第1話「事故るとそこは異世界で」
「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
今にも車に轢かれそうな小学生を見た瞬間、俺は無意識に走り出していた。
小学生を車道から押し出して、自らは車に・・・。
あ、死んだな...これ。
「成部さんッ!!」
–––ジュインッ–––
知ってる女の子の声が聞こえて。
変な音も聞こえて。
痛みはなく。
地面に倒れた感覚すらない。
視界が暗くなる。
これが・・・死か。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
あれ?
・・・・・・・・・・・・・・・・。
長い。
長い長い長い長い長い長い、長いよ!!
死ってこんな感じなワケ?俺の意識消えないの?何この時間?天国までの待機時間?クソ暇なんだけど。
てか!なんか!俺、椅子に座っているんだがァ?!
「どーなってんだ?」
声まで出やがる。
「よく来たのう」
「・・・へ!?なになに!?何の声!?」
その老人の声は急に聞こえた。周囲の暗闇から聞こえる。
ジジイどこだ、どこにいる!?
てか、まずここどこだよ!!
「ふふふっ、ふふふっ」
今度は不気味に笑う女性の声だ。
「何!?何、笑ってんの!?怖ァいんだけどぉ!!」
おっと裏声が出ちまった。だって怖いんだもの。
「ずずーッ!ずずーッ!」
「何この音!?鼻かんでんのかな!そうっぽい!」
しかもうるさい。
「こんにちは、成部 楼努さん」
「は、はいぃ!?な、成部です!こんにちは!」
若々しい女性の声だ。
思わず挨拶しちまった。
「まずは、ようこそ異世界に」
「な、なんだと!?・・・ここが、い、異世界・・・って見えねッ!?周り真っ暗過ぎて何があるか分かんないですけど!!」
異世界に来て唖然とする主人公の真似事をしようとしたが、辺りが真っ暗で見えないことにツッコんでしまった。
「あー。すいません、点灯お願いします」
「ま、まぶし...ぎゃ、ぎゃあああああああ!!」
カチっ。と音がした後、周囲が明るくなる。
すると、とんがった黒いビニール袋っぽいマスクを被り白いマントを羽織った変なヤツら四人がいた。
思わず叫んでしまった。
「安心して下さい。怖くないですよー」
「怖いわ!」
最後の声の子のようだ。マスクの目の部分が赤く輝いてんだよなあ。怖っ。
「あんじんじでぐだざぁい」
「鼻かめや!」
覆面から鼻水が垂れている。
「ふふっ、ふふっ、あははっ」
「いつまで笑ってんだよ!」
さらにうるせぇ。
「え、なんじゃって?」
「おじいちゃん!アンタに言ってないよ!」
声が完璧ジジイだ。耳悪いし。うん、ジジイだろう。
「あ、成部さんもマスク被ります?」
「仮装パーティーか!被らねーよ!てか、お前ら外せよ!!・・・・・てか、誰だよ!!」
また、若々しい女性だ。ちょっとアレだ。アホだ。
「そうですか...。皆さん外して下さい」
「簡単に外すならなんで付けてんだよ...」
辺りを見渡すと白い壁に囲まれた会議室のような場所だった。
俺の座る椅子を囲むようにU字に机と椅子が並べられていた。
「いばかびまずからお待ぢくだざい...ずずーッ!すっきりしました。うるざぐでずびばぜん」
「止まらねぇな!!」
鼻水を垂らしていたのは気弱そうな青年だった。
「ふふっ、ははっ、おもしろいわー」
「ホント、アンタは何がおかしいんだ...」
笑っていたのはいかにも姑って感じの女性だ。
「イーリネルセリオットくん、彼に事情を」
「はい、分かりました」
まあ、この人はやっぱ老人なわけで。
ヤケに長え名前がいんな。
若々しい声の子のことらしい。
あれ?コイツって...。
「お前、うちの学校の転校生じゃねーか!」
その子は、二週間前に転校して来た金髪少女。
天上無双 イリネル。
頭の悪そうな名前のヤツだった。
「はい、私は転校生。けれどその姿は仮の姿!私の真の姿は天使。否、神〈GOD〉!!」
「とか、学校で自己紹介してたやべえヤツじゃねーか!」
「はい、そうですけど?」
「認めんのかよ!」
「そうですか。成部さんにはバレてたんですね・・・私が成部さん達とは違う異質な存在。ヤバいヤツだと言うことを!!」
「皆んな思ったわ!」
クラス内で皆んなの思いが一つになった瞬間だったぞ。
「なんでですか!溶け込んでいたはずなのに!完璧な変装だったのに!」
「その変装がヤバいヤツ感を増してたんだよ」
転校初日は、変人感がマジで異常だった。回想はちょっと後回しだ。
「さて、成部さん。本題です。この世界のことについてお話します」
「切り替え早くないか?ま、まあ、とりあえず話聞こうじゃねぇか。慌てても意味ないしな」
「簡単に言うと魔法とモンスターが存在する世界です」
「まあ、異世界だし、当然だよな」
「私たち天使たちは人間の方々に協力してもらって、暴れる悪魔たちを倒すために戦っているんです」
「え、まじで天使なの?」
「マジです。ここにいる皆さんもそうです」
「人間にしか見えねぇけどなあ」
ちなみに見た目も天使級に可愛い。
学校でも眼福眼福だったぜ。へへっ。
「そして、成部さん!貴方には、悪魔たちの王、魔王を倒す勇者になって欲しいんです!」
「まじ、王道だな」
「私は、成部さんの世界で素晴らしい人を探す役目を受けて来たんです。そして、成部さん以外いないと思いました!」
「俺のカリスマ性が出ちまったってとこかねぇ。まあ、選ばれるのも無理ないな。俺だし」
「・・・・・」
「何故、無言になる」
「いえ、何でもないです」
ジト目までされたんだかなあ。何でもないってなら、何でもなかったのだろう。本当のこと言っただけだし。
「で、勇者になって魔王退治だっけ?」
「はい、お願いしたいんですが」
「断る!!面倒くさそうだからな!」
「えええ!!?」
「てことで、自由に異世界を堪能させて貰うぜ」
「駄目ですよお!勇者なって下さいよお!」
「嫌です」
「即答!?」
「俺が充分に堪能したら元の世界に帰してくれ」
「無理です!この世界に来た人は魔王を倒さないと帰れない仕組みになっているんですよ!」
「勇者やらない拒否権がない!!ヒドイ!!」
「しょうがないじゃないですか!聞いてから連れてこようと思ったんですけどね!自殺するなんて思いませんでしたもん!なんでですか!?」
「キレた!?違う!勘違いだ!自殺しようとした訳じゃない!子供を救ったの!言わば英雄的行動だぞ!カッコいいって褒めてくれよお!」
「カッコいいですね!」
「ありがとう!!」
※この二人はアホです。
「あああーッ!!?」
「どうしたんですか?そんな驚いて」
俺の体がぷるぷる震える。
「お、俺、死んだんだよな?異世界転生したんだよなあ?まじかよお...」
そう、子供を救ったことで車に轢かれたはず。
つまり、死!デッドエンド、ゲームオーバーだ!
「お、俺どうなんだ?魔王倒したら帰れるって、幽霊としてじゃねぇよな?それは、詐欺だぞ。110番案件だぞ?あ、幽霊だから110番出来ねぇっか。つか、異世界だし。あァアア!!詰んだ!詰んだ!」
「落ち着いて下さい!まず、転生してないですよ!」
「て、転生してない?え、この異世界は、死後の世界なの?天国なの?」
「はい?」
「なら。おい、おーい。天使さんよォ。天使なら死者に優しろよォ」
「急な悪態が凄いですね!?」
「やってらんねぇよ、チクショウ。死んじまうし。魔王退治しろとか変なこと言われるし。『魔王倒せば帰れますよ?・・・幽霊としてだけどな!ガハハ!ザマァ!』とか言われるし」
「私、そんなこと言ってないんですけど!?」
「チクショウ!ハーレム作るって将来の夢どうすりゃいいんだぁ!!?」
「叶う訳ないですよ!!」
「俺の夢、馬鹿にすんのか!?ふざけんな!バーカ!!」
「バカって言った方がバカなんです!バーカ!!」
「くそぅ!生き返れ!俺の身体!目覚めろ俺!魔王退治なんて面倒事、夢であれ!ハーレムは現実になれ!」
「絶対なりませんよーだ!甘くないんです世の中!」
「うわぁ!絶望だああああ!!!」
「成部さんの夢とか絶望とかはどうでもいいんです!話戻しますよ!」
「なんか、しれっとまた馬鹿にされたんだが」
転校生...じゃねぇや。イーリネル...えっと、へ、へベット?イーリネルへベットだったけかな?あーもういい!転校生って呼びます!
転校生は、ジジイと鼻水垂れ男とニヤケ変人の視線を気にして話を戻した。
くそ、まだ俺の夢が!ハーレムの話が!終わってないのに!最後まで語れてないのにぃ!
「成部さんが轢かれる前にこっちの世界に転移させたんです。なので、死んでませんよ?」
「・・・ありがとう?と言っておこう。一応」
「いえいえ」
「で、俺のハーレムがさ!」
「まだ言うんですか!?」
もう少し俺のドリームの話を語りたかったが、ジジイ達の視線を気にして一旦辞めといた。いつか最後まで聞かします。ゼッタイ。
「よし、自分の立場もわかった。だが、元の世界に帰る為に命を危険に晒すような真似すんのもなあ。最悪、こっちに住んでもいいしな、別に」
「な、なんでですか!?帰りたくないんですか!?」
転校生は、驚きを隠せないようだ。
正直、元の世界には未練がありまくりだ。
魔王を倒せば帰れるんだろ?
なら、俺より相応しい奴が勇者になって倒してくれるかもしれない。そうすれば楽に元の世界に帰還。異世界も堪能出来て最高にハッピー。もしかしてだけど...俺は天才か?
それに、ここでやる事があるしな...。
「自分、楽に生きるのがモットーなんで。魔王退治なんて大変そうなことしたかねぇよ」
「そ、そんなあ!困っている人々を救って下さいよ!勇者になりましょうよ!カッコいいですよ!」
「俺は、善人でも子供でもないぞ。そんなんで釣られるか。諦めたまえ。俺はのんびりライフさせて貰うわ」
「嫌な人ですねぇ...。けど、勇者は義務なんです!一度、転移したら務めを果たさなきゃいけないんですよ!」
「義務?知らない言葉だな」
「現実から逃げないで下さいよ!それが、ルールなんです!お願いしますよお!」
「あー俺の生き様がルールだから」
「そんなわけないでしょう!えっと...じゃあ、じゃあ!恩人ですよ?私、車に轢かれそうだった成部さんの命の恩人です!お願い聞いて下さい!」
「恩?助けてくれなんて頼んでないんだけど」
「最低ですね!?」
「褒め言葉だな」
「ホント、嫌な人!!」
すまないな転校生。
俺は全力で拒否させてもらう。
「まあ、他のヤツに頼みたまえ」
「いや、前の方は...」
「え、前の方?」
「あ、ち、違いますよ?ま、ま、ま、前の方なんていませんよ!?な、成部さんの他によ、呼ぶって事ですよね!?」
「そうだけど...」
何を慌ててんだか。魔王を倒さないと帰れないんだから、俺の前に人なんて...。ん?まさかな。
「わ、私は成部さんが一番適してるって確信してるんです!」
「その考えは素晴らしい!俺は天才で強くてイケメンの紳士だからな!」
「・・・え?」
「『え?』じゃないよ君。何もおかしくないだろ」
「・・・え?」
「疑問を持つんじゃないよ。まるで、何かが俺に当てはまらないみたいじゃないか」
「え?全部当てはま」
「シャラップ!」
その先は言わせんぞ。
転校生は、俺の何処が勇者として適していると思ったのだろう。
「ホントに勇者になってくれないんですか...?」
涙目など俺には効かん!!
・・・・・効かないけど、やっぱその目やめて!なんか、胸が!謎に痛い!涙目の上目遣いは関係ないけど!関係ないけどな!
「ならないって。どんなこと言っても無駄だぞ。俺の心は絶対に揺るがない!はっはっはー!」
「そう...ですか」
ふぅ、諦めたか。数日では元の世界に帰れないが、まあいい。この世界を満喫させてもらうぜ。
「噂では魔王を倒せば"何でも"願いが叶うらしいんですが、成部さんが勇者にならないならそれが本当のことでも意味ないですね...はあ」
ガッカリする転校生。
一方、ピクッと動いた俺。
「なん...でも?」
「はい。あ、例えば、成部さんが言っていた。ハーレムなんかも作」
「よし、行こう!すぐ行こう!」
スパッと転校生の横に行き肩を組んだ。
俺の肌はツヤツヤして輝いていた。
そして、目も輝いていた。美しい瞳だ。
「え、勇者にはならないんじゃ...?」
「馬鹿やろう!困っている人々がいるんだろ?暴れている悪魔たちがいるんだろ?放っておけるか!カッコいい勇者様が救ってやろうじゃんか!!」
「きゅ、急に心変わりしたんですか?」
「何言ってんだ!最初から、俺は勇者になって魔王を倒すって言ってたじゃねーか!」
「え、楽に生きるのがモットーって」
「僕、楽するヤツ大嫌い!」
「え、のんびりライフを送るって」
「僕、怠け者こそ働かせるべきだと思う!」
「絶対に心は揺るがないって」
「奇跡が起こったんだね!!人ってすごい!」
「じゃ、じゃあ!なってくれるんですか、勇者!?」
「なるなる、なります!悪魔たちなんて瞬殺よお!任せとけ!この俺、勇者ロウドになぁ!」
「成部さん...!」
コイツ、やっぱ馬鹿だな。
そんなこんなで、勇者をやることになった俺、成部 楼努。
後々、俺はハーレムにつられ乗ってしまったことを後悔する。
だが、俺はこうも思う。
どうせなら、この異世界を全力で楽しんでやる。
そして、君に"あの時"の恩を返そう。
俺は拳を握り、決意を固める。
さあ、この日々を笑おう!
俺の冒険が、今、始まる!!
回想の後で!
こんにちは!乃ガマです!
ということで、再スタートしました『ふざける異世界でテキトーに』。
知らない人ばかりだと思うのですが、この物語は僕が前に書いてたものをリメイクした作品となっております。修正や伏線の追加などして、皆様を楽しませれるよう準備してまいりました。気に入ってもらえたなら応援して下さると励みになります。
今作は馬鹿なキャラがふざけた異世界を冒険する物語です。あらすじにもありますが、後半になるにつれストーリーがシリアスになっていきます。シリアスとコメディを上手く共存させて面白い作品に出来たらいいなと思います。
次回は、回想となっております。異世界に来る前の話です。これまたいきなりシリアスになるわけなのですが、コメディも交えているので、安心して見て下さい。
次回は、今日初回投稿ということで30分後の20時に投稿します!よろしくお願いします!