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約束 ~アルドとエルリア~

挿絵(By みてみん)

「エル、いつか僕が呪いを解いてあげる」

 花冠(はなかんむり)をエルリアの頭に載せながら、僕は誓う。


「うん」

「約束する、かならず」

「ありがと、アルド」

 シロツメクサの白い花が、野いちご色の髪色によく似合っていた。腰まである艷やかな赤毛を、草原を吹き抜ける風が優しく揺らす。


 僕の双子の妹、エルリアは半竜半人(ハーフドラゴン)だ。

 背中に生えた小さな羽が、ピコピコ動く。おまけにお尻からトカゲみたいな尻尾も生えている。これで叩かれると結構痛い。

 手の甲や背中は、薄いピンク色の(うろこ)で覆われている。

 これは、生まれたときに魔女(・・)から受けた呪いのせい。

 エルリアは、僕が受けるべきだった呪いを、代わりに受けて生まれてきたらしい。


 街に出ると人々はエルリアに奇異の目を向け、可哀想にと囁く。災いを招く子だなんて酷いことを言う人もいる。けれど、そんな奴は僕が尻を蹴飛ばして追い払うことにしている。

 だって僕は、エルリアを可愛いと思うから。

 紫紺(しこん)の虹彩で縁取られた金色の瞳に、髪は艷やかな緋色。笑うと口もとから覗く八重歯は、エルリアのチャームポイントだと思う。


 尻尾を通すためスカートに開けた穴の周りの刺繍の模様を、気にして顔を赤くするところ。

 背中の羽を一生懸命動かして――重すぎて飛べやしないのに――空を飛ぼうとするところなんて思わず笑っちゃう。

 すこし変わっているけれど、可愛い大切な妹だ。


 呪いを受けなかったらエルリアは普通の女の子で、きっと普通に暮らせていたはず。本当なら兄である僕が代わりに竜になっているべきだったのに。出来るなら代わってあげたい。


 ……ごめんね、エルリア。


 心のなかでつぶやいて、無口な妹の頬をそっと撫でる。

 大きな瞳を瞬かせ、エルリアが不思議そうな顔で見つめている。


 ――呪いを受けたのは、アルドとエルリアが王様の秘密の、落し子だからさ。


 出生の秘密と、呪いの由来を知ったのは半年前。僕らが十二歳になったばかりのころだった。

 誕生日を迎えた冬至の日。嫌いなカボチャのスープを食べながら、一緒に暮らしているジラールが神妙な顔で教えてくれたんだ。


 ――これは誰にも秘密だが。実は、アルとエルは……現王エルカトラル様が側近に産ませた「隠し子」なんだ。


「世が世なら、アルドは本当はこの国、ナルリスタの王子様だ」

「へぇ……?」

「スープおかわり」

「お前ら、信じてないな? 証拠もあるんだぞ。それはな……まぁ、いまにわかるか」


 冗談にもほどがある。

 こんな小屋に住む貧しい僕が王子様なら、エルリアは「お姫様」ってことじゃないか?

 まぁ確かにエルリアは森の動物たちと仲が良い。動物と何か話している時もあるし、まるで森のお姫様みたいだなぁと思うときがあるけれど。


 僕が王様の子供だなんて確かめるすべも無いんだし、冗談かなにかだと思う。けどそういう事もあるのかもしれないなぁと、受け入れることにした。


 ちなみにジラールは一応、ぼくらのお母さん代わり。一応っていうのは、優しいときよりもすっごく怖いときのほうが多いから。筋肉はモリモリで全身傷跡だらけ。片目を眼帯で隠しているけれど、怒ると眼力だけで獣だって逃げ出すほどに強い。

 元はナルリスタ王国の騎士だったらしい。いまも暖炉の上に、王国の紋章が入った錆びた剣が飾ってある。


 物心がついた時から、僕とエルリアは人里離れた森の中で、ジラールと一緒に暮らしていた。

 今は三人で暮らしながら「木こり」で生計をたてていた。ジラールは女性なのに斧を軽々と振り回し、樹に叩きつけるようにしてへし折るんだ。


 僕はそんなジラールを「師匠」と呼ぶ。でもいつだったか一緒に町に出掛けた時、たまたま見かけた仲良し家族が羨ましくて、つい「お母さん」と呼んでしまった。すると何故だかちょっと悲しそうな顔をされたっけ。

 でもジラールは僕たちのことを家族だと言って、抱き締めてくれる。


 それと、毎日ジラールは僕に剣を教えてくれる。

 朝と晩、薪割りの仕事が終わったあとのひととき。

 木刀での剣術の鍛練だけど、その激しさと言ったら……。

「アル、本気でやらないと、そこの薪のように脳天が割れるぞ!」

 なんて脅される。あの目は本気だった。

 おまけに剣術の鍛練をしていると、決まって黒山羊のペーター君が突っ込んできて邪魔をする。

 僕は黒山羊の突進を避けながら、ジラール師匠の剣を捌かなきゃならないのだ。


「アル、エル! どこだー? そろそろ夕方の薪割りだぞー」


 遠くから僕らを呼ぶ声がする。

 振り返ると、煙が立ち昇る山小屋の前で、ジラールが立っていた。エプロン姿で、ブロンド色の髪を一つに結わえている。夕飯の支度を始めているみたいだ。ジラールは家畜として飼っている羊たちを呼ぶついでに僕らを探していたみたいだ。


「そろそろ戻ろうか、エル」

「……ん」


 妹の手を引いて、立ち上がった。エルがお尻と尻尾についた草の欠片を払う。


 空気が冷たくて気持ちよい。

 なだらかな山沿いのを切り開いた土地は見晴らしがよい。遥か西に、ナルリスタ王国の王都アルテンハイアットが見える。後ろは悠々と横たわるカーバルハイド山脈の岩景。手前に広がる黒々とした森の間、開けた草原のような場所に茅葺き屋根の小屋が見える。

 僕らのいる周りは初夏の色とりどりの小花が咲き乱れ、甘い春の香りを漂わせている。


 見上げると西の空は茜色に染まり始めている。遥か彼方を、翼竜が二頭、悠々と山の方に飛んてゆく。深い山の奥や山脈の峰の向こうには竜――ドラゴンが暮らしている。

 本物のドラゴンは巨大な翼で空を飛ぶ。彼らはとても長寿で、賢者様のように人智を越えた知恵を持つという。けれど街の中でもドラゴンを見ることが出来る。


 ここは――北の小国ナルリスタ。

 穏やかで、平和な国。

 王都は華やかだけれど、僕はここでの静かな暮らしが気に入っていた。


 エルリアがいてジラールがいて。

 楽しく話をしながら食卓を囲む。

 今みたいな穏やかな日々がずっと続けばいい。そう思っていた。


「アル、競争」

「えっ、まって」

「よーい……どん」

 小声で言うなり、エルリアが駆け出した。

「あっ!?」


 エルは足が速い。

 まるでウサギかトカゲみたいに速いんだ。

 赤い鱗に覆われた尻尾を水平にして、やや前傾姿勢で走るエルに僕は追いつけない。


 長い赤毛をひるがえしながら振り返り、黄金色の瞳が僕を捉える。


「……アル、がんばれ」

「くそっ、まてっ」


 けれど、エルリアと約束したんだ。

 エルリアの呪いを解いてあげるって。


 呪いをかけた魔女の名前は『天秤の魔女』、アルテア。

 いつか見つけ出して謝らせる。

 そして、呪いを解いてもらうんだ。


<つづく>


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「誕生日を迎えた冬至の日。」って表現、プロローグにいいですね! 痺れました。新しい年齢に達し、そして「冬至」。これから太陽の時間が長る転換点。冒険を予感させる見事なフレーズ。パクらせていた…
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