第57話 天空要塞の巫女
宇宙歴4262年5月26日、天空要塞の中心にあるお城の謁見の間に当たる部屋には神殿を模したような部屋がある。
その部屋にある女神像の前で、巫女が1人祈りをささげていた。
どれくらい、祈りをささげていたか分からなくなっていたころ、ドアをノックして一人のメイドが部屋に入ってくる。
「アリシア様、時間になりましたので団長を呼んでまいります」
深々と一礼すると、部屋を出て行った。
祈りをささげていた巫女は、深くため息を吐くと祈りをやめゆっくりと立ち上がる。
「メイドのユーナが来たということは、時間を忘れて祈りをささげていたのね……」
アリシアは、そのまま少し反省しながら祈りをささげていた後ろにある玉座に座った。
そう、この巫女こそが天空要塞の主であり、世界規模の戦争を天空要塞の力を見せて止めた人物だ。
今だ15歳にも満たない少女が、この天空要塞を使ってまで何故止めたかったのか……。
それを語るのは、またの機会を待つとしよう。
玉座に座ってしばらくすると、部屋のドアが勢いよく開いた。
そして、一人の騎士の姿をした男性が飛び込んできたのだ。
「巫女アリシア!神託が下ったのか?!いつだ!いつ眼下の国へ攻め込むのだ!」
「……はあぁ~、騎士団長ワーナード、私たちは攻め込むことはしません」
「何を言っている!あんなことを世界に宣言しておいて!今さら怖気づいたか?!」
世界への宣言、それは世界規模の戦争を止めるための方便だったのだが、目の前で吠える騎士団長は自分達が持っている力を使いたくてうずうずしているようだ。
「あの宣言は素晴らしかった!特に最後の一文がいいな!
『我々は逃げも隠れもしない!いつでも挑戦を受け付ける!』
今思い出しても、ゾクゾクするぞ!」
……あの一文は、元老院の誰かが付け加えたもの。
今だ、誰が付け加えたのか分かりませんが天空要塞の力を使いたがっている者の仕業でしょう。この騎士団長と同じように……。
「騎士団長ワーナード、騎士団の中にある天空部隊の使用許可をいただきたいのですがよろしいですか?」
「おお、これはめずらしい、巫女様自ら部隊の使用申請とは……」
「それで、よろしいのかよろしくないか、どうなのですか?」
「巫女様が焦っているということは………分かりました、天空部隊の使用を許可しましょう」
別に私は焦ってなどおりません。
ただ、騎士団長は話の答えを先延ばしにする癖があるようなので強めに言ってしまいました……。
「ありがとうございます騎士団長。誰か!すぐに騎士団の天空部隊の代表者をここに!」
いつの間にか部屋に入っていたメイドが深々と一礼すると、そのまま出て行く。
それを見送った騎士団長と巫女アリシア。
「して、天空部隊を使うということは空から攻撃をするということ」
騎士団長が、巫女アリシアに優しく聞いてくる。
「どこの町を襲うつもりですかな?
もしくは、どこの国をといった方が良かったですかな?」
嫌らしい笑みを浮かべて、巫女の様子をうかがう騎士団長。
だが、巫女アリシアはいつも通り少し笑みを浮かべて沈黙するのみ。
それを見て、騎士団長は少し悔しそうにする。
そこへ、天空部隊の代表が部屋に入ってきた。
「天空部隊代表オーブル、巫女様の呼び出しに応じまかり越しました!」
「ほう、ベルビアではなくオーブルが来たのか」
「これは騎士団長!ご苦労様です!」
「うむ、巫女様からの任務だ!しっかり励むようにな!」
「ははっ!」
オーブルは、部屋の中にいた団長にまず挨拶すると巫女アリシアに向く。
その顔は、団長に言われたようにしっかり励むつもり満々の顔だ。
「では、天空部隊には馬車を一台さらってきてもらいます」
その命令に騎士団長と天空部隊の代表は驚いた。
巫女が、天空要塞の主がさらってこいと命令したのだ。
それが、後々どんな意味を持つのか分かっているのだろうか?
「巫女アリシアよ、その命令が後々どのような影響を持つのか分かっているのか?」
「それを踏まえたうえで、天空部隊にお願いしたいのです」
「巫女様がそこまで決意して狙う馬車、必ずやさらってきましょう!」
巫女が決意した。
人を攫ったり拷問にかけたり、そう言う人道的でないことを嫌う巫女が初めてさらってこいと命令をする。
そこまでの価値が、命令の馬車にあるのか?
騎士団長は、巫女がさらうように言った馬車に興味を持った。
一体どんな者たちが乗っているのか……。
「巫女様、その馬車は今どこを走っているのでしょうか?」
「この天空要塞の下にある王国の王都に向かっています。今は、王都の一番外の外壁を潜ったばかりのはずです。
今から出発すれば、第二外壁にたどり着く前に接触できるでしょう」
玉座に座り目を瞑ると、天空要塞の外の様子が手に取るように分かります。
これは、この玉座に仕掛けられた魔道具のおかげ。しかし、その仕組みはこれを造ったものと私しか知らない秘密。
巫女の力といえど、魔道具に頼らなければいけないところがいろいろとあるのだ。
でなければ、こんなにも巫女がこの要塞で優位に立てるわけがない。
「よし!オーブル、ゴーレムスーツの使用を許可する!一小隊を率いて巫女の願いを叶えるのだ!」
「ははっ!」
オーブルは馬車の更なる詳細を巫女アリシアから聞くと、すぐに部屋を出て行った。
信心深いオーブルならば、必ずや成し遂げてくれるだろう。
「楽しみですな、どんな人物がその馬車に乗っているのか……」
……騎士団長を巻き込んだのは、失敗だったかもしれない。
しかし、それでも……。
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