第0話/1「嘆きの日々」
これは、異世界に行く前の話。
その日は、冬だというのに身体が熱かったのを覚えている。
「痛いよお...」
俺の声ではない。違う人の声。
その声はとても痛々しく苦しげだった。
「助けて...た、助けてくれぇ」
「誰か...誰かあ!」
「ここだ...俺はここにいるぞ...」
救いを求める複数の声。
その声が静かな雪の積もる森に響く。
「・・・・・」
俺は。
その声に。
「・・・ごめんなさい」
–––耳を塞いだ。
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〜異世界転移前〜
「はぁはぁはぁ...!」
ベッドの上で目覚める。
どうやら、今のは夢の光景だったようだ。"いつもの"。
動悸が上がっている。
落ち着かせるのは、簡単だし、いつものことだ。
落ち着いた俺は時刻を確認する。
すると、高校に行く時間が近づいていた。
これは、やばい。
すぐに支度をして。
「行ってきます」
–––誰の返事も帰らない日課を繰り返す。
家を出た俺は、走って学校に向かう。
「・・・もう3年か」
あの夢のことを–––あの事故のことを思い出す。
あれから、3年と少し経った春。
あの時の俺は中2の14歳で。無力な小者で・・・。
まあ、今もか。
家を出て学校に向かう道中の公園を見ると、小学生が遊んでいる。
以前からよく朝に見かける子だ。
ベンチにランドセルを置いている。
現在8時14分。スマホで確認。
小学生の登校時間は、8時ぐらいだろう。14分の遅刻だ。
なんて、悪ガキだ。サッカーボールで呑気に遊びおって。
まあ、注意とかしないけど。
進行方向の信号が赤になる。
あーしまった。少年を見てたら、気付いてなかった。気付いていたら、赤になる前に本気走りしてたのに。
仕方ない、少年を見守るか。
サッカーでもやっているのかリフティングが上手い。
そんな小学生のボールを野良犬がやって来てヘディング。
やるじゃねーか犬。
犬がボールを頭突きしながら盗んで行く。
「あ、こら!待て!」
少年が走って追いかける。
そのまま、その不良を学校に連れて行くのだ、犬。
信号が緑に変わり俺は走り出す。
「あ、こら!ワンちゃん!待ってー!」
周りも見ずに犬を追いかける少年。
そんな少年は、犬を追いかけ車道に出る。
そこに車が迫る。
「・・・・・ッ!?」
どう見ても危ない。
走って来たから距離は近い。急いで向かい、手を伸ばせばどうにかなるだろう。
俺が助ける?・・・怖いわ。
周りに人もいるし。
誰かが、誰かがやる...。
・・・・・。
俺か?俺がやるしかないのか?
死ぬなんて怖い。痛いのは嫌だ。
けど。
「・・・・・」
俺が生きるより、あの子の方が。
"楽しく生きれない"俺より...。
覚悟を決め走り出し、手を伸ば・・・・・さなかった。
キキーっ。
そうこう考えているうちに車は、あの子がいた位置を通り過ぎていた。
あの子は、すでに道を渡って歩道を走っている。
どうやら、運転手があの子に気付き、ブレーキを踏んでいたようだ。
スピードがいつの間にかゆっくりだ。気付かなかった。
何故、俺は走り出せなかったか?
答えは簡単だ。
やはり死ぬのは、怖く、嫌なのだ。
俺は、どこかの主人公でも善人でも自殺志願者でもない。
俺は、死を知っている。
それを見た苦しみを。
それに何もできない痛みを。
それでも、俺は自分が大事。そういうことなんだろう。
こういう所が小者なんだろうな。
ああ...また嫌な顔を思い出しちまう。
少年は犬からボールを取り返し公園に戻って来た。
おっと、変な考え事をしていて呆然と公園の入り口前で立ち止まっていた俺が邪魔なようだ。
蹴って来た。まあ、怒らないよ。子供のやることだ。
「おー。わりぃ、わりぃ」
少年に道を開ける。うん、俺、紳士。
「最初からどけよ邪魔」
ガキ、てめぇ!!
こめかみに青筋を浮かべたが俺は堪える。
俺は年長者。この少年の人生の先輩だ。ここで怒るのは大人気ない。
だから、大人っぽくこう返す。
「ぶん殴るぞ、この野郎」
「怒んなよ、大人気ない」
ジト目なんてすんだな小学生。
小学生は公園の中に入っていく。
俺はその背中に声をかける。
「てか、お前、危ねぇぞ」
「何が?」
「周り見ずに車道出ただろ。車がブレーキかけてなかったら轢かれてたかもしれねぇぞ」
「うっせーなあ。轢かれてないんだからいいだろ、説教ジジイ」
「んだと!?ジジイじゃねーよ!お兄さんだろーが!」
「怒るとこそこかよ。ガキかよ」
「テメーは生意気だ。反省し、更生し、俺を敬え」
「しねーよ、黙れ」
「ホント生意気なガキだな。あと、学校どうした?」
「急になんだよ。俺の勝手だろ。ほっとけよ」
「いじめか?女子からのご褒美か?」
「キモッ!まじキモい!」
「冗談だ、冗談。で、本当は?」
「メンドクセーだけ。本当だから」
「そうか・・・」
「てか、お前なんだよ。急に話しかけんなよ」
「お前の態度が悪いからだろ。敬語使え馬鹿者」
「うっさい!さっさと学校行けよ。じゃあな、クソ」
少年はトコトコ歩いて、ランドセルのあるベンチの方へ行き座る。
こう見るとちっちゃくて可愛らしいもんだ。
憎たらしい喋り方だが。
「よっこいしょっ」
「なんで、お前もベンチ座んだよ!?消えろよ!」
「俺の勝手だろ?俺も一限目の体育、バトミントンとか言う仲良しのヤツが一人もいないヤツにとって地獄の時間があるから、サボろっかなって」
「あはは!ぼっちなんだ!ぼっちなんだあ〜!かわいそ〜!」
「るっせぇ!黙れガキ!」
「僕は別に友達いらないから気にしないけどね」
「・・・ふ〜ん」
このガキはなんで、こんな寂しい表情をするのだろうか。
ガキがこんな顔するもんじゃない。こいつは笑顔が一番似合う年頃のはずだ。
俺は気が付けば変な提案をしていた。
「サッカーか。ほら立てよ。やろうぜ」
「は?一緒に俺とやんの?俺、嫌なんだけど」
「なんだよ、怖いのか?」
「なわけねーだろ。ジジイ。余裕だ」
「俺、サッカーやったことねぇけど、まあ、こんなガキなら楽勝か」
「馬鹿にできんの今のうちだから。泣くなよジジイ」
「そっくりそのままお前に返してやんよガキ。あと、お兄さんな。次ジジイって言ったら殴るから」
「ジジイ」
「よし、泣かす☆」
俺は制服のブレザーをベンチに雑に脱ぎ捨てる。
名前も知らない初対面の二人のサッカーは腹が減った昼過ぎまで続いた。
3時にはおやつを奢ってやった。
なんで、こんなガキを相手にするのか自分でも分からなかった。
だけど、コイツが少しでも誰かといることが楽しいってことを知ってくれたならとガラにもなく思った。
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次の日。
あー疲れた。筋肉痛だぜ、チクショウ!!
結局、夕方までサッカーをした俺。
学校を1日サボってしまった。
まあ、1日ぐらい大丈夫か。
それに、今日は・・・。
「あの夢見なかったな」
こんな目覚めのいいのは久しぶりだ。
あの少年のおかげかもな。
礼にでも行くか。
そう考えた俺は支度をして公園に直行する。30分待った。8時20分。
来ねえ。
今日はお寝坊なのか、真面目に学校行ったのか、別の場所に行っているのか。
分からんが、今いねぇなら仕方ない。
学校行くか!
あと10分だけど!学校までこっから大体走って15分かかるけど!あ、あと9分になった!
チクショウ!遅刻しちゃうじゃねーかあああ!?
頑張って走った。だが、学校に3分遅く着き、遅刻した。
3分ぐらい良くねと先生に腹を立てるのは、俺も不良化しているからだろうか。
まあ、悪いのは俺...いや、ガキだな。完全にガキのせいだな。許せねえ。
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遅刻した俺は誰とも喋らず自分が在籍する3年1組の教室の席に着く。
・・・・・寂しいなあ。
『よお、成部!遅刻か!』『そうなんだよ〜短大生にナンパされちゃってさあ〜』『モテモテだなあ〜』なんてくだりが出来ない。
まあ、モテモテではないが。いや、訂正。モテモテだ。嘘じゃない。嘘じゃねーから!うっかり本音こぼしてねーから!
でも、ぼっちは本当なわけで。
はあ。まあ、こんなんなったのも自分のせいか。
寝ることしか能のない俺は机に伏した。
「おーい、お前ら座れ〜」
ゆるーい感じの30半ばぐらいの男性教師が教室に入って来る。
お金持ちで美少女の転校生とか来ないかな。
そして、俺に惚れて、玉の輿。いいな。俺、ヒモになりたい。
豪邸でのんびりライフ。美人な嫁とメイド。あら、簡易ハーレム。これぞ俺にとっての真の玉の輿。
「急だが、転校生を紹介する」
「まじかよ...」
ボソッと口に出してしまう。
俺って予言者か?金儲けできそうだな。くっくっく。
先生の紹介の後、ガラリと扉を開け転校生が入って来る。
「おお...!」「ヒュー!!」「か、可愛い...」
男どもの目が輝く。様々な褒め言葉が飛び交う。
俺もその幻想のお伽話のような美麗で可憐な姿に目を奪われ、口を開けていた。
「・・・・・」
腰まである金髪はとても綺麗で眩しい。
顔も整っていて、これぞ美少女って感じだ。
あんな子、実際にいるんだな。
そこらのモテる女子がサルに見えて...はないな。モテる子はまあまあ可愛い。転校生には劣るが。精進したまえ。
俺は何様なんだってか?俺様だ、馬鹿者。
「こんにちは、皆さん!」
元気のある良い声だ。
こりゃ、人気者なりそうだなあ。
「転校生です!」
・・・・・。
うん、分かってる。名前を言え。
クラスが静まったぞ。
「・・・?転校生です!」
聞き取れなかったわけではねぇよ!
まさかのリピートである。
「は、早く名前を言いたまえ」
先生が転校生にクラス一同の思いを伝える。
「あーはい!私の名前は天上無双 イリネルです!」
なんか名前すげえ!
クラス一同、またも沈黙である。
「・・・?私の名前は天」
もういいだろ!!!
どんだけ俺の心のツッコミをさせれば気がすむんだ。コイツ。
「私は転校生ですが!実は!」
なんか決めポーズ的なのをしだした。
「転校生は仮の姿!真の姿は天使!否!神!」
厨二病かぁぁ....!!
全力で厨二病であった。残念な子だ。
もっと真面目な子かと。
「・・・あ」
なんとも間の抜けた声が天上無双イリネルとか言うパワーネームの人物から聞こえた。
すると、彼女は鞄から何かを取り出し、自分の顔に被せた。
それは、黒い謎のマスクである。
「・・・・・・・」
沈黙だわな、こりゃ。
なんだ、なんだ!コイツ!ヤバいヤツだ!絶対ヤバい!
「・・・というわけで、よろしくお願いします!」
切り替えが早い。
よろしくしたかねー!絶対厄介事に巻き込まれる!
俺は、妙にニコニコ顔(をしてるような雰囲気)を俺に向ける転校生を無視して、机に伏して寝た。
昨日でかなり疲れたんだ。
今日は勘弁だ!
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転校生は中々にヤバいヤツだが、すでにクラスに溶け込んでいる。
なんてヤツだ。まだ二限目終わったばっかだぞ。
休み時間は基本、席に座っているはずの転校生が見えない。
いないのではない。席の周りを何人もの生徒に囲まれているのだ。
クラスメイトだけではなく、他クラスからの生徒もちらほら見える。
彼女の姿を見れる日は来るのだろうか...。
なんてな。
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昼休み。
またも席に座っているはずの転校生の姿は見えない。
いないのではない。俺が廊下に押し出されたのだ。
クラスは沢山の人で溢れかえっている。定員オーバーだろ。
かつての俺のクラスはまるでブラックホール。死の魔境である。
よくあんな人気になるものだ。
昼の購買のパン販売競争参加者ぐらいいる。
何が彼女をあんな人気にするのか?
ずばり、美少女だと言うこと。
そして、言い方は悪いがアホ。
だが、彼女の周りにいる人は笑っている。
良い奴なんだろう。何故か朝からずっとマスクを被っているが。
何故だ。本当に、何故だ。
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放課後。よし帰るか。
相変わらず自由な時間は転校生が見えない。
この現象をこう名付けよう。
サードインパクト。
おっと。人類の補完計画が。こりゃなしだ。ついでに名付けるのいいや。もう、めんどくさくなっちゃった。
さて・・・教室の出口は転校生の取り巻きばっかだ。
今出ようとしたら人混みでもみくちゃにされてしまう。
けど。
逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ!!
うし、行こう。
「グハァッ」
一歩進んだだけでもみくちゃにされた。
はい、俺、死去。
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なんとか、抜け出した俺はなんとなく公園に寄った。
休憩は大事だぜ。
「ん?ジジイじゃん」
「その憎たらしい声は、鼻くそ野郎か」
「ガキって呼べよ!呼び方変えんな!」
「冗談だ。そーいや、今朝居なかったけどちゃんと学校行ったか?」
「サボった」
「悪ガ...鼻くそ野郎だな」
「言い直すなよ!」
ガキはまたもやサッカーボールで遊んでいる。
サッカーボールしか友達いねぇのか。
「そういやお前、何年よ?」
「学年?」
「おう。俺の見立てだと3年だな。いや、生意気具合的には5年だな」
「外れてるし、生意気具合的にってなんだよ」
「じゃあ、4年だな」
「正解だよ。で?」
「俺は高3」
「で?」
「敬えよ、小学生?」
「早く産まれたぐらいで、なんなんだお前」
「なんなんだってか?俺は俺。俺様だ」
「キモ」
ドン引きされた。
「そういえば。なんか変なヤツが公園にいる」
「変なヤツぅ?」
「そ、あれ」
ガキが指を指した先。
そこには––––。
「か、可憐だ...」
半袖の黒いドレスのようなものを着た銀髪の少女がいた。
見た感じ中学生ぐらいだろうか。
ちっちゃくてかわうす(ロリコンではなくないこともない)。
今日はすごいラッキーだ。美少女を二人も見ることができるなんて。なんか、悪いこと起きそう・・・フラグではない。
少女は、鉛筆を片手にスケッチブックに何かを描いているようだ。
「お前は初めて見た?」
「初めて」
「なるほど」
引っ越して来たのだろうか。
そういや、今更なんだが。
何故にドレス?似合ってるけど。めっちゃくちゃ似合ってて可愛いけど。
「声かけてやれよ」
「俺、内気な性格なもんで」
「俺には声かけて来ただろーが」
「お前には声かける理由があっただろーが」
注意と文句は内気な性格とか関係ないのだ。気が済まないからな。
「・・・・・」
「おい。なんかこっち見てるぞ」
「え、まじ?俺か?俺を見てるのか?」
「ホントうるせえな、ジジイ」
む?少女の口が開いた!
「・・・目、死んでる」
「ん?ガキ、なんかお前の目、死んでるらしいぞ?」
「どう見てもアンタ見て言ってただろ」
「どこがだよ。こんなキラキラしてんのに」
「あの子見た時以外で死んだ目してないの見たことないんだけど」
「そんなに俺、目死んでんのかよ...。しかも死んでない時が女の子みた時って...ヤバいな俺」
「普通にヤバいだろ」
「ま、いっか」
「ホント、お前テキトーなのな」
とにかくなぜ俺たち(?)を見ているのだろうか?せっかくなら話しかけてみるか。
「へいへい、そこの君〜」
「ナンパ口調やめとけよ」
ツッコまれた。
「・・・・・」
近付いてみると、少女は顔色を変えず俺を見てくる。
可愛過ぎてま、眩しいっ。こういう妹が欲しかった。
俺の妹は怖かったからなあ。
いらないなんて思ったことはなかったけど。
俺に似ない可愛い子だったし。あれ?俺はシスコンだったのだろうか?
「えーっと」
近付いてみたものの、何を話せばいいか分からない。
なぜ近付いたんだ、俺。
「誰?」
「デスヨネー」
問われてしまった。
問われたなら仕方あるまい。
「俺は、オニイ・チャンだ。呼ぶ時は続けて呼んでくれ」
「名前を偽るな、おい」
「嘘なの?」
「そんなまさか」
「へぇ」
彼女の喋り方は落ち着いていると言うか、何と言うか...。
感情があまり表に出さない子らしい。
ま、それはそれでいいけどね!
「オニイ・チャンって言ってみ?」
「オニイ・チャン」
「イのところは伸ばす感じで!」
「オニー・チャン」
「んー。なんか惜しい」
イントネーションがなあ...!
だが、嬉しい!俺、お兄ちゃんって呼ばれてる!
「あんま乗んなよ。コイツすぐ調子乗るぜ。ジジイでいい。ジジイ」
「あ、テメェ!!」
「わかった。ジジイ」
「そんな!?」
がーん。もう、この子からお兄ちゃんって呼ばれないのか。
「ま、まあ、改めて。俺は、楼努だ」
「ロウド...」
彼女は呟く。
そして、ジーっと俺を見てくる。なんだね、なんだね。
「そんな名前なんだ?てか、それ苗字?」
「下の名前だ」
「ま、これからもジジイって呼ぶけど」
「やめろや!お兄さんって呼べや!」
「ホント、すぐボケたがるよな。ジジイって」
「ロウドじゃない方の名前は?」
「コイツの名前は猿だ」
「違うわ!」
「ロウドじゃない方の名前は、猿じゃないの?」
「当たり前だろ!てか、遠回し過ぎる言い方だな!」
「あ、猿じゃなかった。ガキだった」
「お前黙ってて!一回!」
「へーい」
しゃーなし。からかうのもこれぐらいにしとくか。
「俺の名前は、こ」
「おぱんつマーン(裏声)」
「まじ黙れよお前!!」
俺の我慢の出来なさな。
「俺はこうま」
「子馬?」
「違うわ、ジジイ!さんずいにエで江。馬で馬だ」
「江馬ね。何気に初めて知ったってのがすげーよな。ははっ」
「そうだな」
何故、昨日に9時間も名前を聞かなかったのだろう。
「で、君は?」
これが一番重要。ガキ、テメェの名などどうでもいい!てか、何故名乗った!まあ、いい!
「私は・・・・・」
少女は何故か考え込むかのように下を向いた。
待て、別に俺は怪しい人物では!
「あ、安心しろ!俺はロリコンじゃない!」
「・・・・・?」
「何言ってんだ?ジジイ」
あれ?不審がられているんじゃないのか?ふぅ。警察沙汰は勘弁だからな。
「ロリコンって?」
「ちっちゃい女の子が好きな紳士のことだ」
「へえ」
喋りのテンポが変わらないから興味ないような感じするなあ。実際、興味ないのかもだけど。
「私は、レーヴァ」
「れ、レーヴァ?」
ま、まあ、外人だとは思ってたが。
うん。あの鉄板言っとくか。
「いい名前だね!」
これ言っとけば、女子は頬を染めるのがお決まりよお!
さあて、効果はてきめんかな?
「良くなんか・・・ない」
「へ?」
「ジ、ジジイ...」
初めて少女の顔の表情が曇り、言葉が弱々しくなった。
ガキはやらかしたなって目で見てくる。
たしかに地雷踏ん...そんなふざけてる場合じゃねーだろ。
デリカシーがなかった。これは悪いクセだ。
「す、すまん!」
「テキトーなの反省しろよ」
「あ、ああ」
ガキに注意されるなんてカッコ悪いが、こればっかは俺が悪い。
なんで、良くないんだ?なんて聞かない方がいいよな。
それぐらいはわかってる。
「で、レーヴァちゃんは何してるの?」
「ちゃん付けしなくていい」
「あ、はい」
謎の威圧感を感じた。
「絵、描いてる」
「へぇ〜...って、これ昨日の俺ら?」
「そう」
「あ、ホントだな」
俺とガキはレーヴァのスケッチブックを覗き込む。
サッカーをする俺とガキが上手く描かれていた。なんか、恥ずいな。
「おー上手いな、レーヴァ!」
「自信作」
「確かに上手いな。必ずクラスに一人はいる絵の上手い女子以上に上手い」
「変な例えだな」
ガキの例えはいまいちだが、確かにクラスに一人は絵上手いヤツいるよね。
ん?筆も持ってんのか。
座っているベンチに置かれた筆。乾燥して先が固くなっている。
「色は塗ってくれないのか?」
「絵の具がない」
「なるほどね」
それじゃ、仕方ない。
将来は絵師になりたいのだろうか?
「なんで、俺らを描いてたんだ?」
「楽しそうだったから」
「お、俺は楽しんでた覚えない!」
「そっか〜。ガキ、お前、友達いらないとか言ってたけど、一緒に遊ぶの楽しかったんだ〜」
「ち、ちげーよ!うっさい!」
顔を真っ赤にして言うガキ。ありゃ?これは、もしかして本当に...。
「あれれ〜?なんか顔真っ赤だけど?図星か?お兄さんと遊ぶの楽しかったのかなあ〜?」
「ち、違っ!」
「これは完全に図星ですな〜!裁判長のレーヴァちゃん!どうですか!」
「ゆーざい。被告のコウマ、嘘つき」
「ぐ・・・っ。お前もだろ!」
「ああ?何がだよ?照れ屋ちゃん」
「お前も楽しんでただろーが!俺だけみたいに言うな!」
「お、俺も、か」
「うん、ロウド、楽しんでた」
「そ、そうか。そう見えたのか...お、俺は...うっ」
「ど、どうしたんだよ...?怒ったのか?」
小声になった俺を心配するガキ。
「別に怒っちゃねーよーだ!どうだ!びっくりしただろ!」
「お前!ざけんなよ!」
「ははっ!お前も可愛いなあ〜」
「ウザい!」
「はは・・・」
少し頭痛がした。
先ほどの言葉もあるが、無理して明るく振る舞ったのも原因だろう。
俺が楽しんでた。
レーヴァの『楽しそうだった』という言葉が俺の脳内で反響する。
頭だけじゃなく胸まで痛いや。
「レーヴァ。何か困ったことあったらこのガキに言え。毎日コイツこの公園にいっから。結構、良いヤツだからよ。たまに遊んでやってくれ」
「・・・・・?」
「な、なんだよ、急に...。てか、俺は便利屋じゃないぞ!べ、別に毎日公園にいるわけでもないし!」
「ガキ、てめぇーもあんま学校サボんなよ。友達作れよ。俺以外ともいっぱい関わってみろよ」
「さっから、何だよ!余計なお世話!」
「確かに・・・余計。余計だよな」
「何だよ、さっからさ。何か言いたいことあんなら言えよ」
「いや、今日体調悪くてさ。今日は帰る!じゃあな!ドロン!」
「めっちゃ元気じゃねーか!」
「ばいばい。ロウド」
俺は走りながら二人に手を振った。
じゃあな。
「はっはっはっはっ」
走ってるからか動悸が早い。
家まで全速力で走り抜ける。
「ははっ」
何故か笑みがこぼれた。
「楽しんでた!そうか!俺が!」
涙を流しながら。
「あんなことあって、まだ楽しもうとしてんのか、俺は!」
痛い痛い。
胸が締め付けられる。
「ふざけんなよ...俺」
成部 楼努。
まだ、彼は。
心から––––日々を楽しめない。
「チクショウ...」
––––ただ泣くしかできない人生だ。
To be continued...。
ということで、2話!...2話でないな。なんて言えばいいんでしょう?
どうも、乃ガマです。
30分ぶりのことは、こんばんは。
この30分何してたかは、トイレです。は、腹が痛いんです...。
いかがでしたでしょうか、今回の話。何かロウドに過去がありそうな感じにしたのですが。まあ、追い追い判明させていきますよ!お楽しみに!
次回は、異世界編。なんか、あまり面白く書けてないかもって感じの問題作ですが、お願いします。楽しい気分で書くのが一番ですよね!
次回は、明日、8月2日の22時を予定しています。よろしくお願いします!!
あ、投稿20時1分になっちゃった。