第53話 苦悩する緑の星
みんなが僕の誕生日をお祝いしてくれて、地球だったらこの後パーティーになるんだろうけど、今はそんなことをしている場合ではない。
でも、気になったことがあるから聞いておく。
「それにしても母さん、お腹は大丈夫なの?」
そう、母さんは今妊婦さんだ。
お腹が目立つほど大きく、出産予定日は来月となっている。
僕に誕生日のお祝いを言うためだけに、よく来てくれたものだ。
「大丈夫よ、レオン。今は少し動いた方がいいのよ」
「少しってレベルじゃないけど、子供の誕生日は祝いたいじゃないか」
「母さん、父さん……」
本当に、生まれ変わってよかった。こんな子供想いの両親を持つことができて、僕は幸せだよ……。
この後、母さんの体調を気遣って実家のある惑星へ帰っていった。
予定日出産となれば、向こうに帰りついてすぐってことになるよね……。
こんな時なのに、顔のニヤニヤが止まらない。
両親にこんなにも思ってもらえるなんて……でも、それも今だけなんだろうな……。
弟か妹が出来れば、僕だけにかまっていられないだろうし……。
……なんだか寂しくなったけど、今は、緑の星のことを考えないと……。
▽ ▽
宇宙歴4262年5月7日、緑の星のある国のお城の廊下を1人の初老の男が、ある決意のもと目的の場所へ歩いて向かっていた。
彼の名はグレーマン。
この国の大臣の一人であり、この国の女王の懐刀でもある。
しばらく歩いて行くと、大きな両開きの扉の前に侍女が1人立ちふさがっていた。
「すまんが陛下にお目通りをしたい、そこをどいてくれんか?」
「申し訳ありませんグレーマン様。ただいま、リミニー様はご起床されたばかりでございます」
仕方ないと、グレーマンは扉の前で通してくれない侍女とともに待つことにした。
長いお城の廊下の一番奥にある扉、その扉の前にいる侍女が1人。
そして、その扉から少し離れて窓から外の景色を見ている初老の男、グレーマン。
その窓から見える景色には、朝日に照らされている天空要塞が今日もはっきりと確認できた。
天空要塞とはかなりの距離があるにもかかわらず、あんなにもはっきりと確認できるとは……。
最近はどこの国の大臣や王様たちも、頭を悩ませているのはあの天空要塞のことだ。
「忌々しい天空要塞め……」
「忌々しくとも、対処方法を考えるのが大臣たちの役目だろうに」
天空要塞を見ながら呟いたグレーマンの一言に、ため息交じりに答えた人物が後方の扉から出てきた。
この国の女王、リミニー・スプリードだ。
「陛下、おはようございます。今日もご機嫌麗しく……」
「ああ、硬い挨拶などいらないから報告だけしてくれ」
女王自慢の金色の髪を後ろでまとめ、真っ白な軍服を身に纏った見目麗しい女性は貴族連中から嫌というほど聞かされていた挨拶を拒否する。
「陛下、形式は大事にしませんと……」
「無能の貴族ほど形式にこだわるからの、困ったものだ……」
頭を下げリミニーを見送る侍女に軽く挨拶をすると、グレーマンとともに廊下を歩いて行く。
これから朝の会議の時間なのだ。
「それで、私のお願いした調べておいてほしいものは分かったのか?」
「はい、陛下の着目するものの正体がこちらに……」
グレーマンは、脇に抱えていた書類をリミニー女王に渡す。
その書類を受け取り、歩きながらでもすぐに目を通す。
「……古代帝国の遺産の可能性大?用途不明?撃ち落とすこと敵わず……か」
そしてすぐにグレーマンに突き返す。
「これでは、何も分からないのと同じだ!
私は言ったはずだ、あの天空要塞よりも高く飛んでいるあれを調べろと。
そして、私たちにも使えるかどうか調べろとな!」
「申し訳ございません、人員が足りず今は天空要塞のことで手いっぱいなもので……」
「ならば人員も予算も付けてやる、本格的に調べ上げろ!
それこそがあの天空要塞を地に落とすきっかけになるはずだ!」
「ははっ!」
堂々とした女王にふさわしいリミニーの考えに、いつしか頭を下げて従ってしまう。
リミニーには、そんな魅力があった。
その後、朝の会議では人員の確保と予算増額が決定。
そのことに、貴族出身の大臣たちがうるさかったが女王リミニーの一声で黙らせた。
あとはいつも通りの天空要塞への愚痴で始まり、愚痴で終わるだけだった。
会議終了とともに、不機嫌な顔でリミニーは会議室を出て行く。
それを、女王以外の大臣全員が頭を下げて見送る……いつもの光景だ。
そして、女王が完全にいなくなると誰かから女王への愚痴が始まる。
グレーマンはその光景を見ながら、いつもの光景だとため息をもらし会議室を後にした。
お城の無駄に長い廊下を歩きながら、グレーマンは考える。
歩きながら考えることが、グレーマンは好きだ。
こうしていると落ち着いて考えられるからだ。
普段は、研究所の部下たちのことを見ながら考えることはできないし、会議や普段の仕事では貴族を主に相手にしなければいけない。
あんな連中の相手をしながら考えることなんて、出来るわけがない……。
だから、グレーマンにとって無駄に長いお城の廊下はありがたかった。
天空要塞が出現し戦争は無理やり集結した。
その圧倒的な火力に空中に要塞が浮かんでいるということが、戦争をしている者たちを震えあがらせた。
なにせ、我らは魔法が使えない。まして空を飛ぶなど、出来ようはずもない。
にもかかわらず、同じ人族の奴らが空に要塞を飛ばせありえない力を見せつけた。
その力に驚き怯えそして、戦争が止まった。
戦争が終わることはいいことだが、天空要塞からの宣言が無ければなおよかったのだがな……。
これより我ら天空のものが、この世界を支配する。
我らは逃げも隠れもしない、いつでも挑戦は受けよう。
あの宣言から、世界の国々は変わった……変わってしまった………。
第53話を読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




