全国ヤンデレ検定試験
「ただいま~」
勝手知ったる自分の家の扉を豪快に開け放ち、荷物を玄関に放り投げ冷蔵庫から取り出したリンゴジュース(濃縮還元果汁3%)を一気に飲み干す。
「おかえり」
リビングに本を広げ頭を抱えた姉が、こちらには目をくれず言葉だけが飛んできた。
「何やってんの?」
俺の質問で本を閉じた姉は、その表紙を此方へと向けニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。
「……ヤンデレ検定?」
その本に書かれたタイトルに俺は思わず失笑を漏らしてしまった。姉はフフンと鼻で息を鳴らして俺を見た。
「しかも準二級よ!」
「いやいや、まずヤンデレ検定が何なのか知らんのだが?」
「そのままの意味! アンタ日本語読めないの?」
何故か勝ち気な姉にカチンと来ながらも、俺は姉の手から参考書を奪い取りペラペラとページをめくった。
「……問1。意中の人が知らない女と歩いていた時に問い詰める言葉を選びなさい」
……一応内容はヤンデレっぽいぞ?
「① あの女誰なの?
② 浮気したら殺すからね?
③ 次あの女と話したら、あの女殺すから。
④ ダメだよ? 私以外の女と話したら……?」
……あれ? これ全部ヤンデレじゃね?
「姉ちゃん……コレ……」
俺は眉を潜めながら、何を聞いて良いのか分からないが取り敢えず説明を求めた。
「ヤンデレ検定に完全なる答えは無いわ。ただ、ヤンデレからはみ出してメンヘラや唯のキチガイに染まったら失格なの」
「え~っ……と?」
「そうね、アンタの好きなゲームで例えるとChaos-Darkの属性から出てしまったらヤンデレ検定失格よ」
「お、おう……」
分かったようなさっぱり分からない様な気がするが、とりあえず分かった振りをしておこう……。
「ヤンデレと言っても様々な属性があるわ。最初に適性試験をやったんだけど、私は『隣の席の根暗な地味子タイプ』だって……。後少し乳があれば、昼は目立たず夜は派手な『二面性タイプ』だったのに……」
「あ、そうですか……」
「試験まで後一週間なの! さ、私は勉強に戻るわよ!」
姉ちゃんが俺から参考書を取り返すと、黙々と勉強に勤しみ始めた。ヤンデレって勉強してなれる物なのかな?
「姉ちゃんは……ヤンデレになってどうするつもりなの?」
「履歴書に『ヤンデレ準二級』って書けるでしょ? それだけで引く手数多よ? アンタも遊んでばかりいないで少しは役立つ資格でも取りなさい?」
…………知らなかった。ヤンデレって就職に有利なんだ……。
俺は静かにリビングを去ると自室の机に座り、参考書の入った棚を開いた。
『セクシー女優検定』
『サバイバル検定』
『見付からないテレビのリモコン検定』
『信号の変わるタイミング検定』
『割り箸が綺麗に割れる検定』
……etc
……etc
そのどれもが手付かずで真新しい本ばかりだった(一部を除く)
「資格だの免許だの沢山取っても、何にも使わなかったら意味ねーのにな……」
俺はセクシー女優検定の本をペラペラとめくり、お気に入りの女優のページで抜いた……
読んで頂きましてありがとうございました!!




