第41話 狙われる者と愚か者
町の東門の前には、たくさんの兵士が整列しており上司の命令を待っていた。
さらに、馬に乗った騎士たちも多く50頭近くが命令を待っている。
そこへ、ようやく表れた豪華な鎧を纏った騎士が馬にまたがり全員の戦闘に立つ。
「これより、セーラ・グリュード様奪還作戦を実行する!
まずは騎馬隊で先行!魔法部隊を含む兵たちは、あとから合流すること!
では騎馬隊、先行!!」
その合図とともに全兵士たちが動き出す。
まずは騎馬隊が、その速さを活かし先行!目標の馬車を止めてセーラを奪還する。
もし抵抗するなら、その場で戦闘という流れだ。
「ラーナス卿、私は魔法部隊とともに移動しよう」
「ミリーガル卿、それだと騎馬部隊に手柄を譲る形となりますぞ?」
「今回の私は、お目付け役だからな」
「なら、セーラ様を奪還した私たち騎馬隊の雄姿を見に後から合流してください」
そう告げると、ラーナス卿は馬を走らせ騎馬部隊と合流し先行していく。
ラーナス卿の顔が笑みで歪んでいたことに、ミリーガル卿は気づいたが見て見ぬふりをする。
「ラーナス卿、敵の戦力も分からないのに飛び出すのは危険な行為だぞ?」
ミリーガル卿の心配は、現実のものとなる。
▽ ▽
馬二頭で引く大型の馬車が五台、街道を東へと進んでいる。
他に、この街道を進んでいる旅人などはなく自然を満喫できる旅となった。
馬車が五台になったことに、僕は驚いたが人数が人数なため仕方ないのだろう。
「質問、いいかしら?」
先頭の馬車に乗るのは、貴族奴隷のセーラにその傍使えのメイド三人、さらに御者をしてくれている執事さん。
あとはいつもの僕とアルとアシュリーとクレアにソフィアだ。
二台目からは、家族奴隷たちと子供奴隷たち。
三台目は、女性奴隷と子供奴隷たち。
四代目は、男性奴隷と子供奴隷たち。
五台目は、奴隷たちの荷物がほとんどで、他の馬車で乗れなかった奴隷が乗っている。
ゴトゴトと走っている馬車から外の景色を見ながら、セーラさんの質問に応じる。
「どうぞ、なんなりと答えますよ?」
「まず、私たちはどこへ向かっているのかしら?」
「僕たちは、この先にある草原地帯へ向かっています」
「草原地帯?」
「はい、そこで馬車から乗り換えて目的地へ向かいます」
セーラさんは少し考えて、再び質問してくる。
「目的地について何をするか、聞いていいかしら?」
「皆さんにしてもらうのは、町を造ることです」
「……なんですって?」
どうやら、セーラさんを始めメイドさんや執事さんも理解できていないようなので丁寧に説明する。
町の大部分が出来ていることや、農地や作業場がある事、自分の住む家は建てなければならないがそれまでの宿泊施設はある事。
そして何より、目的地に着いたら奴隷から解放することも話しておく。
「奴隷から解放する、ですか?」
「それでは、逃亡するものが出ませんか?」
横から質問してきたのは、メイドの一人だ。
その懸念もあるんだけど、場所が場所だから多分大丈夫なんだよね。
「僕たちが向かう場所は島です。だから泳ぐか空を飛ばない限り逃亡は無理だと思います」
「島………魔物とかは大丈夫なのですか?」
「外壁が三重に建ててありますから、町の中は安全ですよ」
それから、町の内容やどんな島なのかというところまで話したところで、後方から走ってきた騎馬隊に行く手を遮られてしまう。
「止まれーっ!止まれーっ!」
五十頭近くいる騎馬隊は、進む馬車の前方を遮る形で僕たちの馬車を止めさせた。
そして、騎馬隊の中の豪華な鎧を着た騎士が交渉役をするようだ。
僕は馬車から降りると、その騎士のもとへ行く。
そして、豪華な鎧の騎士が馬から降りると他の騎士たちも一斉に馬から降りた。
「あの、僕たちの馬車に『黙れ!子供になど用はない、親を連れてこい!』…」
僕は少しムッとしたが、アルと交代することにした。
しかし、この騎馬隊は僕たちを取り囲むこともせず、全員が前方に移動していた。
周りを確認して、アルを呼び交渉にあたらせる……。
「騎士様、何か私どもに『貴様たちが、町で大量に奴隷を購入したことは分かっている!』…」
「確かに私どもは『その中に貴族奴隷のセーラ様がいるはずだ!』…」
「その奴隷なら、先頭の馬車に『セーラ様を私に譲れ!さもなくば…』…」
そう言って腰の剣を抜き、刃をアルに向ける。
これは、脅しているのだろう。
……しかし、この騎士は僕たちの話を最後まで聞かないんだな!
アルが嵌め息を吐いて、後方に下がった僕を見てくる。
あれは、やっていいか?という確認だな。一応、まだ駄目と返しておいて馬車の中のセーラに確認する。
「セーラさん、あいつらのもとに行きたい?」
「行きたくありません!」
それだけを言うと、セーラはそっぽを向く。
そんなやり取りだけで、セーラが二度と王族に戻りたくはないのだと感じた。
「ソフィアさん、クレア、死なせずに相手できる?」
「ちと難しい注文じゃが、大丈夫じゃろ」
「ご主人様、私の修行の成果とくとご覧あれ!」
そう言って馬車を降りて行く。
幸い、相手の騎士たちは僕たちの馬車を囲んでいない。これなら前方にバリアを張るだけでみんなを守ることが出来そうだ。
「さあ、どうする平民どもっ!!」
豪華な鎧を着た騎士が、歪んだ笑みで剣をこちらに向けながら叫んだ。
こちらが逆らうわけないと、確信している笑みだ。
僕は、我慢の限界のアルに合図を送る。
ぶん殴っていいよ~、と。
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