第67話 オークション会場
軍資金を手に入れ、僕たちは向かいにある商業ギルドへやってきた。
「ようこそ、商業ギルドへ。本日のご用件は何でしょうか?」
「今日の午後から行われる、奴隷オークションに参加したいのですが……」
「はい、参加申し込みですね?では、こちらをお持ちください。
こちらは、オークション会場での注意事項が書かれております。
必ず、目を通して会場入りをお願いします」
そう言って渡されたのは、一枚の紙だった。
そこには、会場での諸注意や貴族・王族に対する注意。
また、オークション終了後の対処の仕方など、過去の事件があっての諸注意なのだなと理解した。
後は、支払いと引き渡しはオークション終了からになるとか、購入数が多い場合は馬車を貸し出すむねが書かれている。
けっこう至れり尽くせりなのかもしれない……。
「いかがでしょうか?そこに書かれた諸注意など、ご理解いただけましたか?」
「はい、丁寧に書かれていてすぐに理解できました」
「ご理解いただき、ありがとうございます。
ですが、ご理解できない方がオークションでは多いのでご注意ください」
「わ、分かりました……」
商業ギルドの受付嬢のお姉さんが言っているのは、貴族の参加者のことだろう。
どうも、この青い星の貴族はかなりの問題児ばかりな気がする……。
「それと、今回のオークションには出品奴隷のリストがございません。
前回までに、出品リストに予約して購入される方がちらほら出ていましたので、今回からリストを作らないことにいたしました」
「予約、ですか?」
「はい、リストを確認して予約をされるとその奴隷は会場に登場できなくなり、参加者たちからクレームがかなり発生しましたのでリストを廃止したんです」
おそらく、王族や貴族、後は商業ギルドか出品者の奴隷商に顔の効く人物の仕業だろうな……。
でも、確かにオークションで予約はないよね……。
「では、こちらを会場入り口の受付へお渡しください。
参加番号札と、現地の係の者が席に案内してくれますので」
受付嬢のお姉さんは、そう言って何も書かれていない金属のプレートを渡してくれた。
大きさはパスポートと同じサイズだ。
「……何も書かれていないようですけど?」
「特別な魔力を使ったインクで書かれていまして、偽造防止が施されているんですよ」
「へぇ~」
プレートの裏と表を交互に観察する。
どう見ても、何も書かれていないけど書かれているのだろう……。
「オークション会場は、商業ギルドを出て右にまっすぐ進んだ先になります。
大きな教会が側にありますからすぐにわかると思いますよ?
もし、それでも分からない場合は近くの人に尋ねてください。
港町カルローの奴隷オークションは有名ですから、すぐに教えてくれますよ」
「そうなんですね、ありがとうございました」
僕とアルは、受付嬢のお姉さんにお礼を言って商業ギルドを後にした。
そして、商業ギルドを出て、右にまっすぐ進むと確かに大きな教会が見えてきた。
教会の隣の空き地には、かなりの数の馬車が留めてある。
さらに、馬車を留めている奥には大きな天幕が張られサーカスが出来そうなくらいの大きさだ。
「アル、多分あの天幕の中に今回出品される奴隷たちがいるんだろうな……」
『おそらくのう、商人らしき人が出入りしておるようじゃし間違いなかろう』
ということは、この隣の倉庫を改造した大きな建物がオークション会場か。
僕とアルは、そのまま教会を通り過ぎ倉庫沿いに進むと小屋を見つけた。
料金所なんかにある小さな小屋だ。
小屋に近づくと、中から女性が顔を出した。
「いらっしゃいませ、奴隷オークションの会場へようこそ」
「……えっと、よく参加者と分かりましたね」
「お客様は、参加証明のプレートをお持ちではないですか?
そのプレートは特殊なもので、居場所特定にも使うことができるんですよ」
「へぇ~、でもなぜ居場所の特定を?」
「何回か前のオークションで、参加者が強盗にあわれて殺されたことがありました。
その時、居場所が分からずオークション終了まで席が一つ空いたままになり、クレームが発生したのです。
そこで、居場所を特定してオークション開催時、どこにおられるのか分かるようにしようと開発されたそうです」
……どこか、考え方が違うような気がする。
受付のお姉さんに、参加証明のプレートを出し番号札をもらう。
僕たちの番号は『222』番だ、この番号ということは参加者が多いということか。
「ニル、この子たちをご案内してあげて」
「はい、分かりましたー」
そう言って奥から出てきたのは、エルフの女性だ。
ふむ、このオークション会場では女性でもズボンで働いているのかな?
「では、お客様、こちらにどうぞ。
私について来てください、ご案内しますので」
こうして、僕とアルは港町カルローでおこなわれる奴隷オークションに参加するのだった。
案内されながら会場を見ていると、まず目に飛び込んできたのは人の多さだ。
会場入り口の広いエントランスには、案内係の人に案内されている人たちがいる。
これは、僕たちと同じだ。
だが、行先が違うようだ。
いかにもお金持ちな人たちは、正面入り口から会場へ。
僕たちのような平民や普通の人は、二階へ案内されるようだ。
「お客様は、二階に席を用意してありますので」
「それにしても、すごい人ですね……」
「フフ、会場に入れば、もっと大勢の人に驚かれますよ」
そう言いながら、二階のから会場へ。
会場に入るための扉を、案内係が開けるとそこから見えるだけでもすごい人の海だった。
ざっと見ただけで、5000人はいるんじゃないだろうか。
こんな倉庫を会場とし、さらに一階と、二階に席を設け参加者を分ける。
……まあ何故分けるかは、ここに来て分かった。
間違いなく、貴族対策だろう。
この二階席は、一階席の貴族からは見えなくなっているのだ。
「お客様は、こちらの二席になります。心行くまで、ご参加ください」
そう言って案内係が去っていった。
席に座り、前に設置されているステージを見るとそこだけが明るくなっている。
もうすぐ、オークションが始まるな……。
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