第74話 奴隷オークション最終日
「失礼いたしましたお客様、確認できましたので御席へご案内させていただきます」
奴隷オークション三日目、この日、オークション会場に足を運ぶと職員の人から僕の資金について他の客からクレームがついたと知らされた。
要するに、お前、そんなに金持ってんのか?と疑われたのだ。
そこで、会場に入る前に今まで購入した奴隷たちの料金、金貨約2万枚を提示してほしいといわれたので個室で今提示し確認できたというわけだ。
「失礼な人たちですね、ご主人様」
「まあそう怒るなクレア、あの人族の商人は何も悪いところなぞありゃせんよ。
ただ、他の客からの疑いを晴らしてくれたようなものじゃて」
オークション会場の席に座ると、怒っていたクレアが愚痴ってきた。
それを、隣に座るソフィアがなだめているようだ。
今日は、オークション三日目であり、最後僕が購入した奴隷の受け渡しがおこなわれるのでクレアとソフィアについて来てもらったのだ。
なにせ、僕とアルは魔力がないので、隷属契約ができない。
だから、いったんクレアの奴隷とし、拠点の町で解放しようというわけだ。
今朝、拠点の島から港町カルローに飛んできてもらった。
忘れている人もいるかもしれないが、ソフィアはエンシェントドラゴンだ。
ソフィアに乗せてもらえば、ここまですぐだったようだ。
四人が座れる席に案内してもらい『222』の札を受け取ると、ステージ上の司会者に合図が送られる。
どうやら、僕たちが最後だったようだ。
『それではお待たせいたしました!
会場の紳士淑女の皆様、奴隷オークション三日目最終日の開始です!
今日は、家族奴隷と子供奴隷は出てきませんので、男奴隷から早速行きましょう!
エントリーナンバー1、マシュー、20歳。
彼は元帝国兵で、あの『グリトバラの戦い』の生き残りでございます!
帝国が造った砦を三つの国の部隊に攻め込まれ、三日三晩戦い抜き、とうとう落とせなかったあの『グリトバラ砦』の生き残りで、マシューは正面入り口で戦い抜き生き残りました!
皆様の記憶にもあるでしょう、この戦いは吟遊詩人たちがこぞって歌にして伝えておりましたし、傭兵ギルドや冒険者ギルドなどでも話題に上っておりました。
では、金貨100枚からスタートです!』
「ご主人様、グリトバラの戦いって何ですか?」
クレアが疑問に思うのも無理はない、僕も知らないからね。
でも帝国との戦いみたいだから、隣の大陸で起きた帝国が引き起こした戦争の一場面だろうな……。
「おや、お嬢さんは知らないのかい?グリトバラの戦いを」
アルの隣に座っていた冒険者のおじさんが声をかけてきた。
「はい、よろしければ教えてください」
「ふむ、グリトバラの戦いってのは60年戦争の最後の年に起きた戦いだ。
帝国はすでに崩壊寸前って時に、帝国の中心『皇都』への進軍が数多くの反対を押し切って開始されたんだ。
皇都は帝国の中心であり皇帝の居城がある都市だ、そこに住む住民にどれだけの犠牲が出るか分かったものじゃない。
そこで帝国は、皇都へ進む途中にあるグリトバラ砦を最終決戦地とした。
帝国の今持てる力の三分の二を投入、進攻してきた三つの国の部隊がこの砦で戦い合ったんだ、三日三晩な。
だが、この戦いがおこなわれている最中に、別動隊が皇都を襲撃、皇都内で激しい戦闘があり皇帝は死亡、皇太子をはじめとした皇帝一族は捕らえられ60年にわたって行われてきた戦争が終わったってわけよ。
グリトバラ砦は最悪の激戦地で、皆、皇都を守ろうと家族を守ろうと必死で戦うものだからものすごく激しい戦いになったそうだ……」
「へぇ~、私の知らないところでそんな戦いが……」
隣の大陸の戦争は、確か報告が上がっていたけど戦争が終わっていたのは見逃していたな。
帰ったら、見返してみるか。
しかし、そんな激戦地を生き残った兵士に需要はあるのかな……。
……って思ったんだけど、結構購入希望者が多いね。
『エントリーナンバー1、マシューは金貨650枚で『41』の番号札の方が落札です!
さあ、どんどん行きましょう!
エントリーナンバー2………』
▽
『エントリナンバー26、トマス・ホーグルは金貨400枚で『160』の番号札の方が落札です!
さて、ここで男奴隷は終了!ここからはお待ちかねの女奴隷となります!
それでは、エントリーナンバー27、シャロット・エル・リュコード、16歳。
昨日のオークション2日目に出ました、ジャスミンの妹でございます!
捕らえられた皇帝一族は、順次処刑されましたが、姉のジャスミンと妹のシャロットだけは、辱めのためにこうして奴隷にさせられ、この場に出されました。
しかし、帝国に対する恨みは強く、この場に運び込むときに襲撃に遭いシャロットはこのような姿になってしまいました。
しかし、それでも出品されたからには競りにかけさせていただきます!
では、金貨100枚からお願いします!』
昨日のジャスミン同様、帝国の姫であるシャロットの名が呼ばれた時は怒号が聞こえたが、彼女の姿を見て会場は静まり返った。
シャロットの顔には大きな切り傷と火傷の後が目立っていたからだ。
おそらく襲撃の時に切り傷を負い、襲撃者が恨みをこめて焼いたのだろう。
ステージに上がったシャロットは、気丈にも堂々としていたが目からはとめどなく涙がこぼれていた。
僕は、静まり返った会場で自分の札をそっと挙げてシャロットを落札した。
値段は、金貨100枚のままだった……。
第74話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




