第2話 ミゲル係長
宇宙歴4261年7月9日、積み荷の輸送先である惑星『ニッキ』へ無事到着。
受け取り確認を宇宙港にいるはずの常駐の政府高官にしてもらうため、事務所へロージーと一緒に出掛けることにした。
うちの宇宙船『ハルマスティ』と宇宙港に入るための連結通路で、僕とロージーを見送りに来ていたエリーに指示を出す。
「それじゃあ、僕たちは宇宙港に行ってくるからエリーは積み荷を降ろして倉庫へ運び入れておいてね~」
『お任せください、若旦那!』
エリーは頼られることがうれしいのか、張り切って返事をして船の全体の半分以上を占める後部の貨物室へ意気揚々と行ってしまった。
「……エリー、張り切っているけど大丈夫かな?」
『あの子が張り切ると、必ずどこかでポカをやらかしますからアシュリーにフォローをさせましょう』
「そうだね、ロージー任せるよ」
『では、少々お待ちください』
ロージーは再び船内へ戻っていく。宇宙船『ハルマスティ』には常駐アンドロイドが5体いる。残りは船体整備や荷物運びなどをしてくれるロボットだ。
アンドロイドは感情などがあり人間と変わらない。しかし、ロボットには感情がなく表情もないし命令されたこと以外はしないようになっている。
また、常時稼働中のアンドロイド以外は点検カプセルの中で眠っている。
……全員起きていてもうるさいだけだしね。
少しすると、ロージーがアシュリーを連れて戻ってきた。
ロージーとエリーは同型アンドロイドであるため、髪と目の色以外は大体似ている。大体といったのは、アンドロイド制作会社の『リニシィ』の作るアンドロイドは、同型アンドロイドといえど顔の作りが微妙に違うのだ。
これは『リニシィ』が、同じ人間は一人としていないのにアンドロイドの型が同じなだけで同じ顔はかわいそうだという精神からあえて変えているのだとか。
……こだわり過ぎなんだよね。
アンドロイドのアシュリーは、出来る女性秘書を目的に作られたアンドロイドだ。
そのため女性秘書シリーズの最新型で、父さんが無理して手に入れたらしい。ただ、母さんに問い詰められて僕の秘書ってことで与えられた経緯をもつ。
下心丸出しの父さんの気持ち、わからないでもない。
なにせアシュリーは、5人のアンドロイドの中で一番胸が大きい。
父さんは、この胸にやられたのだろう。
おっと、アシュリーが訝しげな表情をしている。胸を見過ぎたかな。
「アシュリー、エリーが張り切っているみたいだから注意してあげてね」
『分かったわ、私がエリーのフォローに回ればいいのね?』
『そうよアシュリー、エリーが暴走しないようにお願いね』
『任せて』
アシュリーはそういうと、船の後方へ歩いて行く。
これでエリーのことは、アシュリーがうまくフォローしてくれるだろう。
僕とロージーはアシュリーを見送ると、連結通路を通ってニッキの宇宙港へ向かった。
▽ ▽
ニッキの宇宙港で到着の手続きを済ませ、宇宙港内にある取引先の政府事務所へ足を運んだ。
事務所は、到着ロビーから10メートルと離れていない場所にあり事務所内のカウンターで政府高官の担当者を呼んでもらうことに。
「すみません、オーバス運輸のレオンといいます。
係長のミゲル・リーモンドさんを呼んでもらえますか?」
「いらっしゃいませ、係長のミゲルですね?少々お待ちください」
カウンターで応対してくれる受付嬢に呼びだしをお願いすると、すぐに応対してくれる。
この時代、訪ねてきたのが例え子供でも丁寧に対応してくれるのはいいよね。
「レオン様、係長のミゲルはすぐにこちらに参ります。
少々、お待ちください」
「ありがとうございます」
受付嬢にお礼を言って待つこと5分ほどすると、受付カウンターの側の扉が開いてミゲル係長さんが姿を現した。
ぽっちゃり姿で眼鏡をかけた人だ。これで禿げていたらよくいる中間管理職って思っただろう。だが、ミゲル係長さんは禿げていない。
それどころか、まだ若く仕事もできそうな青年に見えた。
「お待たせしました、ニッキ政府輸送部門担当のミゲル・リーモンドです」
「今回こちらに荷物を運びましたオーバス運輸のレオン・オーバスです」
「おお、君が御子息ですか! 確かに受け答えが6歳とは思えないな~」
ミゲルさんは、僕の自己紹介を聞いて感心しているようだ。
「どうも……」
褒められた僕は少し顔が火照るのを感じた。
「今回の運送には御子息が来ると聞いていたから、楽しみにしていたよ。
レオン君のお父さんとは仕事でよく会っていたんだけど、気が合うっていうのかな?それが分かった時からよく飲みに行くようになってね。
今日みたいに、仕事終わりや近くに来た時なんかはよく飲みに行ったね~。
それが、いきなり連絡をしてきてね。
今回はうちの息子が行くからよろしく頼むよってね……」
そうしゃべり倒すと、僕をジッと見つめる。
それにしても、父さんっていろんなところに飲み友達がいるんだな……。
そんなことを考えていると、ミゲルさんはいきなり笑顔になると。
「ん、あの父親の子供には見えない賢さだよな。……母親に似たのかな?」
そう言って声を上げて笑い出した。
父さんは、ミゲルさんと飲んでいるときかなりの醜態をさらしたのかも……。
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