引いた。

 狙いは僕の(ボディ)


 ――来る……!

「ブチまけなッ!」

 拳を繰り出すまでの速度は。黒山羊ペーター君の突き(・・)と大差ない。

 アメシストスが、拳を左下からアッパー気味に繰り出す瞬間が。

 見えた!

 黒山羊のペータ君との修行は無駄じゃない。

 爆裂のタイミングの直前で身体を屈め、左の拳をギリギリで避けた。

 ドギャッ! と耳元で左の拳で爆発し耳がバカになる。

「たッ……!」

 上半身をひねり右回転、右手で短剣(ショートソード)振り上げる(・・・・・)


 狙うのは、伸びっきたアメシストスの左腕。

「なっ!?」

「ずッりゃぁあああッ!」

 ガッ……と刃が二の腕に食い込んだ。

 全身をバネにして渾身の力で地面を蹴ると、真下から食い込んだ腕からメリメリッと軋む音がした。そのまま短剣(ショートソード)の柄に両手を添えて、渾身の力を叩き込む。

 バリィン! とアメシストスの左腕が砕けた。


「なっ、にぃいィイイッ!?」


 宙を舞う左腕。驚愕に見開かれるアメシストスの紫色の瞳。


 ――やった!?


 けれど次の瞬間、僕の身体もまた真横に吹き飛ばされた。数メル先の壁に積んであった薪の山に激突し、目の前が暗くなる。

「がっッ…‥はッ!?」

 肺の中の空気が失せ、血の気が引く。

 意識だけは保とうと必死にまぶたを持ち上げると、世界が横倒しになっていた。視線を巡らせて、ようやく何が起こったか理解する。


 アメシストスが右の拳で、咄嗟に『晶砕魔拳(クリスタバレッタ)』を放ったのだ。


 視界の隅に左腕(・・)が落下、粉々に砕けた。


「あァ!? アタシの……アタシの腕がぁああッ!」

 アメシストスが取り乱し、無くした左腕の根本を押さえている。僕の方には目もくれず、砕けた左腕の破片を見て声を震わせる。


 今だ、今のうちに立たなければ……!


 でも身体に力が入らない。気づかれれば次は確実に避けられない。焦りの中、鼻から深く、深く息を吸い込んで、肺腑を満たす。燃える臭い、皆が戦ってる怒号と気配、触れた冷たい地面の感覚が戻ってきた。肺も心臓も内臓もまだ無事だ。手も腕も……脚だってまだ繋がっている。

 右手がピクリと、動く。全身の感覚が戻ってきたところで痛みが襲ってきた。

「ぐっ、うっ……!」

 思わず漏れた苦痛の呻きに、アメシストスが気づいた。

 美しい彫刻のような顔はひび割れ、憎しみと怒りで満ちていた。


「何を……何をしたァアアーッ!? 何故……再生しない(・・・・・)っ……!? 小僧、貴様ぁ……!」


 見ると、僕が斬り落とした左腕の付け根が紫色の水晶で覆われ始めていた。しかしそれは腕を再び形成することもなく、まるで血のようにサラサラと流れ出してゆく。

 ――再生出来……ない?

 何故? 傷が深いから? 再生に限界があった? それとも僕の放った渾身の剣に何か、コツのようなものが……?

 でも考えるのは後だ、立たなければ。

 アメシストスがゆっくり近づいてくる。右手の感覚が戻ってきた。でも剣が2メル先の地面に落ちていることに気がついた。這ってでも掴まなければ……!


 その時、背後の建物のドアが開き、誰かが飛び出してきた。

 力強く僕を引っ張り上げて抱き起こされる。

「アル……!」

「エル……リア? なんで、戻って……」

「私達は一緒、絶対に」


 エルリアは僕を抱え起こすと、今度は自分の番だとばかりにフライパンを構えた。

「エル、ダメだっ! 逃げて……!」


「は――? 何だ、オマエはぁああッ!」

 アメシストスが足を止め、怒気で頭髪を逆立てる。


「私が相手……! アルはやらせない」


「また……また(・・)なのか!? オマエも同じ(・・)か……、弱いくせに、どうすることもできないくせに、そうして」


 苛立たしげに肩を震わせて、紫色の右腕に『晶砕魔拳(クリスタバレッタ)』の炎を纏わせる。

 渾身の一撃を放とうとしているのがわかった。

 次で僕らを消滅させるつもりなのだ。


 でも、もう踏み込むことも、剣を振り、アイツを斬ることも出来そうもない。地面に落ちていた剣を諦め、エルリアの傍らに立つ。全身が激痛で悲鳴をあげていた。


「……はは? 戦うことを諦めたか、弱きものに相応しい最期を……くれてやる!」


 でも、守らなきゃ、エルリアを。


 絶対に、なんとしても……!

 ただその一念で勇気を、力を振り絞る。


 最後は僕が、せめてもの盾にでもなればいい。


 エルリアがフライパンを持つ右手と反対、左手を添えた。

 小さく震えている(エル)の手をぎゅっと握る。すると手を強く握り返してきた。

「エル」

「アル」


 温かくて柔らかい小さな手。

 そこから強い意志が流れ込んできた。


 僕は気がついた。

 守りたいと思っていたのは、僕たちだけじゃない。

 エルも僕を、ジラールを、皆を……守りたいと思っていることに。


「消えろ、不快な人間どもがぁああッ!」


 爆発とともに、アメシストスの右腕全体が砕けた。魔法を、すべてのパワーを右腕に乗せたのか。

「『極裂(ウルメティア)晶砕魔拳(クリスタバレッタ)』ァアアッ!」

 すべてを飲み込む黒と紫の破壊的な爆風が押し寄せる。


 でも僕たちの想いは一つだった。

 心の中にあったあの温かい光が、共鳴し輝きが増すのを感じる。


 ――僕が

 ――私が


「「守るから」」


 音の消えた世界で、光が――僕らの手の中から溢れ出した。


 握っていた手と手の間から、真っ白な輝きであたりを照らす。そしてエルリアの右手に持っていたフライパンが、真っ白で鮮烈な輝きを放つ。


 ――これは……!?

 ――護りのフライパン。アルドが私の盾になってくれようとした必死の想いに、共鳴したの。

 ――エル……どうして

 ――話せるよ、今までそうだったように、これからも


 心と心で通じ合う。

 言葉をかわさずとも解る。


 ――だから、今ここで

 ――うん、負けるわけには


「「いかないん、だあああッ!」」


 僕たちは瞬間、心と心を重ね、輝くフライパンを振り抜いた。


 パァアアアアアア……ンッ!


 無音の世界を打ち砕いたのは、鋭い反射音。

 地面や建物を破砕しながら殺到する破壊の渦、『極裂(ウルメティア)晶砕魔拳(クリスタバレッタ)』を、僕らのフライパンは打ち返した(・・・・・)


「ばっ、馬鹿……な、そん――――――!?」


 反射した破壊の衝撃波に、アメシストスは飲み込まれた。


<つづく>


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