第40話 貴族奴隷
ボルゴル商会で貴族奴隷を見せてもらうことになった。
貴族奴隷は没落貴族が主に、借金のために奴隷落ちする人が多いそうだ。
ただ、今回この商会に流れてきた貴族奴隷は、戦争の影響か王族の一人が奴隷となってこの部屋にいる。
彼女の名前は、セーラ・グリュード。
戦争で滅んだ旧グリュード王国の第5王女だ。セーラの兄たちは戦争で戦死したり責任を取るため処刑されたりしていた。
セーラの姉たちは別の王家に嫁いでいて無事な人も多いが、中には戦死された人もいるそうだ。
また、弟や妹たちがいたようだが、幼い者たちは王国から脱出して今は行方不明になっていた。
「貴族奴隷で売り出しているのは、彼女だけですね」
『この商会には、他に貴族奴隷はおらんのか?』
「いえ、あと二人ほどいますが、まだ幼く奴隷として売り出すのはどうしたものかと……」
「ロングさん、執事の奴隷とかいるんですよね?」
「ええ、こちらの部屋になります」
ロングさんに案内され、部屋の奥へ進むとそこには牢に入っているメイドさんや執事がいた。
執事が1人、メイドさんが3人だ。
「この人たちは、さっきの貴族奴隷の側で仕えていた人たちなの?」
「そうです、貴族奴隷は基本一人では何もできません。そこで側に仕えてお世話をする人を雇うか一緒に奴隷で買うかするんです。
ほとんどの方は一緒にご購入していきますね」
今まで側でお世話をしてきたのだから、細かい事まで知っているということか。
貴族奴隷のことをロングさんに聞くと、血筋を確かなものにするためだけに買われるそうだ。
だから、子供を作ることが大前提で売られるらしい。
それで、あとの二人の貴族をどうするか困っているのか……。
幼すぎて血筋がどうこうできないから。
「ロングさん、他にもいる幼い貴族もいっしょに購入するとして、全員でいくらぐらいになるの?」
「購入って、さっきの貴族奴隷に傍使えの執事にメイド、さらに困っていた幼い貴族奴隷二人、これすべて購入したらかい?」
「そうです」
ロングさんはすぐに計算し、金貨3000枚という答えを出した。
金貨3000枚、今持っているお金全てだった。
貴族奴隷、結構するのね……侮っていたよ………。
僕はすぐに購入することをロングさんに告げると、セーラの意思を確認してからということになった。
どうやら、貴族奴隷には買われる買われないの選択権が与えられているらしい。
でも、考えてみれば自分の血筋で売り買いされるわけだから選ぶ権利があっていいのかな?
ロングさんにそこのところを聞くと、法律でそう決まっているらしい。
多分昔、揉めたことでもあったのだろう。
それで、法に定めた。そんなところだと思う。
「……私を買いたいというのはあなたですか?ご老人」
セーラはアルを睨みながら聞いてきた。
いきなり睨まれたアルも、少し戸惑いつつ否定する。
『いや、儂じゃなくてこの孫のレオンじゃ』
「初めまして、レオンといいます」
今度は僕を睨みつけるセーラだが、何か思いついたようにお願いをしてきた。
「私を買うのであれば、お願いを聞いてもらえますか?」
▽ ▽
「店主はいるかっ!」
奴隷の大量買いの客が帰ってから、残りの奴隷を確認していると騎士の恰好をした貴族様が怒鳴り込んできた。
儂は慌てて呼びに来た店員と一緒に玄関へ走って行った。
「お、お呼びでしょうか?」
「貴様がここの奴隷商の主か?」
「は、はい、ロング『名など聞いておらん!』…」
り、理不尽な貴族が来たものだ。それに何か、焦っているようにも見えるが……。
「それで、何かご用でしょうか?」
「ここにいる貴族奴隷のセーラという女を買いたい、すぐに出せ!」
もしかして、その貴族奴隷が売れたことを知らないのか……。
……なるほど、それで焦っていたのか。
「申し訳ございませんが、その貴族奴隷は売れまし『何だとっ!』…」
「店主、売れたとはどういうことだっ!どこの誰が買っていったのだ!!」
く、苦しい……襟を握りしめてそんなにしたら……。
「ラーナス卿!それでは店主殿が死んでしまうぞ!」
「チッ!」
やっと手を放してくれた、儂がせき込むところに背中をさすってくれる同じ騎士の恰好をした人がいた。
しきりに謝ってくれているが、なかなかしっかりした人のようだ。
「ようやく見つけたセーラ様が売られてしまうとは……」
「ラーナス卿、もうあきらめたらどうだ?グリュード王国は滅んだのだ……」
「ミリーガル卿!まだだ、まだグリュード王国は復活できる!それにセーラ様がいらっしゃれば新たな国を興すことだって……」
……なるほど、貴族奴隷のセーラさんが言ってた通りの人がいるんだな……。
『私を使って、グリュード王国の復活や新たな国を興そうとするものが現れるはずです』
そこへ兵士の一人が飛び込んできた。
「ラーナス様、半日ほど前、五台の馬車に奴隷を乗せて東門から出て行った集団がいたそうです」
「その奴隷たちの中に、貴族奴隷はいたか?!」
「はい、いました!東門の門番が確認したそうです!」
「すぐに追うぞ!本隊に伝令を出せ!目標発見、回収に行くとな!」
「了解!!」
知らせに来た兵士が、すぐに出て行った。
「ラーナス卿、追うのか?」
「追わなくてどうする!どうやら私にも運が巡ってきたようだ」
「ラーナス卿?」
「大量の奴隷ということは、村でも開拓するのだろう?そこに紛れるとはセーラ様もお戯れが過ぎるというもの。
ここはひとつ、話し合いで解決せねばな……」
……儂には、このラーナスという貴族が恐ろしく見えた。
その浮かべた笑顔に、側にいたミリーガルという貴族も何か恐ろしいものでも見たように怖がっていた。
大丈夫だろうか、あの祖父と孫は。
『もし、私を追ってくる者たちを撃退する力をもたないなら購入はやめなさい。
貴族の戦いに皆さんを巻き込むわけにはいきません。
私は皆様にとって厄災にしかなりませんよ?』
『それならだいじょうだよ、災い何かものともしない力があるからね!』
……そう言っていたが、目の前で笑うこの貴族を見ると心配だ。
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