第58話 襲撃者たち
天空部隊。それは浮遊魔道具の開発、そして完成により誕生した騎士団の中でも比較的新しい部隊だ。
また、浮遊魔道具の完成は天空要塞の前身の浮遊島の誕生も意味する。
今の空中要塞の存在が、世界にどう影響を与えているかを知れば浮遊魔道具の完成がどれほどの偉業だったかが分かるだろう。
天空部隊の面々がそろい、天空要塞より降下しようとしている。
そこへ、天空部隊代表オーブルが部隊の前に出てみんなを見わたす。
「これより、巫女様よりの直接の依頼を遂行する。
場所はこの天空要塞の下!さらう獲物は、通過している二台の馬車の後ろだ!
いいか、生かしてさらってこなければならない!死んだら終わりだ!
騎士団長からは、ゴーレムスーツの使用の許可も出ている!
つまり、それだけ大変な任務というわけだ!
気合を入れろ!失敗は許されない!……では出発!」
こうして、部隊の面々は気合を入れなおし、天空要塞から飛び降りていく。
天空部隊代表オーブルは、今回許可の出たゴーレムスーツの使用を見送った。
ゴーレムスーツの弱点である重量の問題が、今回の任務に引っかかると判断したためだ。
ゴーレムスーツは、魔物のゴーレムの核の部分を弄ってコクピットに変え、人が乗り込んでゴーレムを操ることができるようにしたものだ。
どこかのアニメで同じようなものがあったような気がするが、気のせいだろう。
これは緑の星の天空要塞を造った者たちの力と知恵で生み出された技術なのだから……。
天空要塞騎士団の鎧を身にまとい、浮遊魔道具や魔導銃を装備しターゲットの馬車を降下しながら捕らえた。
『隊長、下方向にターゲット発見!馬車は二台ありますが後方で間違いないようです』
『こちらも視認した。前方の馬車には紋章が書かれているから違うことがまるわかりだ……』
『連中、襲撃者はいないと確信しているみたいですね』
『油断していてくれれば襲撃もしやすい。いいか!襲撃は迅速にな!』
『『『了解です!』』』
一番外側の外壁を抜けたばかりの馬車二台は、王都の中心を目指して馬車を走らせていた。
そこには、離れているとはいえ王都の外壁の門をくぐったという油断があった。
その油断が襲撃者たちの襲撃を成功させる……。
▽ ▽
「後はこのまま、王都に向かうだけだって」
『しかしよろしいのですか?若旦那。私たちの正体をバラして』
「どんな目的か知らないけど、別に構わないよ」
「ご主人様は、余裕があるんですね……。私は、この星に降り立ってから不安で不安で怖いです」
そう言いながら、クレアは僕の側によると左手をギュッと握りしめた。
何か意図があってかな?とクレアの顔を見るが、クレアの顔は真っ青だ。
どうやら、本当に心細いだけなのだろう。
「儂も、心細いんじゃがのう……」
そうつぶやいて、ソフィアも僕の右側に座り右手をギュッと握りしめる。
ソフィアも安心したような表情だから、星が違うから不安なのかなと思ってしまった。
『若旦那、馬車の上から近づくものがありますね。それも複数……』
「あ~、僕たちは手を出さないように。今の緑の星でどこかの国や勢力に組みすることはしないからね」
『「「分かりました」」』
みんな聞きわけがいいな。それとも、僕に何か考えがあるかもと思っているのかな?
馬車の外が騒がしくなってきた。
……この音は魔導銃の連射の音だ。どっちが撃っているのかな?
「おっと……」
今、馬車を急に止められて前のめりになるところだった。両側をクレアとソフィアに捕まえられているから無事だったな。
馬車が止まると、すぐに外が見えないように貼ってある幌の出入りする場所が開かれ、騎士のような鎧を身にまとったものに質問される。
「この中にこの国の者はいるか?」
「いえ、いませんよ」
「そうか、返答感謝する」
そう言って何ごともなかったかのように、幌を閉めて移動したようだ。
僕たちの馬車をのぞき込んで質問してきた騎士がいなくなっても、外では言い合いが続いているようだ。
『天空要塞の騎士は、不意打ちをする卑怯者の集まりか!』
『戦争しか頭にないバカと言い合いをする気はない!』
『貴様!我々は女王陛下直々の命で動いているのだぞ!』
『だから何だ!精鋭が聞いてあきれる!』
『貴様!全員戦闘じゅ「作動させろ!」……馬車が、浮く……だと?!』
僕たちの乗っている馬車の下から、少し大きな音が三つ聞こえたと思ったら、今度はエレベーターの浮遊感覚を感じた。
外の声を聞くに、どうやら僕たちの乗った馬車が襲撃者たちの手で浮かべられたのだろう。
『全員、黒煙弾を放て!』
『なっ、煙に紛れて逃げるつもりか!この卑怯者!』
幌の隙間から外の様子を覗き見ると、空が見えている。
どうやら、この馬車は空を浮かんでいるらしい。
馬車につかまるように、一緒に浮かんでいるのは襲撃者たちの面々。
どうやら、天空要塞の人達の作戦がうまくいったようだ。
僕たちの馬車の下から、何を言っているのか分からない叫びが聞こえている。
「これは、襲撃した者たちが勝ったということなのかな?」
「みたいだね」
「レオン君は落ち着いているね?私はケニーに掴まっていないと不安だよ……」
本当は僕も不安なんだけどね?左右の僕の手に掴まっているクレアとソフィアのおかげで、僕は冷静でいられるのかもね……。
……これから向かうは、天空要塞かな?
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