第65話 船の謎と出港
港に停泊中の船の甲板の上で、椅子に腰かけて何かを待っている男がいる。
彼の名前はコルツ、少し初老にさしかかった男だ。
コルツの側にある机の上には、黒い直方体のものがあった。
この黒い物体は、長距離の相手と話ができる現代の携帯電話のような魔道具だ。
無論魔道具なので魔石で動くのだが、必要な魔力が膨大すぎて受信以外できなかった。
その黒い魔道具の側で待っているということは、コルツは連絡を待っていたのだ。
しかも、この島にたどり着いたときからである。
コルツたちがこの島に迷い込んで10日が過ぎたが、いっこうに魔道具は反応しなかった。
コルツの予想では、そろそろ向こうから連絡があるはずだと今日も甲板で待っている。
そこへ、町で買い物を終えた男2人が船に乗り込んできた。
「は~、今日も女がいなかった……」
「しょうがねぇよ、この島に来たばかりの時に声かけすぎたんだからよぉ」
「チッ、こっちは溜まる一方だ」
「早くこの島から出て、目的地に行きたいな……」
男2人は荷物を船の中にしまいに入り、しばらくして男が1人で甲板に上がってきた。
「コルツ、連絡はまだなのかよ」
「ああ、まだのようだな」
「クソ、いつまで待たせるんだよ。
こっちは下の荷物にも手を出さずに我慢してんだからよぉ……」
「下の荷物には、食事は与えたのか?」
「ああ、相棒が今食事を与えているところだぜ」
――――ピピッ、ピピッ。
「来た!連絡が来たぞ!」
「おい、ホントかよ!」
「静かにしろ!聞こえないだろ!」
『……まない、やっと場所が決まった。
お前たちの今いる場所から、北へ7日行ったところにある港町『カルロー』だ。
荷物を死なせずに届けろよ?報酬は予定通りだ。
では、待っているからな………』
通信を聞いたコルツと男は笑みを浮かべて喜んでいる。
ようやく出発できる、この島を出ることができるのだ。
「よっし!すぐにまた町に行って食料を仕入れてくるぁ!」
「10日分だ、10日分仕入れてくるんだ!」
「おう!その代わり、町の代表のあの女への報告は任せたぞ、コルツ!」
「しょうがない。分かった、これから行ってくる」
男は再び船の中に入り、相棒を連れて戻ってくると船を降りて行った。
コルツもまた、船を降りてセーラのもとへ行く。
こうして、何かを積んでいるコルツたちの船は、10日ぶりに帆をはり港を出て行った。
何のために港にいたのか分からないままのセーラたちを置き去りにして……。
▽ ▽
10日ほど宇宙で過ごして再び拠点の町に戻ると、セーラさんが嬉しそうに報告してくれた。
何でも、港に停泊中だった船が8日ほど前に出港していったそうだ。
ただ、何故停泊していたのか、何故出港していったのかはさっぱり分からなかった。
只々、向こうの都合で停泊していて向こうの都合で出港していっただけ。
真相は闇の中である。
「ところで、レオン様。奴隷商へこれから行かれるのですか?」
「うん、この町の住民をもう少し増やしたいからね」
『だな、今のままだと人手不足が解消できねぇしよ』
「アルの言うとおりだよ。もう少し人を増やして、もっとこの町に活気をと思ってね」
「それならば、カルローという港町へ行かれるとよろしいかと」
「カルロー?」
「はい、私がまだ奴隷商にいた時、聞いた話なのですが……」
セーラさんの話では、カルローという港町にある奴隷商には家族奴隷が良く集まってくるそうだ。
何でも、他の土地では開拓が進んでいない場所もあり、人手として家族奴隷を船に乗せて現地に運んで売るのだとか。
「分かった、その港町に行って家族奴隷を購入してこよう」
「よろしくお願いします」
こうして、僕とアルの二人は港町『カルロー』へ行くことになった。
まあ、大勢で行く場所でもないしね……。
『それでレオン、今回も宝石類を売って金を作るのかの?』
「セーラさんたちを購入した時、余分に持っていた方がいいと学んだからね。
今回は前回の倍は、用意しておくつもりだよ」
アルは、歩きながら顎に手を当て髭を撫でる……。
『そうじゃな、今回は家族奴隷を多く購入するみたいじゃし、資金は多い方がええじゃろう』
「アルは、個人的に欲しい奴隷はいないの?」
『おらん。もし必要なときは、アンドロイドを選ぶじゃろうの……』
アル自身が、アンドロイドのようなものだしそうなるのかな?
「そういえば、父さんが新しいアンドロイドを雇うって連絡が来ていたな……」
『オーバス運輸も、今や右肩上がりみたいじゃからのう。人手が足りないんじゃろ』
「人間の社員も随時募集しているんだけどね~、なかなか来てくれないんだよね……」
『やはり、宇宙海賊が問題なのじゃろ?』
「そんな頻繁に、宇宙海賊に襲われるわけじゃないんだけどね……」
どうも運送業は、星から星への移動でよく宇宙海賊に襲われているイメージがあるようだ。
本当は、そんなに襲われることはない。
それに、本物の宇宙海賊は宇宙を航行している宇宙船より、未開拓の星を狙うんだ。
そして、未開拓惑星を宇宙海賊から買い取る業者も存在する。
未開拓惑星は、かなりのお金になるらしい。
それこそ、宝くじの一等に当たったような一攫千金なほどに。
「さて、カルローに向けて出発しようか」
『じゃな』
僕たちは、宇宙船『ガラハット』に乗り込むと港町カルローに向けて出発した。
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