第63話 新しい島へ
アリシア様のもとへ戻ったルルとロロのおかげで、島の生き残りの住民の避難が開始された。
宇宙船『クロウティア』にアリシア様をはじめとした、天空要塞に残された非戦闘の人たちが乗せられ天空要塞を離れていく。
他の場所でも、生き残った人たちを避難させていく。
アリシア様の名前を出し、人々に信用してもらってようやく宇宙貨物船に乗ってもらえていた。
しかし、中には動こうとしない人たちもいた……。
そう言う人たちには、周りの人や家族が説得するものの動こうとしない。
浮遊島が落ち、大切な人が亡くなりすべてに絶望しているのだろう。
「サリアさん、お父さんは残るといっているそうですが……」
「はい、母さんがここに眠っているからと……」
「……サリアさんたちだけでも、避難しますか?」
「……いえ、父を置いていくわけにはいきません」
冒険者ギルドの職員の人と住民の女性の視線の先には、崩れた家の前で座り込んだ男性がいる。
すべてに絶望したかのように、落ち込んでいた。
また、別の場所では最後のお別れをしている女性がいた。
崖の上で海に向かって祈りをささげている。
「……妹が海に投げ出されてしまって」
「……見つからなかった、と?」
「ええ、島が落ちて私も気を失っていましたから……」
「……無事だといいですね、妹さん」
「そうですね……」
冒険者ギルドの職員と女性は、海を見ながらそんな会話をしていた。
浮遊島は、海との衝突の結果三つに分裂。その時に、海に落ちたりできた亀裂に落ちたりした人たちがいた。
その人たちの救助や捜索もされたが、見つけることはできなかった。
その後、避難のために来た宇宙船のレーダーなどで見つかった人は多いが、見つけられなかった人も多かった。
避難民を誘導し、順調に宇宙船に乗せていると島の外から大きな衝突音が聞こえてきた。
近くの海に打ち込まれたようだ。
この大きな衝突音により、避難民の人達はパニックになり我先にと宇宙船に乗り込んでいく。
幸い、宇宙船の登場入り口は大きく広げていたから、慌てて乗り込んでくる人たちも何とか収容できていた。
『若旦那、どうやら近くの海に打ち込まれたのは天空要塞に打ち込まれた一撃と同じもののようですね』
「ということは、再びの攻撃?」
『いえ、それならば直接この島を狙うはずです。
この攻撃が放たれた場所で戦闘が始まっているようですから、流れ弾だと推測できます』
そんな会話をしているところに、再び流れ弾が今度は天空要塞がある島の近くの海に着弾した。
「海を捜索していた人たちは大丈夫かな?」
『どうやら無事のようですね、あらかた救助は終えたようで帰還するそうです』
「非難する人を乗せた宇宙船は、順次出発させて」
『了解しました』
中型の宇宙船数隻で、生き残った住民を避難させていく。
大型の宇宙船では目立ってしまうのと、攻撃の的になりやすいからだ。
避難民を乗せた宇宙船が出発し始めて2時間。
ようやく最後のアリシア様たちが乗った宇宙船『クロウティア』が出発。
こうして海に落ちた浮遊島から、生き残った人たちを救出できた。
避難先は、人工衛星でしっかりと確認しておいた無人島を落ちた浮遊島の南に見つけておいた。
浮遊島が何とか残っているなら、島での生活を安定させてからでも思い出の品などの回収もできるだろうとの考えからだ。
島の大きさは浮遊島より一回り大きいくらいで、人は住んでいなくて魔物はいるが弱い部類に入る魔物がほとんどだ。
海岸近くの浜辺に宇宙船を着陸させ、避難民を下ろしていく。
アリシア様が先頭に立って、この島のことなどを説明しているようだ。
僕たちは中型宇宙船のブリッジの中から、アリシア様が避難民にしている演説を聞いている。
「……これで、この島が新たな生活の場に変わっていくんだね?」
『そうなるはずです、若旦那』
「ねえ、戦闘に出て行った兵士たちはどうするの?」
「戻ってくるなら、落ちた浮遊島だろうね」
「誰もいないのに?」
『その辺りはルルとロロが、定期的に巡回という形で見に行かれるそうです』
「そうなんだ……」
シャロンは兵士たちを少し哀れに思えた。
力をもって戦争を止めようとしたのに、その力を盗まれて研究され、今度は戦争を止めた力で自分たちが傷ついた。
傷ついた自分たちは怒りをもって、今度は復讐をする。
復讐は復讐を呼び、いつまでも戦いは終わらないだろう……。
そうなってしまうだろうから、哀れにしか思えなかった。
「ねえレオン君、この星、これからどうなっていくと思う?」
「たぶん、再び戦争が再開するでしょうね。でも決着は早いと思いますよ」
「決着がつくの?!」
「ええ、何せ天空要塞を落とした国が存在しているんですから。
その力を前面に出して、戦っていけば世界統一も夢ではないと思います」
「……」
「……でも、浮遊魔道具も持ち出されているんですよね。
そのことが今後どう影響していくのかが、分からないんですよ……」
「浮遊魔道具って言っても、ものを浮かべるだけでしょ?」
「シャロン、島を1つ丸ごと浮かべていたんですよ?
浮遊魔道具の数はかなり使っていましたけど、島を浮かべられるんですから船を浮かべたり、馬車を浮かべたり、人を浮かべたり……」
「つまり、使い方次第でこの星の戦争が変わると?」
「それだけじゃないですけどね……」
人の考えだした道具はすべて使い方次第で、どうとでも変わる。
人を生かすも殺すも、使う人の意思次第なのだ。
それは、今も昔も変わってない気がするな……。
第63話を読んでくれてありがとうございます。
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