第81話 軌道エレベーター
「それじゃ、桟橋に降りる前にそのみんなの首輪を外してしまうから」
輸送宇宙船『エレイン』を着水させ、島の港の桟橋に横付けするとハッチを開け皆を下ろす準備をする。
ここまで来たら、もう奴隷解放しても問題ないので船から降りる前に解放してしまおう。
最初は誰からと、降りるために集まっていた奴隷たちを見回していると、勇者ナオミさんが驚いて声をかけてきた。
「ちょっと待って、私たちを奴隷から解放するって本当のことだったの?」
「僕が嘘を言うわけないでしょ?それに、ここは大陸から離れた島だ。
どこかにいなくなってしまうことはないでしょ?」
「……確かに、逃げらんねぇからな」
そう言うのは、家族と一緒に僕と勇者ナオミさんの会話を聞いていた男の人。
「ねぇ、私たち、自由になれるの?」
集まっていた子供奴隷の、一人の女の子が僕に聞いてくる。
「ああ、自由になれるよ。この島ではね」
そう聞くと、女の子はパ~ッと表情が笑顔に変わり喜んだ。
隣の友達だろう女の子とともに、喜んでいる。
「そ、それじゃあ、私から解放をお願いするわ」
一番最初に名乗りを上げたのは勇者ナオミさん、皆の不安を取り除こうと、最初に志願したようだ。
「じゃあ、外すよ?」
「う、うん……」
奴隷から解放することを考えて、奴隷商をつぶさに偵察して解放の仕組みや奴隷契約の仕組みを勉強して作った魔道具『奴隷解放の鍵』。
魔力の無い僕たちではその辺りさっぱり分からないから、クレアやソフィアに頑張ってもらって作り上げた。
レベルが上がって、クレアが特に頑張って勉強してくれた。
本当に、クレアには感謝だね。
僕は『奴隷解放の鍵』を、勇者ナオミさんの首にしてある奴隷の首輪に触れさせる。
すると、大きな音で鍵が開いた音がすると奴隷の首輪は二つに割れて床に落ちた。
「はい、外れたよ~」
勇者ナオミさんは、自分の首を手で触り、奴隷の首輪が外れていることが分かると涙を流しながら喜んだ。
「や、やった!外れたー!!奴隷から解放された~ぁぁ……」
「おめでとう、ナオミさん」
「あ、ありがどぅぅ~」
と、僕に抱き着いてさらに喜んでくれたようだ。
その後、落ち着いた勇者ナオミさんの誘導で順番に皆を奴隷から解放していった。
▽
今回連れて来た奴隷全員を解放した後、輸送宇宙船『エレイン』を降り、皆で町で一番大きな建物であるお城に行く。
そこで、セーラと会い、今後のことについて話し合うつもりだ。
家族奴隷だった家族には、それぞれ家を用意し希望者には畑を用意する。
子供奴隷は、孤児院を造りそこへ入れることに。
他にも、セーラの手伝いや店を始めたいものなどいろんな意見を聞いて割り振っていく。
ただ、ジャスミンとシャロットは、僕と一緒に軌道エレベーターで宇宙へ行くことになる。
シャロットの傷を治すために。
「クレア、ソフィア、くれぐれもセーラによろしくね?」
「はい、ご主人様」
「シャロットの傷を治したら、城に来るのじゃぞ?」
軌道エレベーターのある塔に向かう道とお城に向かう道の分岐点で、クレアたちと別れる。
ここから、僕とアルとジャスミンにシャロット、そして何故かついてくることになった勇者ナオミさんは、塔に向かって歩き出した。
分岐点から塔までは10分とかからない距離にある。
道もきちんと整備されていて、歩きやすいようだ。
塔が見えてくると、その大きさがよくわかるようになる。
中にある軌道エレベーターを隠すために、こんな手の込んだ塔を建てたのだから景観を守るのは、本当に難しいな……。
塔にたどり着き、入り口の高さ3メートルの大きな扉を開けると、中は外のファンタジー世界とは大違いの近代設備となっている。
「……モニターが浮いている?」
「あれは、今は何も映ってないけど、将来、外から人が来るときがあればあのモニターにエレベーターの出発時間と到着時間を映すつもりだよ」
「……そうか、空港と同じなんだ……」
理解が早い勇者ナオミさんに、僕は笑顔を浮かべカウンターに向かった。
この軌道エレベーターも宇宙の簡易宇宙港と同様、人手不足で何でも自分でしなければならない。
そのため、軌道エレベーターを準備し点検をして、ようやく乗り込めたのは、塔に着いてから1時間後のことだった。
「……人手不足って、こういうことだったんだ……」
「それもあるけど、ここの管理には宇宙から人を送り込まないと……」
「この世界の人では、扱えないってこと?」
「この世界は魔法世界で、僕たちは科学世界。
魔力無しの生活ができないと、扱いに困るものばかりだからね……」
「……苦労しているんだね、レオン君」
僕と勇者ナオミさんの会話を、苦笑いで聞いているアル。
何のことだかさっぱり分からない、ジャスミンとシャロット。
そして僕たちは、エレベーターの部屋に乗り込むとパネルを操作し、上空へ衛星軌道上のコロニーへ上がっていった。
部屋の大きさは、個人用ということで10畳ほどの広さのものを用意した。
その中に座るための椅子や、のどが渇いた時のために小型の冷蔵庫。
さらにベッド並みのソファまで完備している。
さらにさらに、壁の一部に外の景色が望めるようになっていた。
「ナオミさん、ここから外の景色が望めますよ?」
「上がっていく景色が見えるってことね……」
僕と勇者ナオミさんが、大きな窓から外を眺めていることに興味を持ったジャスミンが、僕たちの後ろから覗いて驚いたようだ。
「こ、これは、上っている……?」
「そうですよ、これから空の先にある場所に登って妹さんの傷を治しに行きます」
「この先に………?」
ジャスミンは、視線を下から上へとのぞき見る。
この登っていく先に、妹を治せる場所を想像して……。
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