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この町には無い店



 ガサ……。


 ふさぎ込んでいたイチヤの耳に、その音はやけにはっきりと聞こえた。ほとんど止まっていた意識が覚醒する。つむっていた両目を開くと、イチヤはキョロキョロとあたりを見回した。


「あれは何だ?」


 イチヤの声は、もめていた四人の耳にも、やけにはっきりと聞こえた。


 皆が同時に振り向いた。その視線が注目する先は、本棚の横のスタンドミラーの下――。


 イチヤがダッと走り出した。落ち込んでいたのが嘘のようだ。どうやら贈り物の効果があったらしい。


 イチヤの手がプレゼントをつかんだ。それは汚くて皺くちゃで、ゴミ箱がわりに使うようなコンビニの安いビニール袋だった。


 イチヤが取っ手の紐の片方をつまみ上げた。重みで袋が変形する。


「こんなもの、さっきからあったっけ?」


「きったなぁーい、誰のそれ? 私のじゃないよ」


「イテテ……なあ、イチ、何が入ってるんだよ?」


 イチヤは集中していて答えない。慎重に袋を開き、中身をひとつずつ取り出し、床に並べて置いていく。


 マリアが遠巻きに覗き込んで言った。


「えっと……錆びた時計、千切れたネックレス、片方だけのイアリング……他にもあるけど、全部古いものね、新しければ高価だった(・・・)かもしれない」


「そいつらがなんだか知ってるぞ。まとめて『不燃ゴミ』ってやつだ!」


 タイチがおどけて見せる。けれどイチヤは聞いていなかった。彼の頭の中は、もうこの奇妙な落とし物の(とりこ)になっていた。


「そうだ! そうに違いない! ついにわかったぞ!」


 イチヤが興奮して叫んだ。


「これは『忘れ物』だ!」


「え? ワケワカ! 私の部屋に? 何で? どーいうこと?」


 アイの言葉にひたすら疑問符が多い。


 冷静なマリアは黙って考えている。勘のいい少女はイチヤの発言の意図を汲み取っていた。


「イチヤ。あなたの考えている事、わかるわ。確かにさっき勉強していた時には、そんな袋はここになかったかも。それに――ねえ、そのビニール袋、ちょっと貸してくれる?」


 マリアはイチヤから袋を受け取って、皺になっていた部分を広げた。


「ほら、見て。ここについているロゴマーク『セブン・マート』よ。こんな小さなコンビニ、私たちの家の周りにも駅の近くにもない」


「つまり……」


 タイチとトシカズの頭にも、マリアと同じ気づきが流れこんでくる。


「置いていったのが『私たち以外の誰か』だって事」


「そいつが犯人か!」


 タイチが右拳を握って、反対側の掌に打ち付けた。


「落ち着いて、タイチ。その人が()ったなんて言っていないわ。『ここに入ってきた誰か』かもしれない」


 マリアの言い方は慎重だった。


「……なあ、今のと犯人って言葉に、なんか違いがあると思うか? アイ」


「私に聞かないでよ、へ・ん・た・い!」


 アイが顔を(みにく)くして、ぺっと舌を出す。タイチはお手上げという仕草でマリアに説明を求めた。


「だって全部、想像の話だもん。盗んだとか証拠はないし。調べることもできない。私たち警察じゃないんだから」 


「そのとおり。僕たちは警察じゃない」


 イチヤがマリアの言葉にかぶせてきた。その声は、さっきまでの緊張した様子とちがって、何だかワクワクしていた。


「DNAを調べる機械もなければ、指紋だって採取できない。第一、捜査する権利すらもっちゃいないさ」


「僕らただの中学生だもんね」


「だけど……」


「だけど?」


 四人の声が重なった。


「話をする事は出来る。人間の基本」


「話ぃ? 誰とぉ~?」


「馬鹿っぽい声を出すなよ、アイ。『容疑者』に決まってるさ!。それに現行犯なら警察じゃなくたって、逮捕できるんだぜ」


「……お前何言ってるんだ、イチヤ。どこにその『容疑者』がいるんだよ。そいつはとっくに、どこか遠くをのーのーと歩いてるさ」


 イチヤはチッ・チッっと指を振る。


「戻ってくるんだよ。ここにね。なぜなら……」


 イチヤはマリアのそばに置いてあった、空のビニール袋を持ち上げた。


「『忘れ物』があるからさ!」


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