第96話 動いていく計画
宇宙歴4263年1月13日、バステーユ王国王都にあるメイソンの屋敷で、ようやく動きがあった。
▽ ▽
「ニーズ、例の島の位置が分かったそうだな」
「はい、旦那様」
「では、この前話した例の計画通りに進めてくれ」
メイソン卿の薦める計画、それは、島を発見しその島を強襲するというもの。
計画に参加するメンバーの中には、近辺を荒らす海賊の名も連なっている。
「島を強襲後、勇者ナオミ以外は海賊どもの好きにさせろ。それが契約だったしな」
「畏まりました」
メイソン卿に頭を下げると、ニーズはその後部屋を出て行った。
すぐに計画を進めるため、使いを出すのだろう。
「フフ、これで勇者ナオミはこちらのものだな。
海賊どもが協力してくれるとは思わなかったが、こちらは勇者ナオミさえ手に入ればいいのだ。町がどうなろうとそこの住民がどうなろうとな……」
黒い笑みを浮かべて、計画の成功を疑っていないメイソンの部屋に一人の男が飛び込んでくる。
「父上!いい加減ヴィクトリアを私に下げ渡してもらえませんか?」
「はぁ、ローガン、ヴィクトリアをお前に渡したらすぐに壊してしまうだろうが!」
「良いではありませんか!いい加減私も我慢の限界です!」
ローガンは、メイソンの息子だ。
今年で26になるのだが、妻を娶らず性奴隷ばかりを集めて遊んでいる。
今回ヴィクトリアを買って帰った時も、くれくれとうるさかった……。
いい加減、欲を自分で制御できるようになってほしいものだが……。
「ヴィクトリアは今回の計画に必要な人物だ。
お前に下げ渡すことなどできん。いいか、ローガン。
もしヴィクトリアを襲ったりしてみろ、いや、その素振りを見せても、私はお前を息子と思わずに殺すからな……」
「……でも、処女でなくとも……」
「処女でないと困るのだ!女王になるには処女であるかの確認が教会の者の手でおこなわれるのだよ」
国の王たるもの、清らかな体と心で政をおこなうべし!
というわけの分からん決まりが存在している。時代錯誤も甚だしいが、建国以来ずっと守られていたことを、覆すことはできんのだ。
その割に、王や女王になってしまえば妻なり夫が何人いようとかまわないのだから、不思議に思われる儀式である。
「良いなローガン!ヴィクトリアをどうにかしたければ女王になった後、お前をヴィクトリアの夫にすることもできるのだ、それまで我慢しろ!」
「わ、分かりました、父上……」
少し肩を落としたローガンが、部屋を静かに出て行く。
しかし、扉を閉めた後で何かに気付いたようで……。
『そうか!ヴィクトリアが女王ならその夫は王様ってことじゃないか!グフフ……』
「……馬鹿が、お前を夫にしたらこの国が終わるわ」
あんな息子しかいないとは、どこで教育を間違えたのか……。
▽ ▽
「……ヴィクトリアはまだ無事なようだね……」
『無事といえるのかのう、これは……』
通信端末を取り出し、王都の貴族街に近い路地裏で盗聴すると、メイソンの部屋でのやり取りが聞こえたのだ。
王都に来てから、いろいろと見物をしていて、ようやくメイソン卿が動き出したと連絡を受けての盗聴だったが、面白いことが分かった。
「でも、島の場所が知られているとは想定外だな」
『あの海域は、かなり危険な海洋魔物が多い海域じゃからのう』
「どうやら、油断しすぎていたようだ」
これはすぐに対策をたてて、返り討ちにしないとね。
せっかく町らしくなってきたのに、海賊どもに荒らされてたまるかってね。
「町には後で、警戒をするように知らせておこう」
『儂らで撃退はせんのか?』
「勿論、衛星軌道上から迎撃はするけど、撃ちもらしがあるかもしれないからね」
『ふむ、クレアや冒険者達には日ごろの成果を試すにはちょうどいい相手かの』
「そういうことだ」
何でもかんでも僕たちでやることはない、クレアたちを信じて任せることも必要だ。
それよりも、僕が今やらないといけないのは、勇者の仲間のことだ。
「ヴィクトリアの居場所は分かった。
後は無事を確認して、アレクとルークを探さないと」
『宿のトリニティ殿は、すぐにでも解放はせんのか?』
「トリニティさんは、今は無理だよ。
容姿を変えているのはワザとか命令されて、だろうからね。
今奴隷から解放しても、他の仲間がどう繋がっているか分からないから、もしかしたらがあるかもね」
『……もしかしたら、か』
そう、直美さんの仲間たちはどう繋がっているのかが分からない。
トリニティさんとヴィクトリアさんは繋がっていなかった。しかし、アレクさんとルークさんのどちらかと繋がっていると、逃げるときに足かせになるんだよ。
だから、逃げるなら全員一緒に逃がすしかないんだよね。
まったく、変なことに巻き込まれちゃったな……。
「アル、今日はこれから探索者ギルドに依頼を出しに行こうか」
『ん?探索者なんぞ雇って、何をする気じゃ?』
「もちろん、ダンジョンに潜ってみるんだよ」
ダンジョンに潜る。
ファンタジー小説や漫画など、そういう作品には必ずといっていいほど出てくる『ダンジョン』!
現実にあればいいのにと、前世の日本で何度思ったことか……。
でも、実際本当にダンジョンが日本にあったら、大変な騒ぎになっているだろう。
だから、こうして現実にダンジョンがある惑星が見つかると、いつかは入ってみたかったんだよね……。
さあ、ダンジョンに潜る準備を始めよう!
第96話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




