第91話 本当の気持ち
「はぁ~」
宇宙船『ハルマスティ』の窓から見る宇宙は、深い暗闇が広がっているようにしか見えない。
今、私の心はこの宇宙と同じく深い暗闇が支配していた。
「どうしたの、直美。そんな深いため息ついて……」
「優菜~、深いため息もしたくなるわよ。
クリスマスが無いって……クリスマスが無いってどういうことなのよ~」
そう日本にある季節の行事『クリスマス』が、この世界にはない。
青い星で、ダンジョンに潜り魔王を相手にしていた時だってこの時期にはクリスマスのことを考えていた。
でも、あれはファンタジー世界だったし、日本ましてや地球じゃなかったからクリスマスがない事はあきらめがついた。
でも、ここは、地球から宇宙へ発展した世界!もちろんクリスマスがあってもおかしくない、はずなのに……。
「オリビアさん、もうすぐクリスマス・イブですね」
『……クリスマス・イブって、坂宮さんはキリスト教徒なの?』
「え、いえ、違いますよ。でも、クリスマスはお祭りでしょ?」
『……そういえば若が、日本人はクリスマスと称してお祭りをやっていたと聞いたことがあります。坂宮さん、残念ですが今はクリスマスというお祭りはしていないんですよ』
私は、目の前が真っ暗になりました。
……もう、あの日本人がしていたお祭りは無くなったんだと……。
「今日は12月24日ですものね、日本人なら浮かれちゃいますよね~」
「そうなの!私も楽しみにしていたのに、この世界にはないなんて……」
地球から宇宙へ進出した人類は、宇宙のいろんな場所へ移住したり冒険に行ったりしているようだ。
『毎日がお祭りのようだ……』とは、ある宇宙探検家が言った言葉だが、宇宙はそれだけ人類にとって最後のフロンティアだったのだ。
「でも、よく考えたらクリスマスって何してた?」
「う~ん、ご馳走食べて、ケーキ食べて、プレゼントもらったり?」
「後は恋人同士で、クリスマスデートとか、家族でクリスマスパーティーとか?」
「「………」」
「よく考えたら、クリスマスという特別な日に酔っていただけなのかな……」
「こうして宇宙から足元の青い星を見ると、クリスマス?何それ、美味しいの?って気分になるわね」
「優菜、クリスマスにいい思い出ないの?」
「……無い。私、クリスマスにフラれたことあるから、いい思い出はないんだよね……」
「……ごめん、私は家族で過ごしたってことしかない」
結局、私たちはクリスマスという日本のお祭りに感化されていたってことなんだね。
宇宙に出ると、国特有のお祭りは意味をなさなくなるみたい。
その国特有の考え方も同じなのかな?
「……さっき、オリビアさんに聞いたんだけど地球のお祭りで宇宙にもあるのって、新年を祝うものぐらいなんだって」
「そっか、ハロウィンも大みそかも節分もバレンタインもひな祭りもお花見も何もない…」
「直美、よくそれだけ思いつくね……」
「このままだと、明日の私の誕生日も何もないまま終わりそうだ……」
「え、直美、明日誕生日なの?」
「そうだよ、私の20歳の誕生日。
17歳の時に召喚されて、2年頑張ってダンジョン制覇したんだから……」
仲間たちとダンジョンの中で生き残っていくことに必死だった、地上とダンジョンを何度往復したか……。
強くなればなるほど戦いは大変になって、ようやくダンジョンの魔王と倒して凱旋してみれば訳の分からない罪を着せられて奴隷落ち。
……他の仲間はどうしているかな~。
レオン君に後で相談しよう。助けられるものなら助けたいし、どこかの国に買い取られたとか聞いたから心配なんだよね。
今さら遅いかもしれないけど、あんなに苦労してともに戦った仲間だもん。
私も、ようやく余裕が持てるようになって、仲間のことを考えられるようになったのかな。
「どうしたの?直美、急に黙ったりしちゃって……」
「うん、一緒に戦った仲間のことを思い出しちゃって……」
「確か、一緒に奴隷にされてバラバラに売られちゃったんだっけ?」
「うん」
力なく、私が返事をすると優奈が私に抱き着いてきた。
「大丈夫だよ、レオン君に相談すれば何とかしてくれるよ。
だから、泣かないで直美……」
「泣いてなんか……」
そう言おうとした私の視界に、空中に浮いた水滴が見えた。
そっと、私の目の辺りを拭うとさらに水滴が。
私は、いつの間にか泣いていたことに気付いた。
ここは、宇宙船『ハルマスティ』の中でも重力区画ではない廊下。
ここにある窓から、私は宇宙を見て青い星を見てため息をついていたんだった……。
クリスマスを嘆くよりも、誕生日を嘆くよりも、ともに戦い支え合った仲間たちを思って泣いてしまったんだね……。
優奈に抱き着かれて、そんなことを思っていると窓の外に薄いブルーの宇宙船が見えた。
あの大きな船体の横にある特徴的なドラゴンの紋章は、レオン君の新型宇宙船。
どうやら月視察から帰ってきたようだ。
「優菜、レオン君が帰ってきたみたいだよ、ほら……」
「……あの紋章は、レオン君の新型宇宙船だね」
ゆっくり、ゆっくりと係留ドッグに入っていく新型宇宙船。
私はポケットから取り出したタオルで顔を押さえると、涙を拭いて優奈に声をかける。
「優菜、迎えに行こうか。レオン君に頼みたいこともあるし」
「そうね!」
優奈もポケットからタオルを取り出し、顔を拭いて迎えに行く。
仲間の救出をお願いするために……。
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