第4話 前門の虎、後門の狼
宇宙歴4261年7月10日惑星『ホーネ』へ向けて宇宙船『ハルマスティ』は出発した。
ロージーたちの話し合いは次の日まで及び、それでも結論が出ずに結局僕が出たとこ勝負でというとあっさりと意見が通った。
「とにかく、警戒しながら進んでいこう。それと、皆交代で睡眠をとるように。
いくらアンドロイドといえど、睡眠をとらないと航行に支障が出るからね」
『『『は~い』』』
ロージーたちは素直に、順番を決めてさっそく交代で睡眠をとっていくようだ。
僕たちがいるこの船のブリッジの出入り口正面には仮眠室が設けられている。
普段の惑星間の航行のときは、自室に帰らずこの仮眠室を使うのだ。
主に、宇宙海賊の対処のためなのだがたまに想定外のトラブルもある。
そんな時、ブリッジに近い仮眠室ならすぐに駆けつけることができ便利なのだ!
宇宙歴4261年7月12日、惑星『ホーネ』まであと10日というところで船体に衝撃が走った。
この日、ブリッジにいたのは僕とアシュリーとシンシアの3人だ。
すぐにアシュリーにレーダーなどの探査装置でこの宙域を確認。
『……反応、ありません! この宙域に生命反応なし!』
「シンシア、念のために船体シールドをMaxへ!
あとアシュリー、レーダーから目視へ切り替えて!」
僕の命令を聞いて、すぐにシンシアは操作パネルを弄ってこの船を守るためのシールドをレベルMaxで展開する。
また、アシュリーはすぐに自分の目で確認するため監視モニターをブリッジ内に展開させた。
ブリッジ内にいくつもの監視カメラからの映像が展開する。
その中から、船体に衝撃を与えた謎の物を探すのだ……。
『見つけたっ! この船の船体の影に隠れている宇宙船を発見!宇宙海賊です!』
『なんて卑怯なっ!』
「シンシア、仮眠室の3人を起こしてきて!緊急事態!
アシュリーは、宇宙海賊の照合を!」
『『了解!』』
すぐにシンシアは席を立ち上げると、ブリッジから出てすぐの仮眠室へ飛び込む。
……何か怒号が聞こえるが、緊急事態だからやむを得ない。
アシュリーは、メインコンピューターに登録されている宇宙海賊の照合を始めた。
そして、答えはすぐに出る。
『照合確認!宇宙海賊『フェンリル』と判明!危険度Sです!』
「……危険度Sって、何でこんな宙域に?」
そこへ、寝ていたところを起こされて不機嫌な表情のロージーたちがブリッジに入り自分の席に着く。その後から、少し疲れた表情のシンシアがブリッジに入ってきた。
「ロージー、今の聞いてた?」
『……はい、危険度Sの宇宙海賊の襲来と聞こえました』
僕はじっと見つめてくるロージーに、少し笑みを見せるとある決意をする。
「これより迎撃に『『!!!』』……!」
僕が宣言する途中で、ブリッジに警報が鳴り響く!
ロージーたちが慌てて全周確認をすると、船の前方に稲光が突如現れた。
「雷か?」
『若旦那!大変です! ハルマスティの前方の空間に何かが現れようとしています!』
「! ワープアウトか?!」
アシュリーが操作パネルを素早く弄ると答えを導きだした。
『違います! この反応は、時空乱流です! 時空乱流が出現します!』
「こんな時にか!ロージー、エリー、二時方向へ舵を切れ!シンシア、オリビア、宇宙海賊は無視して前方の時空乱流に集中しろ!」
『『『了解!!』』』
そこからはブリッジは戦場となった。
船体シールドはMaxのままで、前方に現れ始めた時空乱流の大きなブラックホールのような穴を何とか回避しようと、エリーは必死に操縦をマニュアルで行っている。
『う~ご~か~な~い~』
『エリー、私も手伝うわ!何とか二時方向へ舵を動かすのよ!』
時空乱流の影響か、船体の周りの空間がおかしくなったのかブースターノズルがピクリとも動かず、方向転換をすることができない。
また、シンシアとオリビアが船体へのダメージ回避を必死におこなっているが姿を現していくたびに時空乱流の引き起こす雷で船体が傷ついていく。
『このままじゃ、船がバラバラになっちゃう!』
『船体内部から、ロボットを使って修復させるわ!だから、シールドで何とか回避をお願い!』
さらに段々と姿を現し、宇宙船『ハルマスティ』を丸ごとのみこもうと迫ってくる時空乱流の穴。
……もはや、抵抗は無駄だった。
艦長席でいろいろと操作しているレオンにアシュリーが声を荒げる。
『若旦那!これ以上は!』
「……ダメだ!のみこまれる………全員、何かにつかまれ!」
宇宙船『ハルマスティ』の船体は、時空乱流の穴へと落ちていくようにのみこまれて行った……。
そしてハルマスティをのみこむと、まるでそこに初めから何もなかったように時空乱流は消え、宇宙空間の静寂だけが残った……。
「……お頭、狙っていた貨物船が消えました」
「……ああ、見ていたから分かる。それよりもこちらに被害は?」
「いえ、接触前で引っ張られませんでしたから無事です」
宇宙海賊船のブリッジで、あ然と外を見ている海賊たち。
さっきまでの光景が、夢でも見ていたように辺りには何もなかった……。
「お頭、さっきのは何ですかい?」
「おそらく、あれが情報屋が言っていた『時空乱流』ってやつだろう」
「情報屋の情報通り、何も残っていませんね……」
お頭と呼ばれた男は、不機嫌そうに艦長席にドカッと座ると命令を出す。
「仕方ない、今日は終いだ!引き上げるぞ!」
「「「へい!」」」
ブリッジにいた部下たちが声をそろえて返事をすると、宇宙船はその場からワープして移動していった。
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