第83話 その後の報告
『どうしたんですか?報告書にいいことが書いてありましたか?』
アンドロイドのアシュリーに指摘されて、僕は自分がにやけていたことに気付いた。
報告書を読んでいる時は、しっかりしないとね。
あの奴隷オークションから3か月が過ぎた。
シャロットさんの治療は、うまくいって完治した。
傷や火傷が完全に治って、後も残らずきれいな姿で姉のジャスミンさんの前に出てきたときは姉妹で抱き合って大きな声で鳴いていた。
それを見ていた勇者ナオミさんも、もらい泣きしていたほどだ。
そんな二人も、今ではセーラさんとともにあの町のために働いてもらっている。
家族奴隷の人達は、それぞれに家と畑をもらい生活しているし、子供奴隷は全員まとめて孤児院に入ったようだ。
中には、強くなりたいとソフィアやセレニティーに弟子入りしたいなんて子供もいたようだが。
そのセレニティーは、ソフィアとともにいることを選んだようだ。
もともとはエンシェントドラゴンなのだ、誰かに強制できるわけでもないし。
それに、同じエンシェントドラゴンのソフィアがいれば何とかなるだろう。
あと、星の意思のグレイスは、元の場所に帰っていった。
いい加減、浮遊島をどうにかしないと大陸規模になって大変なことになるからといっていたんで、監視衛星で確認すると大陸規模ではなく浮遊島が増えていたみたいだ。
あの浮遊島一つ一つが、魔力が固まったものだと思うと、グレイスは一人で大変な仕事をしているんだと感心してしまう。
それと、借金奴隷としてオークションに出ていた人たちは、この島に住むことを決めたようだ。
奴隷から解放はされたが、僕に対して負い目というものがあるみたいで借金だけは何としても返したいといってくれた。
この島で強くなったり、仕事を覚えたりして島を出て稼ぎたいといっていたよ。
その決意で、今も頑張っているようだ。
そうそう、孤児院の奴隷たちを買い戻そうと奮闘していた孤児院出身の人達は、オークション終了から一月後に合流してこの島に連れてきた。
オークションが終わってすぐに、町を出たからその人たちに知らせるのを忘れてて、シャロットさんの治療が終わり町に戻ってようやく思い出したため慌てたよ。
顔の割れていないアシュリーにその人たちに伝言を持っていってもらい、何とかこの島に連れてこれたってところだ。
僕、まだ7歳なのにこんなに忘れっぽいなんて……。
それから、僕について宇宙に上がったものもいる。
ローズ・エレクバル。見捨てられた第二王女様だ。
ローズは、セーラたちとは違い教養がその国のものしかなかった。そのため、島の維持管理には向かなかったし、商売や農業も無理ということで宇宙に上がり一から勉強することに。
どうやら、彼女の本質は新しい物大好きみたいで宇宙のことが気になってしょうがないのだとか。
次がカミラ、出自不明の彼女、実は異世界人で勇者のように召喚されたわけでもなく、ただ気づくと街道そばの草むらに倒れていたそうだ。
どうすることもできなくて、ただ歩いているところを捕まり孤児院へ。
でも孤児院の生活にも馴染めず、魔力がないことが分かると奴隷として売られオークションへということらしい。
それで、僕が出現させた宇宙船を見て、もしかしたらとすべてを話してくれたんだ。
カミラという名前も孤児院でつけられたらしく、本当の名前は『上城優奈』という。
そして最後が、勇者ナオミ・サカミヤこと『坂宮直美』もまた宇宙へ上がった。
ダンジョンの魔王討伐を成し遂げたのにもかかわらず、国に裏切られ奴隷落ち。
そして、元の世界に帰ることができないらしく落ち込んでいる所に僕に出会ったと。
そして同じ日本人、もしくは日本を知る者同士ということで僕の側にいることに決めたそうだ。
また、上城優奈ともすぐに友達となり、今では一緒にこれからのために勉強をしている。
ローズ、優奈、直美は、オリビアを先生にしていろんなことを学んでいる。
もちろん、訳かが分からないことも多いだろうが一応知っておく必要がある。
細かいことは、後で睡眠学習でもすれば頭には入るので大丈夫だろう。
一応知っているという認識が必要なのだ。
にやけた顔を戻し、再び報告書へ意識を集中すると、宇宙船『ハルマスティ』の艦長室の扉が開く。
そして、飛び込んできたのはイザベラ。
彼女は、ソフィアが気になっていた仮面をかぶった奴隷だった女性だ。
その正体は、奴隷売買が禁止されていたエルフだ。
どうもあの仮面は幻覚要素があるみたいで、仮面をつけたものを人族だと錯覚させる効果がある。
そんな魔道具、需要はないように思えるがエルフにはありがたいものだったようだ。
ただ、そのために仮面をつけたまま奴隷となってしまったが……。
それと、仮面は奴隷になってからも外されることなくオークションにまで売られたことを考えると認識疎外の効果もあるのかもしれない。
ソフィアが仮面に気付いたのも、エンシェントドラゴンだからなのかもね。
「レオン殿、私も勇者殿たちにまざり勉強がしたい!」
「……それって、宇宙の勉強がしたいってことですか?」
「そう、ここは素晴らしい世界だ!地上で勉強するより何倍も面白い知識がある。
ぜひ、私も勇者殿たちと同じ勉強をさせてくれないか?!」
日本の小説なんかで書かれている通り、エルフはあの青い星でも長命な種族だった。
そのため、知識好奇心が何倍も強いらしくすぐに島での生活に飽きて、宇宙に上がることになった。
初めて目にする道具たち、宇宙から見る自分が住んでいた星、さらに広がる宇宙の広大さ。
そのすべてが初めてで、興奮しっぱなしだった。
だが、宇宙にきて知識を得ようにも字が読めない。
そこで、さっきの勉強の話になるわけだ。
「ん~、分かりました。でもまずは字を覚えるところから始めましょうか」
「ありがとう、レオン殿!」
そう言って喜ぶと、スキップしながら部屋を出て行った。
僕とアシュリーは、苦笑いを浮かべながらイザベラが出て行くのを見ていた。
第83話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




