↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルリアルドの剣 ~勇者未満英雄以下の冒険譚~   作者: たまり
第二章 ~エテルネル砦の攻防戦~
PR
13/63

ジラールの教え、番外

「手を放せっ!」

「うおっ!?」

 エルリアの尻尾(・・)を掴んでいた男を突き飛ばし、羽に触っていたもう一人に体当たり。

「なんだ、このガキ……!」

 背後に隠すようにエルリアを引き寄せて、男たちと距離を取った。


「……アル!」

「大丈夫?」

「うん……」

 怪我は無いみたいでホッとする。

 確かに、エルリアと街を歩いていると、ドラゴンとのハーフかと尋ねられたり、容姿をからかわれたりすることがある。けれど尻尾や羽を掴むなんて、失礼で酷いことはされたことはない。

 外の状況が異常なせいなのか、この人達も普通じゃない。


 ぎゅっと僕の腕を掴むエルリア。怖い思いをさせてしまったことが悔まれる。砦に着いて安心して油断した僕が悪いんだ。

 ここは馬小屋の横で人気(ひとけ)のない場所。

 少し離れた場所で羊たちの世話をしにきたおばさんが、こちらの異変に気がついたのか、慌てて離れていった。


「こいつ……、さっき馬車で逃げ込んできた、女戦士と一緒だったガキだ」

「へへ、ナイトさまの登場ってかぁ?」

 僕が睨(にら)んでも悪びれる風もない。子供だからと馬鹿にしたような視線を向けてくる。

 二人は街でフラフラしているような、チャラついた感じの若い男たちだった。一人は背が高くて派手な服装でタレ目の男。もうひとりは背が低くて横幅の広い目の細い男だ。


 魔物騒ぎで街から逃げてきたのか、隣の町に向かう途中だったのかはわからない。けれど砦の中ではみんな必死で戦っているというのに、この人達は何もしてない。物陰にこそこそ隠れて、こんなくだらないことをしている。


「……いこう、エル」

 本当は謝らせたかったけれど、相手にするだけ無駄だ。

 僕は男たちを無視し、エルリアの手を掴んで歩き出そうとした。

「まてよお前、気に食わねぇな」

 けれど背の高い男が回り込んでしつこく絡んできた。

「その剣はオモチャかぁ?」


「どいてください」

「抜いてみせろよ、なぁ?」

「剣は抜けません」

 男たちは剣を持っていない。つまり丸腰。そんな相手に剣は抜けない。これはジラールの教えであり、剣を持つ者の基本十カ条の一つ。


「その剣で砦の外の魔物を蹴散らしてきてくれよ、なぁおねがいだからさぁ、ぎゃはは」

「怖いのか? とんだ腰抜けのナイトさまだ。化け物(バケモン)のお姫様を守れんのかぁ?」

 ――!

「今、なんて言った……!」

 僕をバカにするのは構わない。

 けれど妹を、エルリアを侮辱するのは許せない。


「おほっ、やるのか?」

「ガキのくせに、生意気だぜ」


 思わず剣の柄に手をかけた。けれど踏みとどまる。


「……お兄さんたち、馬……盗ろうとしていた」

 不意に、エルリアが後ろから囁(ささや)いた。

 僕はハッとした。こんな人目につかない馬小屋の陰に居た理由。この人達はまさか、馬を盗んで逃げようとしていたっていうのか……!?

「馬を……盗もうとしていたんですか?」


「な、何を証拠に……」


『ブフュルル……!』

 馬小屋に繋いだばかりのエクリプスが、嘶(いなな)きながら蹄(ひづめ)で地面を叩いた。馬小屋には他に四頭の馬が繋がれていたけれど、よく見るとそのうちの二頭に不自然な、鞍(くら)が掛けられている。


「……私、このひとたちが、馬でズラかろうって、言ってたのを聞いた」

 エルリアがはっきりとした口調で告げて、二人を指差した。普段は口数が少なくて、ぽわんとした感じなのに、頭の中はしっかりと物事を考えて判断している。


「こいつ、見てやがったか……!」


「こんな時に、あなたたちは何をしているんですか!?」

 僕は二人に向き直り、詰問する。


「うるせぇぞクソガキが!」

 タレ目の男がキレた。けれどその声に壁の上にいた木こり達も何事かと、こちらを窺う。


「オレらは善良な市民だ! こんなクソみてぇな場所から逃げて何が悪い!?」

 細目の男は拳に金属製のナックルをはめた。


「そんなの理由にならないでしょう!」

「生意気なんだよガキが、てめぇ……シュッ」

 細目の男は、背が低くて横幅が広い。そんな見た目からは想像もできない速さでステップを踏むと、間合いをつめてきた。

 シュッシュッと口で言いながら、身を低くかがめて殴りかかってきた。


 エルリアは僕が男達に怒る理由を、瞬時に置き換えてくれたんだ。じゃなきゃこっちが先に(・・)剣を抜いていた。

 相手はもう丸腰じゃ、ない。


 ――ジラールの教え、番外(・・)!


「ふっ!」

 顔面めがけて放たれた拳を、僕はひょいっと避けた。

 遅い。ゴブリンの棍棒のほうが速いくらいだ。

 避けつつ、腰にくくりつけていた剣を鞘ごと(・・・)引き抜く。そして、パンチを外されてよろめく男の側頭部を、思い切り殴りつけた。

 ゴキンという鈍い音が響く。

「ガッ……!?」


「剣は抜かなきゃ、ただの棒(・)だ!」

 ジラールは誇り高き騎士。だから剣を持たない丸腰の相手に剣は抜かない。けれど誇りを傷つけられたり、大切な人を侮辱されたりしたときは別だ。その時は剣を収める鞘(さや)を使えばいいのだと、ニヤリとしながら教えてくれたっけ。


「んなっ……てめぇ!?」

 残った背の高いタレ目男が光るものを抜いた。


 白目をひん剥いて倒れる細目男の背中を踏みつけて、そのままダッシュ。背の高いチャラ男のみぞおちに、剣の柄(つか)を一発叩き込んだ。

「ぐほッ……おゲェ」

 確かな手応え。胃袋の上に深々とめり込ませる。

 すると、カランと隠し持っていたナイフが転がり落ちた。

 背の高い男も悶絶し、前のめりに倒れ込んだ。


「ふぅ」

「……アル、おみごと」

「えへへ、まぁね」

 エルリアと軽くハイタッチ。

 正直、すっきりだ。

 本当はエルを侮辱した分だ! とさらに顔を蹴飛ばしてやりたいけれど、剣士としてそれはやっちゃいけないのでぐっとがまん。


 すると向こうから人の気配が近付いてきた。家畜の世話をしていたオバさんが、誰かを呼んできてくれたみたいだった。

「はやくきておくれよ、あそこだよ」

「アルド、エル……どうしたんだい!?」

「あいつら! 店でも問題ばかり起こしていたクソ野郎どもじゃねぇか!?」

 顔なじみの雑貨屋のおばさんとおじさん、それに食堂のご主人だった。


「……馬どろぼう、退治……!」

 エルリアが倒れている二人を誇らしげに指差すと、二人の男たちはあっというまに縛り上げられた。


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆------------◆
【今日のランキング】
◆------------◆
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。