第89話 遺言
結局、ソフィアとセレニティーの二人で青い月へ向かってくれた。
そこでホムンクルスと出会い、宇宙船『ベディヴィア』にわざわざ来てもらうことができた。
「ガブリエラさん、わざわざこの船に来てもらってすみません」
青い月にいたホムンクルスの名前は、ガブリエラという。
見た目は18歳の美少女で、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるプロポーションをしている。
青い目に薄いブルーの髪色で、髪を後ろにまとめて重力の弱い青い月の月面でも動きやすくしていた。
『いえ、人族などの生物は月面では息が出来ませんから仕方ありません』
「ソフィアとセレニティーもありがとう、連れてきてくれて」
「なあに、少し戸惑ったが問題なかったようじゃ」
「僕も怖かったけど、話せばわかるホムンクルスで良かったよ」
ソフィアとセレニティーは、少しホッとしているようだ。
やっぱり青い月は、苦手のようだな……。
ホムンクルスのガブリエラさんは、僕たちを見てそれから室内をじっと見ている。
ここはブリッジの真下にある、客をもてなす部屋だ。
そのため、20畳ほどの広さになっていて、主に応接室のような感じだ。
『………』
「えっと、珍しいですか?」
『………』
何だろう、ずっと黙って僕を見ている……。
何か、気に入らないことでも……。
「ガブリエラ殿、レオン殿は魔力をもたぬ人族だ。念話は通じないぞ?」
『……どうやら、そのようですね』
ね、念話を送っていたのか……。
魔力がない僕に念話を使う、これってどういう意図で使ったのか……。
『レオン殿、で、よろしいか?』
「はい、そう呼んでもらっても……」
『では、レオン殿、あなたは青い星の生まれではありませんね?』
「はい、僕は違います」
『そうですか、人々はまだ、マスターの領域にたどり着いていませんか……』
マスターの領域?
あ、ガブリエラさんのマスターは、宇宙進出を達成していたのかな……。
となると、すごい事なんだけど……。
「あの、ガブリエラさんのマスターは、いつ青い月へあなたを?」
『マスターが私を青い月へ飛ばしたのは、赤い月にドラゴンが居つく前でした』
「何じゃと?儂が赤い月に初めて降り立ったのは、2000年前のことじゃぞ?」
『はい、それよりも前でしたよ?』
2000年も前から、青い月で暮らしていたことになるのか……。
ん~、となれば、ガブリエラさんの状態はすごいな。劣化した感じが一切ない、それどころか造られて1年か2年ほどの美しさだ……。
「あの、2000年以上もマスターと会えなくて、寂しくありませんでしたか?」
『優しい子ですね、寂しくはありませんでしたよ。月面の塔は見ましたか?』
「はい、クレーターの中に造られているのを発見しました」
『あの塔には、空間転移の魔法陣が仕掛けてあります。
そのため、青い星の地上と青い月の塔の部屋を結ぶことが出来ました。
それで、月に一度ではありますがマスターに会いに行っていました』
空間転移か……魔力のあるファンタジー世界ならありなのかな……。
……あれ?ソフィアとセレニティーが驚いているな……もしかして……。
「く、空間転移じゃと?ガブリエラ殿のマスターは、空間転移が使たのか?」
『魔法陣で、だけではありますが使えました』
「すごいねソフィア、僕たちドラゴンの間でも空間転移が使える者は少ないのに」
……空間転移、チート能力だったのか。
「あの、ガブリエラさんはこれからも青い月に住み続けるのですか?」
『ええ、それがマスターの遺言ですから……』
「遺言……ですか……」
『『いつか必ず人々は空の向こうに行くだろうから、その時驚かせてやってくれ』と』
……マスターさん、くだらなさすぎるよ!
あ~、ソフィアたちも呆れてるよ……。
「あ、あと、青い星の地上にはガブリエラさん以外のホムンクルスはいないですか?」
『マスターが住処としていた島があるはずです。
確かそこには、私以外のホムンクルスがいたと思われます。
……今、どうなっているかは分かりませんが』
……もしかして、その島から流失したのかな?ホムンクルス。
クレアが、オークションでホムンクルスが出ていたって言っていたようだし……。
こうして、青い月にいるホムンクルスとの出会いは終わった。
この話の後、ソフィアがガブリエラさんを青い月に送って行って僕たちは帰っていった。
おそらく、もう会わないかもしれない別れ……。
「青い月には、マスターの遺言を守るホムンクルスが住んでいる……か」
『あんなくだらない遺言でも、ガブリエラからすれば大切にしたいマスターの最後の言葉なのかもしれませんね……』
マリアがしんみりと、遠ざかっていく青い月を見ながら呟いた。
ブリッジから見える青い月は、きれいではあるが儚げな感じが僕はした……。
「……さて、次はソフィアが住処としていた赤い月へ行ってみようか」
「ん?儂の住処に来るのか?青い月同様何かあるわけではないと思うが……」
「ソフィアが2000年住んでいたところでしょ?
もしかしたら、何かあるかもね。ドラゴンの住処には光物が多いと聞いたよ?」
「セレニティー、誰がそんなデマを言っておったのじゃ!」
「僕が、奴隷として捕まっていた時に聞いたんだよね」
そう言えば、物語何かでもドラゴンが長年住みついた場所は特別な場所になるとか書いてあったな……。
スゴイ薬草が生えているとか、ドラゴンのはがれた鱗がすごいとか、特別な酒が湧き出ているとか……でも、赤い月の月面上だからあまり期待はしないでおこう。
今の季節、赤い月と青い月との距離は少しあるけど、この宇宙船でいけない距離じゃないし行ってみますか。
第89話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




