第86話 赤い月と青い月
宇宙歴4262年12月23日、父さんから送られてきた専用職アンドロイドを起動させ、宇宙港や軌道エレベーターなどに配置すると、すぐに仕事に慣れていった。
さすが専用職のアンドロイド、即戦力だ。
また、ロージーに預けたオールマイティアンドロイドは、名前をマリアとしてクレアやソフィア、セレニティーと一緒に宇宙船『ハルマスティ』のブリッジに集まって紹介する。
『初めまして、マリアといいます。
若旦那ことレオンの傍に仕えるアンドロイドとなりました。
これからよろしくお願いします』
確りとお辞儀をして丁寧なあいさつをするマリアに、みんなも笑顔でよろしくとあいさつをする。
今も僕の傍に仕えるロージー以外のメンバーも、マリアに好感を持ったようで、よろしくとあいさつをしていた。
「ふむ……なるほど……確か、どこかで……」
セレニティーは、アンドロイドのロージーをはじめとした六人をじっくりと見て何かを思い出していた。
「どうしたのじゃ?こやつらを見て、考え込んでいるようじゃが……」
「うん、確かどこかでこんな人を見たような………」
「それってホムンクルスじゃないですか?
確か何年か前に、オークションに出たって話を聞いたことありますし」
「クレア、ホムンクルスって錬金術の?」
「はい、ご主人様。その錬金術の最高傑作といわれている奴です」
「ああ!そういえば!思い出した!
確かにホムンクルスだ、赤い月と対になっている青い月にいたところを見たんだ」
「青い月にホムンクルスがおったのか?」
セレニティーが思い出したホムンクルスに、ソフィアが驚いている。
青い星には二つの衛星、つまり月がある。
赤い月と青い月だ。どちらもその星に含まれる鉱石の含有量で色が違うのだ。
どちらがどんな鉱石が含まれているかは、調べて無いので分からない。
青い星に夢中になっていたところに緑の星の出現で、すっかり忘れていたのだ。
さらに、赤い月はソフィアが住んでいた場所。
調査することは荒らすことと同じではと、躊躇したのも事実だ。
結果、セレニティーの言っている青い月にいるであろうホムンクルスを発見できなかったというわけだな。
『でも、何故ホムンクルスが青い月にいたんでしょうか?』
「ふむ、マリア殿の疑問ももっともじゃ。
どうじゃなレオン殿、これを機に青い月を調査してみては?」
……月の調査か。
宇宙港や軌道エレベーターにアンドロイドが入って、人手不足も少しは解消できたし、調査してみるか。
今のところ、緑の星に動きはないし、この宙域にも問題はない。
「そうだね、今のうちに月の調査をしてしまおう。
ロージー、マリア、アシュリーで赤い月と青い月の調査をお願い。
特に青い月は念入りに頼む、件のホムンクルスを探すつもりで」
『分かりました、お任せください』
『了解しました』
『了解です』
すぐにブリッジを出て、探査衛星などの用意にかかるロージーとマリア。
アシュリーは、探査モニターなどのシステム構築に入った。
「クレアとソフィア、それにセレニティーは島の町に戻ってくれないか?」
「何かあるのかの?」
「何人か鍛えてもらいたい人がいるんだよ、セーラから要望が来ていたんだ。
クレアのようにお願いできないかな?」
ソフィアとセレニティーはクレアをチラッと見て、了承した。
「まあよかろう」
「暇だしね、僕にできることなら手伝うよ」
「クレアも、手伝ってもらえるかな?」
「はい、お任せくださいご主人様」
素直に了承するクレア、本当に真っ直ぐでいい子だね。
クレアの真っ直ぐな心に感心していると、ソフィアが僕の耳に顔を近づけた。
「青い月で何か発見した時は、儂らにも報告するようにな」
「……分かっているよ。ソフィアたちを除け者に何てしないって」
そうソフィアと約束すると、満足げに三人でブリッジを出て行った。
『はい!はい!私たちは何をすればいいの?』
エリーが手を上げて、僕に聞いてくる。
その横で、シンシアとオリビアも僕の指示を待っているようだ。
「シンシアとオリビアは、勉強中の四人のことを頼むよ。
一年くらい勉強させて、今後を話し合えばと思っているから」
『……そうですね、いつまでも勉強だけとはいきませんね』
オリビアはもう、ローズ、優奈、直美、イザベラの担当教師となっているみたいだし、今回はそこにシンシアを加えて面倒を見てもらおう。
『分かりました、彼女たちのことはお任せください』
『がんばります』
そう言うと、二人はブリッジを出て行く。
あとここに残るは、エリーと僕だけ。
「エリーは、僕と一緒に艦長室へ来てくれ。
溜まっている報告書とかの書類が山ほどあるんだ、その整理にね」
『は~い』
エリーは書類がどうこうとか、仕事の量がとかじゃなくて、僕と一緒にいられることがうれしいみたいだな。
さて、青い月のことが分かるまでは、報告書や書類の整理を頑張りますか……。
……7歳児の仕事じゃないな、これは。
第86話を読んでくれてありがとうございます。
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